第17話
前線基地の広い廊下を、アルフォンスとエリシアは並んで歩いていた。
周囲を行き交う女性軍人たちが、敬礼しながら通り過ぎていく。
その好奇と温もりを宿したまなざしは、エリシアの背中へと静かに注がれていた。
やがて二人は、訓練場の入り口に隣接した更衣室の前で足を止めた。
「ここで訓練着に着替えておくれ。僕は外で待っているよ」
アルフォンスが優しく目元を細めた。
エリシアは頷いて更衣室に入り、用意されていた訓練着に着替えた。
更衣室から出ると、アルフォンスが壁に寄りかかって待っていた。
エリシアの姿を見るなり、笑みを深くした。
「似合っているよ、エリシア」
「ありがとうございます、お父様」
「そうだ、これを」
アルフォンスはポケットからブローチを取り出した。
エリシアの前にしゃがみ込み、胸元に留める。
「お父様、これは?」
「ただのブローチだよ。でも、みんなには魔力を増幅する魔道具だと伝えてある。過保護な両親だと思ってもらおうと考えてね。これで気兼ねなく魔法が撃てるだろ?」
エリシアは目を輝かせた。
「はいっ! ありがとうございます!」
二人はそのまま訓練場へと足を踏み入れた。
広大な屋内訓練場は、朝の演習時間帯ということもあり、すでに数十人の女性軍人が汗を流していた。
剣の打ち合う音、魔法の爆発音、そして掛け声が響き合い、活気に満ちている。
エリシアが現れると、訓練中の無数の視線が一斉にこちらへ集まった。
そんな中、訓練着に着替えたルイスとヴィクトルが立っていた。
アルフォンスは二人を見て言った。
「それでは任せたよ。夕方には迎えに来る」
「「はっ!」」
二人が声を揃える。
父が去っていく背中を見送ってから、ルイスが明るく口を開いた。
「エリシア様! 私が剣を、ヴィクトルが魔法を担当させていただきます!」
エリシアは少し照れながら言った。
「ありがとうございます。でも、様付けは必要ありません。仲間のように接していただけると嬉しいです」
ルイスがぽかんとした顔をした。
ヴィクトルが口元を緩め、隣のルイスを肘で突いた。
「ルイス、すでに一本取られたね。総指揮官の娘だからって手を抜くなってさ」
エリシアは真剣な目で二人を見つめた。
「母の望みは、私が強くなることです。そのために、どうか本気でよろしくお願いいたします!」
ルイスは一瞬目を丸くして、それから少し照れくさそうに頭をかいた。
「ったく……わかったよ。じゃあ、そっちもそういうのなしだ」
エリシアは首を傾げた。
「そういうの……?」
ヴィクトルが冷静に指摘する。
「敬語、まだ抜けてないよ?」
エリシアは白い肌の一角にかすかな朱を浮かべ、感情の高まりを静めてから言った。
「……よろしく、頼む」
ルイスが口角を上げた。
「あぁ、頼まれた!」




