第42話
王立学園の本館を抜け、たどり着いたのは、学園の敷地内でも最も広い屋外演習場だった。
広大な円形の空間は、周囲を高い石壁と鉄柵で囲まれ、天まで届くような強固な結界が張られている。
外の演習場であるにもかかわらず、結界の淡い光の膜が空を覆い、風も音も完全に遮断しているため、まるで巨大な屋内ドームの中にいるような感覚だった。
エリシアは内心で心の声を上げた。
(おぉ……基地より立派かもしれない)
的は整然と並び、地面には白い線が引かれ、射線を明確に区切っている。
使い込まれているが、丁寧に磨き上げられた新品同様の的と計測器。
王立学園の「本気」を象徴しているようだった。
試験はまず魔法から始まった。
各々が得意とする初級魔法を放ち、的に当てる。
計測器が数値を弾き出し、それをエレーナが淡々と記録していく。
エリシアは他の生徒たちの数値を見て、背中にどっと汗をかいていた。
(まずいまずいまずいまずい)
決して悪い数値ではない。
前線基地で鍛えられた兵士たちと比べても、まずまず――いや、上出来と言えるレベルだった。
ファイヤ・ボールで四千から六千。
ウィンド・カッターで五千前後。
九歳の貴族令嬢たちとしては、十分に優秀だ。
だが、エリシアの基準から見れば――
倍以上、いや、それ以上の差が開いていた。
(抑えなきゃ……絶対に、普通の範囲に収めなきゃ……)
そして、ついにエリシアの番が来た。
白線に立つと、三十人分の視線が一斉に注がれた。
演習場全体を重い空白が支配した。
エレーナは冷静な声で告げた。
「エリシア・フォン・グランヴァルト。ファイヤ・ランスを撃ってみなさい」
周囲がざわついた。
「ファイヤ・ランスって……?」
「中級魔法じゃないか」
「同い年なのに……」
「さすがはグランヴァルト家……」
皆が初級魔法で済ませている中、前線の実戦経験を見せてやれ――という、明らかな要求だった。
辺境伯家の令嬢、王子婚約者。
ここで「普通」を通すわけにはいかない、という無言の圧力。
エリシアに拒否権はなかった。
(せめて……できるだけ、抑えて……!)
深呼吸を一つ。
胸元のブローチを指で触れ、魔力を絞り出すように制御する。
「ファイヤ・ランス」
朱い魔力が収束し、槍の形を取って射出された。
――だが。
火の槍は周囲の魔力を巻き込み、回転しながら加速。
一直線に飛んだそれは、的を軽々と弾き飛ばし、奥の壁に激突。
壁を抉り、結界に衝突して弾け飛び、余波だけで壁の一部を大破させた。
轟音が響き、熱波が演習場を揺らす。
計測器が一瞬強く輝き、表示された数値は――
【三万五千四百十二】
会場が凍りついた。
エレーナの眉が、ぴくっと動いた。
しかし、あくまで冷静を装い、記録する。
「うむ。さすがは前線で鍛えられているだけはある。みなも見習うように」
周りの生徒たちは――
親ですら撃ったことがないような威力の魔法に、目を丸くして驚いてはいた。
だが、どこか「そういうものなのか」と納得したように、ぽつぽつと拍手を送り始めた。
「さすがグランヴァルト家……」
「辺境で竜を討つ家系だもんね」
「王子婚約者だもん……当然か」
誰も疑わない。
エリシアは白線の上で、こっそり息を吐いた。
(……なんとか、なった……?)




