第29話
前線基地の演習場に、警報の鋭い音が執拗に鳴り続けていた。
リリリリリリリリ!!
エリシアはセレナの腕の中で体を起こした。
「セレナ。王子と王女を、女王陛下の下へ届けます」
セレナは注意を王族の護衛二人――女騎士と男騎士――へ差し向けた。
二人はセレナの無言の促しを受け、女騎士がわずかに眉を上げた。
セレナは告げた。
「演習場から会議室まで、我々で護衛いたします」
女騎士と男騎士は顔を見合わせた。
「「お願いします」」
普段なら王族の護衛を他人に委ねるなどありえないはずだが、今は非常時。
辺境軍の基地内――ここはグランヴァルトの庭だ。
信頼できる者たちに任せるのが最善だと、二人は瞬時に判断した。
セレスティアとユーリアンは、互いに息を詰めたまま固まっていた。
セレスティアは肩が小刻みに上下している。
ユーリアンは体をさらに縮こまらせ、訓練着の袖をぎゅっと握りしめている。
エリシアはセレスティアの手を握った。
「大丈夫です。安心してください。前線の軍は、とっても強いんですよ」
セレスティアは覚悟を決めるように目を閉じ開き、立ち上がる。
ユーリアンも、姉の動きに合わせて体を起こした。
エリシアは周囲を見回し、冷静に指示を出した。
「万が一、敵に見つかった場合、面倒です。王子殿下と王女殿下のお召し物は、ここに置いていきます。訓練着のまま移動しましょう」
セレナが先頭に立つ。
短剣を握り、出口へ向かう。
エリシアがそのすぐ後ろ。
セレスティアの手を握ったまま、ユーリアンの肩に手を置いて促す。
王族の護衛二人は後方を固め、慎重に周囲を警戒しながら続く。
エリシアはセレスティアに囁いた。
「少し急ぎますけど、ついてきてくださいね」
セレスティアが頬を緩めた。
「エリシア、頼もしいわ」
ユーリアンが後ろから、蚊の鳴くような声で続けた。
「……僕も、がんばる」
エリシアは振り返らず、しかし答えた。
「はい、一緒にがんばりましょう」




