↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操逆転令嬢  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/50

第4話

 エリシアが自分の部屋のベッドでぼんやりと天井を見つめていると、廊下に響く落ち着いた足音が近づいてきた。

 ノックもなく扉が開いた。


 入ってきたのは、凛とした雰囲気三十代の美しい女性――母だった。

 黒を基調とした上品なドレスに身を包み、長い髪を高く結い上げている。

 表情は威厳を湛えていた。


 母はエリシアを見つめると、歩み寄り、ベッドの端に腰を下ろした。

 そして力強くエリシアを胸元へ引き寄せ、その体温で包み込んだ。

「エリシア……目を覚ましてくれて、本当に良かった」


「お母様……はい、もう大丈夫です」


 エリシアがそう答えると、奥から控えめに父――アルフォンスが入ってきた。

 見た目は高校生くらいの若々しい美男子だった。


 父は母の隣に立ち、二人の肩を抱くように手を添えた。

「エリシア……本当に、よく戻ってきてくれた」


 父の声は、かすかに掠れていた。

 そして、母――アリシエッタに顔を巡らせて続けた。

「アリシエッタ……よかったな。……よかった」


 突然の抱擁に、エリシアの体は一瞬強張った。

(血の繋がりのない、他人のはずの人たち)

 少し戸惑いながらも、体が自然と温かくなった。


(これからこの人たちが……私の家族なんだ)


 エリシアは込み上げる優しい感情に包まれながら、両親の背に手を回した。


 アリシエッタがエリシアの髪を撫でながら口を開いた。

「エリシア、本当に長かったわね。もう□□□□からも解放されたのね」

「……?」


「□□□□」という単語が、まるで音声のノイズのように頭の中で歪んで聞こえた。

 意味が掴めない。

 いや、掴めそうで掴めない――言葉として認識はしているのに、内容がスッと抜け落ちていく。


 アルフォンスが続けた。

「これでようやく、グランヴァルトの■■も■■できる」

 まただ。

「■■」という部分が、ゲームのバグのように「■■■■」としか認識できない。


 エリシアは眉を寄せた。

(……この体のオリジナルが知らない単語は、言語化できないのね。ご都合主義な転生スキルに、なんでこんなところにだけ妙なリアリティが残ってるのよ……)


 アリシエッタとアルフォンスは顔を見合わせた。

 アルフォンスが妻の肩に手を置いた。

「エリシアもまだ体調が万全ではない。休ませてあげよう、アリシエッタ」


「そうね……ごめんなさい、エリシア。今日はゆっくり休んで。お話はまた明日、ゆっくりしましょう?」

「……はい。お母様」


 アリシエッタは立ち上がると、扉の近くで控えていたライルに目をやった。

「ライル、夕食はここにお願いね」

「かしこまりました」


 アルフォンスがエリシアの額に口づけ、アリシエッタがもう一度強く体を寄せ合ってから、二人は部屋を出ていった。


 残されたライルが近づいてきた。

「お嬢様、どうぞお休みください」


 促されるままにベッドに横たわると、ライルが丁寧にコンフォーターをかけてくれた。

 柔らかな布の感触と、ほのかなラベンダーの香り。


 エリシアは目を閉じた。

「お時間が参りましたらお夕食をお持ちいたします。それまで、どうぞごゆっくりお休みくださいませ」


 ライルは腰を低く落として、足音を立てずに部屋を去っていった。

 辺りが再び音一つしなくなった。


 エリシアは枕に頬を埋め、部屋に漂うラベンダーの香りを吸い込んだ。

(……明日、ちゃんと話せるかな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。