第19話
三人は屋外の魔法練習場へと移動した。
ヴィクトルが的から約二十メートル離れて立った。
「総指揮官が炎を得意としていたから、炎からで良いかな?」
そう言って、ヴィクトルは右手を翳す。
「ファイヤ・ボール」
朱い魔力が収束し、拳大の火球が勢いよく飛び出し、的を直撃した。
轟音とともに炎が爆ぜる。
ヴィクトルは満足そうに頬を緩めた。
「これが炎の玉を出す基本魔法ね。やり方は――」
エリシアは少し申し訳なさそうに口を挟んだ。
「それはもう撃てます」
「……え? 神儀受けたばっかりだよね? あぁ、そのブローチのおかげなのかな?」
エリシアは父からもらった魔力増幅ブローチを指で触れた。
(お父様。これ、便利だわ……)
「ファイヤ・ボール」
そして、手を翳すことすらせず、ただ一点を射抜くように宙に炎の球を生み出す。
ゴウッという低い音とともに、バスケットボール大の巨大な火球が現れ、轟音を立てて的へ飛んだ。
ドゴォォォン!!
的が一瞬で蒸発し、奥の防護壁に大きな亀裂が入る。
熱波が演習場全体を揺らし、遠くの石壁にまで焦げ跡が広がった。
ヴィクトルは完全に固まった。
口が半開きで、目が点。
ルイスも横で同じ表情。
エリシアは少し慌てて手を振った。
「あ、あの! 力の加減がまだ――」
ヴィクトルは顔を覆い、額に手を当てたまま肩をわずかに落とした。
「……今日の授業は終わりとします」
エリシアの声が上ずる。
「ええええええ!?」
ヴィクトルは肩を落とした。
「いや、明日以降も終わりかもしれない……」
ルイスがヴィクトルの肩を叩く。
「な? 言ったろ」
エリシアは木剣を握ったまま、ちょっと寂しそうに二人を見上げた。
「……ごめん、加減がまだわからなくて」
その素直な言葉に、二人は顔を見合わせた。
今日の訓練は、予想外に早く終わった。
だが、これは始まりに過ぎなかった。
エリシアの力は、まだ誰にも制御できないほどに膨れ上がっていることを、二人はまだ完全に理解していなかった。




