第26話
前線基地、中央棟の会議室。
エリシアは指定された席に腰を下ろした。
テーブルの木目が冷たく感じられ、部屋の空気は張り詰めている。
後ろではセレナが無言で控え、護衛としての気配を漂わせていた。
扉が重い音を立てて開かれた。
セレナがエリシアの肩に触れ、起立を促す。
エリシアは立ち上がり、視線を入口へ差し向けた。
最初に入ってきたのは両親だった。
アリシエッタはいつもの軍服姿で、アルフォンスは半歩後ろに控える。
それに続いて、基地の高官数名――女性将校たちが整然と入室し、壁際に並んだ。
そして――
第一王女セレスティアが、優雅な足取りで現れた。
白銀のドレスに軍服の要素を取り入れた装い。
その後ろに、第一王子ユーリアンが続いた。
小柄な体を包む淡い青の正装。
最後に――女王ヴァレリアが入ってきた。
黒と銀の軍服ドレスに、長剣を腰に佩いた威厳ある姿。
部屋の空気が一瞬で引き締まる。
エリシアの頭に衝撃が走った。
(えっ!? くるのは王子と王女だけじゃなかったの!?)
女王の視線が、エリシアという存在をまっすぐに捉えた。
エリシアは咄嗟に、穏やかな面持ちを返した。
ぎこちないながらも、礼儀正しく。
女王が上座に腰を下ろすと、皆が一斉に着席した。
高官たちは壁際から椅子を引き、王女と王子は女王の両脇に、両親はその対面に。
エリシアは少し離れた位置に残された席へ。
女王が、部屋全体に響く声で口を開いた。
「この度は、グランヴァルト辺境軍前線基地へ親善訪問させていただきました。忙しい中、誠に恐縮です。辺境で日々国を守ってくださる皆様のお力を、王国軍の者たちにもぜひ体験させていただきたくて。軍事遠征演習も兼ねて、私もついてきてしまいました。どうかご寛恕くださいませ」
言葉は丁寧だが、どこか余裕と威厳が滲んでいる。
アリシエッタが頭を下げた。
「陛下のお言葉、痛み入ります。国のために尽くす者たちにとって、これ以上の励みはございません。どうぞごゆっくりご覧くださいませ」
女王は注意を高官たちの方へ滑らせた。
「では、せっかくですので、ここでの皆様の活躍をお聞きしたいのですけれど……あなたたちには、堅苦しくてつまらないでしょう?」
言葉は子どもたちに向けたものだった。
アリシエッタが口を開いた。
「……でしたら、我が部下に任せて」
女王の表情に、愉しげな余裕がにじんだ。
「アリシエッタの娘さん――エリシアだったかしら? セレスティアやユーリアンと同い年ですものね。話も合うのではないかしら?」
アリシエッタの表情がわずかに硬くなる。
「娘はまだまだ若輩故、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが……」
「いいのよ、アリシエッタ。若いうちにいっぱい失敗させた方が、私の子どもたちのためにもなりますわ」
母は一瞬、言葉を呑んだ。
女王の注がれる圧の先が、まっすぐにエリシアへ移る。
「あなたはどうかしら? エリシア?」
エリシアは肺の動きすら忘れたかのように、その場で時が止まった。
場の中心に集まる重みを王女へ、王子へ、そして母へと順に渡す。
母の目は、語りかけていた。
――断ってもいいのよ。
だが、エリシアは女王の顔を見返した。
口角を上げたその表情に、どこか試すような光を感じた。
「……まだまだ未熟者でございますが、何卒ご容赦くださいませ」
女王がふふふと声を漏らした。
満足げに。
「では、セレスティア、ユーリアン。エリシアと一緒に、別室でお茶会の練習でもしてらっしゃい」
女王が手を上げると、控えていた女騎士と男騎士が前に進み出た。
女騎士は王女の傍らに立つ。
男騎士は王子の後ろに控える。
王女セレスティアが立ち上がり、王子ユーリアンが続く。
エリシアも席を立った。
退出する際、母の存在を見守る気配が自分へ向けられているのを感じて、胸元のブローチに指を触れる。
母は「そうね」といった表情を浮かべ、すぐに女王へ関心の軸を戻した。
セレナが無言で後ろに続き、エリシアは王女、王子、そして護衛たちと共に会議室を出た。




