第22話
前線基地は、まるで祭りのような大宴会モードに突入していた。
きっかけは、四人で討伐したグレートウルフの群れ。
そしてエリシアが放った炎魔法によって「偶然」巻き込まれて焼け死んだ大量の魔獣たちだった。
報奨金が予想外の額になり、セレナが「一人勝ちは遺恨を残します」と冷静に言い、ルイスとヴィクトルに一部を分配。
残りを「デビュタント記念式典」という名目で宴会費用に充てたのだ。
女性軍人たちは「総指揮官の娘を祝いたい!」という熱い思いを爆発させ、基地全体がお祭り騒ぎに。
無礼講も宣言され、広場では即席の土俵が作られていた。
「よーし、次!」
「負けたら一杯おごりな!」
訓練着のままの女性軍人たちが、がっしりとした体をぶつけ合い、土俵に響く掛け声と笑い声が夜空にこだまする。
時折、負けた方が男性補佐官を指差して「男も行って来いよ!」と野次を飛ばし、渋々土俵に上がった男性軍人たちが、余裕で転がされていく姿も見られた。
男相手の時だけどこか取り組みが長引いているような気がした。
女性たちはわざと力を抜いているのか、それとも楽しんでいるのか、男性を優しく土俵の外へ押し出す。
転がされた男性たちは顔を赤らめながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
広場の少し離れたテーブルでは、もう少し積極的な口説きモード。
「ねえ補佐官殿、今日は無礼講なんだからさあ、こっち来てよ」
ベテラン女性軍曹が若い男性の肩に手を置き、耳元で囁く。
「前に演習で私が援護したとき、すごく頼りない顔してたよね。あれからずっと気になってたんだよ〜」
周りの女性たちが「うおおお!」と囃し立て、男性は真っ赤になりながらも、観念したように受け入れた。
「わ、わかりました……でも飲み過ぎないでくださいね」
そして、さらに奥の灯りが少し落とされたテーブルでは、もっとしっとりとした時間が流れていた。
長年の戦友同士らしい女性軍人と男性補佐官のカップルが、肩を寄せ合って酒を酌み交わしている。
女性の方が少し酔った様子で、相手の髪を撫でながら小声で囁く。
「……お前、最近また痩せたんじゃないか。ちゃんと飯食ってる?」
男性は照れくさそうに笑い、彼女の手を握り返す。
「心配しすぎだよ。お前が前線で無茶する方がよっぽど心配なんだから」
「ふん……私に黙って守られてればいいのよ」
二人は顔を見合わせて、笑い合う。
周りの喧騒が少し遠く感じられるくらい、二人だけの時間がそこにあった。
そんなさまざまな「無礼講」の形が、基地の夜を彩っていた。
エリシアはそんな様子を少し離れたテーブルから眺めていた。
(……すごい……大人だ)
アリシエッタが、エリシアの横に腰を下ろした。
「いい人たちでしょ?」
「はい。まさかこんなに祝っていただけるとは」
「ずっとピリピリしていましたからね。何か発散できる機会が欲しかったんだと思うわ。エリシアには感謝しないとね」
「ですが、少々やりすぎてしまいました」
「いいのよ。『自由に』なんでしょ?」
「……ほどほどにしておきます」
すると、アルフォンスがエリシアを挟む形で座ってきた。
「遅れてしまったね。ようやく仕事が収まったよ」
「お疲れ様」
「お父様、お疲れ様でした」
セレナが手際よく、父にお酒の入ったジョッキを渡す。
「ありがとう、セレナ」
母がジョッキを父に向け、乾杯した。
「エリシアに」
「エリシアに」
二人は一気に飲み干す。
父が心地よさそうに息をついた。
「はぁ……染みるねぇ。エリシアに感謝だな」
「またいっぱい狩ってきますね」
「ははは。毎日これじゃあ仕事にならないよ」
「お父様はもう少し休まれてもよいと思います」
父がエリシアの頭を撫でる。
「エリシアは父想いのいい子だなぁ。アリシエッタに似たのかなぁ?」
アリシエッタが片眉を上げた。
「基地ですよ、アルフォンス」
「今日は無礼講だろ?」
「お酒はほどほどにしてね」
エリシアは二人のやり取りを見て、温もりが体を包んだ。
「お二人が仲良しで、私はとても嬉しいです」
母が口元を緩めた。
「そうね。私もエリシアが嬉しくて嬉しいわ」
父も同意した。
「僕もだ」
遠くの土俵では、まだ相撲の歓声が響いている。
基地の夜は、温かく、賑やかに更けていった。




