第34話
さらに上から、別の影が優雅に降りてくる。
ヴィクトルだ。
「ウィンド・ステップ」
地面に触れたと同時に足下に風が渦を巻き、衝撃を殺す。
エリシアは呆然と二人を見上げた。
「……なんで……二人……」
ルイスとヴィクトルが顔を見合わせる。
ルイスが軽く手を振ってみせた。
「勘だな」
ヴィクトルがため息をつきながら訂正する。
「いや、彼女の魔力の匂いがするって言ってただろ」
ルイスが首を傾げた。
「そうだっけ?」
その軽口が、張り詰めていた空気を一瞬で緩めた。
エリシアの腰が抜けた。
その場にへたり込み、膝を抱えるようにして――
「うわああああん!」
過度なストレスが解放され、堰を切ったように涙が溢れた。
嗚咽が漏れ、肩が小刻みに上下を止められずにいた。
怖かった。
本当に、死ぬほど怖かった。
人を殺すのも、殺されるのも。
ルイスとヴィクトルがあわあわと周りを見回す。
どう対応していいか分からず、互いに無言で目配せを交わした。
ルイスが近くにしゃがみ、エリシアの頭をポンと撫でた。
大きな手が髪を梳く。
「よくやったな」
声は低く、どこか照れくさそうだった。
ヴィクトルは倒れた敵に近づき、杖を翳す。
「ライト・バインド」
淡い光の縄が敵の体を縛り上げ、完全に動きを封じた。
冷ややかなまなざしで敵を見下ろした。
「魔法使い相手に三対一とは、我々の立つ瀬がありませんね。本当に」
エリシアが顔を上げた。
涙で視界が滲む。
「三人……ああああ。あと三人中に……!」
会議室の中に、まだ三人の敵がいる。
母様が、お父様が、女王陛下が――
ヴィクトルが余裕たっぷりに口元を緩めた。
そのまま、杖を振る。
「三人なら……大丈夫でしょ」
ルイスが長剣を肩に担いだ。
「だな」




