第45話
王立学園、講堂。
始業式の朝は、厳かな空気に満ちていた。
高い天井から差し込む光が、大理石の床を白く照らし、壁に刻まれた戦いの女神ヴァレルトスアの浮き彫りが、見下ろしている。
座席は上級生、在校生、教官、そして参列の貴族たちが整然と並び、新入生は最前列に座っていた。
エリシアは壇上の指定された席に腰を下ろしていた。
隣にはセレスティア王女。
その隣にユーリアン王子。
主席は王女と王子、次席がエリシアという順番だった。
少し離れた参列者席には、アリシエッタとアルフォンスの姿もあった。
母は黒の軍服に銀の飾りを輝かせ、父は控えめにその隣に座っている。
二人はエリシアに気づくと、温かく顔を和らげてきた。
式は粛々と進んだ。
学園長の挨拶に続き、新入生代表としてセレスティアが壇上に上がる。
白銀のドレスに軍服の要素を取り入れた装いが、朝の光を受けて輝いていた。
セレスティアは落ち着いた声で、新入生としての決意を語った。
「皆様方におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。この良き日、暖かな日差しとともに、私ども新入生は王立学園の門をくぐることができました。これもひとえに、女王陛下をはじめとする諸先生方、ならびにご列席の皆様のご指導とご支援の賜物と、心より感謝申し上げます。本日ここに、私どもは王国最高の学舎に迎え入れられたことを、深い喜びとともに受け止めております。この栄えある場所で学ぶ機会を与えられたことに、衷心より感謝いたしますとともに、女神ヴァレルトスアの加護のもと、王国を守る剣と盾となるべく、強い決意を新たにしております。これより私どもは、学業に励み、武術を磨き、互いを高め合う仲間とともに、己を鍛え上げてまいります。いかなる試練にも屈せず、誇り高く、強く、正しく、王国に貢献できる存在となることを、ここに誓います」
力強い言葉。
講堂に拍手が響き渡った。
本来なら、ここで新入生の挨拶は終わるはずだった。
だが――
女王ヴァレリアが、壇上に上がった。
講堂の空気が、一瞬で変わる。
拍手が止まり、会場全体に重い空白が降りた。
ヴァレリアは全員を見渡した。
「新入生の皆さん、そして在校生の皆さん。おめでとうございます」
一呼吸置いて、女王は続けた。
「今日は、もう一つ、嬉しいお知らせがあります」
女王の意味深なまなざしが、エリシアとユーリアンへ向けられる。
ユーリアンはわずかに体を起こした。
普段の控えめな様子とは違い、体をしっかりと起こし、前を向いて、女王を見つめている。
堂々とした――王子としての姿勢だった。
ヴァレリアは告げた。
「主席である我が息子、第一王子ユーリアンと、次席であるエリシア・フォン・グランヴァルトの婚約を、ここに正式に認めます」
講堂が凍りついた。
一瞬の息を潜めたような間の後、ざわめきが広がる。
エリシアは参列者席の母と父を見た。
母は眉を寄せ、父は諦めたような――同じ表情を浮かべていた。
(本当にこの人は……)
エリシアの胸に、同じ言葉が浮かぶ。
女王は拍手を待たず、続けた。
「教育とは義務です。享受できるあなた方には、それに伴う責任があります。この学園は、誰もが平等に、そして残酷に高め合える場所です。互いを競い、成長し、活躍し、真の強者たり得てください。私は、皆さんに大いに期待しています。女神ヴァレルトスアの加護が、あなた方と共にありますように」
講堂に、大きな拍手が沸き起こった。
在校生、上級生、教官、参列者――全員が立ち上がり、拍手を送る。
ユーリアンは立ち上がり、エリシアに会釈した。
セレスティアは隣で拍手に加わっている。
エリシアは立ち上がり、礼儀正しく背を屈めて挨拶した。
(これ、逆ハーレムルートなのかしら)
拍手が鳴り止まない中、始業式は幕を閉じた。




