第23話
次の日、ヴィクトルが朝早くから外出許可を申請し、ルイス、セレナ、エリシアの四人は再び森へと足を踏み入れた。
ルイスとセレナは周囲を鋭く警戒しながら先頭と後方を固めていた。
ヴィクトルは杖を振りながら、落ち着いた声で言った。
「魔力量の調整も大事だけど、今の君には魔力指向で分散させる練習の方が勉強になる。複数の対象を同時に捉え、コントロールする感覚を掴んでほしい」
そう言って、ヴィクトルは右手を翳した。
「ファイヤ・アロー」
朱い魔力が収束し、十数本の火の矢が放たれる。
矢は木々の隙間を縫うように正確に飛び、遠くの木幹に突き刺さって爆発を起こした。
炎が一瞬だけ閃き、煙がゆらりと立ち上る。
ヴィクトルは満足げに頷いた。
「これくらい分散させて、コントロールできれば十分だ。まずは五本くらいから始めてみて」
エリシアは心の中で集中を整えた。
(シャワーヘッドみたいにイメージすれば、やりやすいかな……)
「ファイヤ・アロー」
エリシアの周囲に、百を超える火の矢が一斉に現れた。
朱い光の雨が降り注ぐように、矢が放射状に広がり、森の奥へと飛んでいく。
「あわわわわ!」
エリシアは慌てて叫んだ。
全ての魔力線を同時に感じ取り、頭の中で制御しようとする。
混乱が頂点に達しそうになったその時――ヴィクトルがすぐ横で、落ち着いたが力強い声をかけた。
「イメージして! 敵の魔力を感知するんです! 一つ一つを意識しすぎず、全体を包むように!」
ルイスも前方から振り返り、晴れやかな空気をまとって大声を張り上げた。
「なんとなくそこにいるって、そう思うだけで十分だ! お前ならできるって!」
二人の声が、エリシアの耳にしっかりと届いた。
(……イメージ、感知、なんとなく……!)
混乱しながらも、体が勝手に操作の仕方を教えてくれる。
脳みそがキャパシティオーバーになりそうだったが、二人のサポートがきっかけとなり、矢の軌道が徐々に安定していく。
矢は木々の隙間を完璧に縫い、茂みに隠れていた小型の魔獣たちを次々と襲った。
ゴウッ、ゴウッ、と連続する爆発音。
煙が立ち上り、焦げ臭い匂いが森に広がる。
魔獣の断末魔が一瞬だけ響き、すぐに周囲を深い静けさが覆った。
ルイスがぽかんと口を開けて、感嘆の声を上げた。
「おー、すげー……バケモンじゃん」
ヴィクトルがルイスを睨む。
「ルイス。口説くなら昨日済ませておきなさい」
ルイスが慌てて手を振った。
「いや、今のはそういう意味じゃなくて!」
ヴィクトルはエリシアへと顔を向け直し、真剣な声で言った。
「エリシア。今のは誰でもできるというものではない。君だけの特別だ。今日この日に出会えたことを、神に感謝しているよ」
ルイスがひゅーと口笛を吹いた。
「お前も口説いてんじゃん!」
「ルイスッ!」
ヴィクトルが顔を赤らめながら、炎の玉をルイスに向かって放つ。
ルイスは笑いながらそれを剣で叩き落とし、木々の間を走り回って逃げる。
二人の追いかけっこが、森に軽やかな笑い声を響かせた。
セレナがエリシアの肩をポンと叩いた。
「いい友達ができましたね、お嬢様」
エリシアは少し照れながら、森の奥に消えていく二人の背中を見つめた。
「友……そうですね」
優しい充足感が体を満たした。
この世界に来てから、初めて「友達」と呼べる存在ができた気がした。
森の風が吹き、木の葉がざわざわと揺れる。
訓練はまだ続く。
だが、エリシアの心には、もう少し違う光が灯り始めていた。




