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貞操逆転令嬢  作者: 川合 佑樹


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第18話

 三人は笑い合いながら、剣の練習場の一角へと移動した。


 広大な訓練場の端、木製の人型がいくつも並ぶ区画だ。


「ちょっと待っててくれ。道具取ってくる」

 ルイスがそう言って、訓練場の隅にある武器庫の方へ小走りで向かう。


 数分後、ルイスが木剣を三本抱えて戻ってきた。

 どれも訓練用に作られているが、握りの部分は使い込まれて黒ずんでいる。


「エリシア、ほら」

 一本をエリシアに手渡す。

 残りの一本を、放り投げた。


 ヴィクトルが片手で受け止めた。

「なんで僕も」


「俺だとやりすぎちまうかもしれないだろ? ヴィクトルもたまには体動かせって」


 ヴィクトルはため息をつきながら、エリシアの方を見た。

 その表情がわずかに和らぐ。

「今日だけだからね」


 ルイスは的の前に歩み寄る。

 ルイスは的から、およそ一歩半ほど距離を取って立ち止まる。

 切りつけるには最適な、息の届く距離。


 ルイスは予備動作を一切排した一刀を加える。

 ズブッ。


 木剣の先端が、的の左腋の下を正確に貫いた。

 引き抜くと同時に、剣の柄頭で顎を掌底打ち。

 続けて、足を払うように二度、脚を撫で斬りにする。

 そして距離を取った。


 流れるような一連の動作は、まるで舞のようだった。


「今のをやってみろ」


 ルイスはエリシアを手招きする。


 エリシアが近づくと、ルイスは補足した。

「相手は鎧を着ていると想像しろ。腋の甘さを突くんだ。その後、顎への掌打で姿勢を崩し、脚を切りつけて継戦能力を削ぐ。とりあえず、これが基本だ」


 エリシアは木剣を握りしめ、的を真正面から睨みつけた。

(見様見真似で、やってみるか)


 一歩踏み込む。

 木剣が空気を裂いた。

 バギィィィィィッッ!!


 衝撃波が訓練場の床を震わせ、木製の人型が腋の下から放射状に爆ぜ飛んだ。

 木片が嵐のように飛び散り、革の装甲片がビュンビュンと周囲の壁に突き刺さる。


 埃と木屑が舞い上がり、近くで訓練していた女性兵士たちが「うわっ!?」と悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。


 周囲に一瞬、声も音も途切れた。


 エリシアは木剣の先端を見て、ぽかんとする。

「……あれ?」


 ルイスが完全に固まった。

 口が半開きで、目が点。


 ヴィクトルも、初めて見るくらいの表情で眉を吊り上げている。

「……えー?」


 エリシアは少し困ったように口元を緩めた。

「えーと、ルイスの攻撃でヒビでも入ってたのかな?」


 ルイスは首を横に振る。

「いや……だとしてこんなになるわけねーだろ……」


 ヴィクトルが手を翳す。

「リペア」


 淡い光が的を包み、木片が集まって元通りになる。

「もう一回やってみたらいいよ」


 エリシアは再び剣を構えた。

 今度は力を抑えようとした。

(少しだけ、ほんの少しだけ……)


 ――が、体が勝手に本気を出した。

 バギィィィィィィッッ!!!


 今度は前回以上に派手だった。

 的が腋の下から真っ二つに割れ、上半身が後方へ吹っ飛び、壁に激突してさらに粉砕。

 衝撃で床に亀裂が入り、周囲の空気がビリビリと鳴動した。


 木屑の嵐が再び巻き起こり、遠くで訓練していた兵士たちが一斉に振り返った。

「何だ今の爆音!?」

「誰だ! ここで魔法撃ったの!」


 ルイスが完全に言葉を失った。


 ヴィクトルは木剣をルイスに押し付け、踵を返す。

「剣の訓練は二人でよろしく」


 背中が「絶対に関わりたくない」と言っていた。


 エリシアは木剣を握ったまま、申し訳なさげに口元を緩めた。

「……ごめん。力の加減が、まだよくわからなくて」


 ルイスは頭を掻いた。

「いや……俺の方こそ、的当ては一旦中止にするか」


 エリシアは木剣を握りしめたまま、少し困ったように見上げる。

「……あの、次は打ち合いでもしますか?」


 ルイスは振り返り、慌てて手を振った。

「いやいや! 今日はやめとこうか! ……うん、絶対にやめとこう」


 そう言って、ルイスは逃げるようにヴィクトルの下へ小走りで向かう。


 ヴィクトルはすでに訓練場の端で腕を組み、遠くの壁を見つめていた。

「ヴィクトル! お前も何か言えよ!」


 ヴィクトルは口元に苦笑を浮かべた。

「なんだ、もう終わったのか?」


「今日はもう教えることがないわ」


 エリシアはその言葉に、少し残念そうな顔をした。

(せっかくだから、もっと学びたかったなぁ)


 ヴィクトルはエリシアの表情に気づいたのか、どこか慈しむような気配を宿して口を開く。

「神様から特別な加護を受けているのかな? 既に英雄級の力は持ってそうだもんね」


 エリシアはその発言に、ハッとした。

「そ、そんなことない! まだまだ!」


 ヴィクトルは手を上げた。

「それじゃあ次は魔法を練習しようか。剣は……まあ、僕らじゃ相手にならないみたいだし」


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