第28話
屋内演習場は、いつも以上に熱気に満ちていた。
前線のグランヴァルト辺境軍と、王国正規軍の女性兵士たちが混ざり合い、互いに敬礼を交わしながらも、どこかライバル意識を滲ませた無言の圧を交わしている。
演習場の片側では、両軍の将校たちが円陣を組んで何やら熱心に話し込んでいた。
もう片側では、王国軍の若い兵が最新魔法陣の使い方を質問している。
互いを認め合う空気が同居していた。
エリシア、王女セレスティア、王子ユーリアンは、セレナに案内されて更衣室から出てきた。
三人とも動きやすい黒基調の訓練着に着替え、普段の優雅なドレス姿とは打って変わって、凛とした雰囲気を纏っている。
セレスティアは髪を高く結い上げ、ユーリアンは少し大きめの訓練着の袖を折り返して、手を隠すようにしていた。
セレナが一礼し、奥のターゲットエリアへ三人を導く。
周囲の兵士たちが気づき、ぱらぱらと関心の波が向けられる。
すぐに敬礼の姿勢を取る者も現れ、演習場の空気が一瞬引き締まった。
セレスティアが目を輝かせて言った。
「さあ、エリシア! 魔法を見せて!」
エリシアは少し緊張しながらも、深呼吸して意を決した。
(……加減、加減。絶対に抑えて。「優秀な子」くらいにしか見せちゃダメよ)
右手を翳す。
「ファイヤ・ボール」
朱い魔力が控えめに収束し、掌から普通の拳大の火球が放たれた。
熱波も最小限に抑え、軌道も安定している。
ゴウッ!
火球は一直線に飛び、的を直撃。
計測器が赤い数字を弾き出した。
【五千二百四十】
演習場に「おぉ……!」というどよめきが湧いた。
王国軍の若い兵が感嘆の声を上げる。
「八歳で五千超えか……!」
辺境軍の兵も、にこにこしながら頷き合っている。
セレスティアがぱちぱちと拍手した。
「すごいわ、エリシア!!」
ユーリアンは目を丸くしながら拍手。
「……きれい……すごい」
エリシアは照れくさそうに頬を染めながら小さく会釈した。
「ありがとうございます……このブローチのおかげで、最近やっとこのくらい安定するようになったんです。まだまだですけど」
セレスティアがさらに興奮して身を乗り出す。
「他にも! 他にも見せて!!」
エリシアはもう一度手を翳した。
「ファイヤ・アロー」
五本の炎の矢が優雅な弧を描いて放たれた。
矢は空中で分散し、そして的に向かって正確に収束する。
ドドドドッ!!
計測器が連続で数字を叩き出す。
総威力は単発のファイヤ・ボールと同等程度。
セレスティアが「わーっ!」と跳ねて、両手を握りしめた。
「きれい!! 五本全部がぴったり当たってる!」
ユーリアンは完全に惚けた顔で、口を半開きにしながらエリシアを見つめていた。
瞳がキラキラと輝き、耳の前あたりまで燃えるように染まっている。
「……エリシア、……かっこいい」
周囲の兵士たちからも温かな拍手が上がり、演習場の空気は和やかになった。
セレスティアは興奮を抑えきれず、勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、次は私の番ね! 王家の魔法を見せてあげるわ!」
彼女は迷いのない落ち着きを漂わせて的の前に進み出ようとした。
女騎士護衛が慌てて手を伸ばす。
「王女殿下、それは――」
「大丈夫よ! ちょっとだけだから!」
セレスティアはお構いなしに笑い、右手を前にかざした。
朱い魔力が彼女の掌に渦を巻き始めた。
その刹那――
ジリリリリリリリリ!!
鋭く、耳を劈くような警報が演習場全体に鳴り響いた。
演習場の空気が一瞬で凍りつく。
辺境軍の兵士たちが動きを止め、即座に武器を手に取り、外へと走り出す。
王国軍の女性兵たちもそれを見て、驚きと緊張の表情を浮かべながら後を追った。
女騎士はセレスティアを、男騎士はユーリアンを、それぞれ強く腕で囲って身を低くした。
セレナも素早くエリシアの前に立ち、腕を回して庇うようにその小柄な体を覆い隠した。
「エリシア様。敵襲です」
セレナの声は緊張を帯びていた。
エリシアはセレナの腕の中で、息を吐く。
演習場の喧騒が遠ざかり、基地全体が戦時の空気に包まれていく。




