第25話
一週間後。
そんな予定は、全てひっくり返された。
前線基地の正門前。
朝の冷たい風が、荒野の砂埃を巻き上げていた。
軍靴の鳴り響く音が、すでにすぐそこまで迫っていた。
重く、揃った、圧倒的な行進音。
普段の訓練とは比べ物にならない、異様な緊張感が基地全体を包んでいた。
門前に並ぶのは、アリシエッタとアルフォンス。
母は黒の軍服に銀の飾りを輝かせ、正面を見つめている。
父は補佐官の正装で、母の半歩後ろに控えていた。
二人の表情は明らかに苛立ちと諦めが混じっていた。
「……やられたわね」
アリシエッタが、誰にも聞こえないほど小さな声で吐息に混ぜて言葉を零した。
アルフォンスが応じる。
「やられたね」
注意の向かう先――門の外、荒野の道が続く先に広がっていたのは、
明らかに「親善訪問」の規模ではなかった。
先頭に立つのは、王家の紋章を掲げた豪奢な馬車。
その周囲を、黒と銀の軍服に身を包んだ王国正規軍の女性兵士たちが、完璧な隊列を組んで護衛している。
数は、見積もっても数百。
女王ヴァレリアが同行し、軍事遠征演習を目的に来ているとしたら――ちょうどこのくらいの人数だろう。
馬車の扉には、王家の双剣の紋章。
そして、その馬車を先導するように、女王ヴァレリア本人が馬上からこちらを見据えていた。
隣には第一王女セレスティア。
その後ろに、第一王子ユーリアンが守られるように配置されている。
これは、視察であり、示威であり、そして――
アリシエッタは右手を挙げた。
近くで待機していた女性軍人が、即座に駆け寄る。
「はっ!」
「娘に出てくるよう伝えてください。会議室で待つようにと」
「了解しました!」
女性軍人は敬礼し、踵を返して基地の奥へと走っていった。
アリシエッタが拳を握りしめた。
「……この貸しはデカいわよ、女狐め」
声は小さかったが、確かな怒りと、どこか懐かしい友情の響きが混じっていた。




