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記憶を取り戻して転生したら、そこはかつてプレイしたゲームの世界でした〜5人パーティを組みたい俺と、二人きりがいい女戦士  作者: 夢芝居


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第6話:ミスリルの輝きと、深紅のドレス

第6話:ミスリルの輝きと、深紅のドレス


 ヴォルカノ火山。


 その名を聞くだけで、フォルトックの冒険者たちは顔をしかめる。


 灼熱の溶岩が大地を赤く染め、地底から噴き上がる蒸気が視界を奪う。


 足場は不安定で、一歩踏み外せば奈落へ落ちる。


 さらに、そんな極限環境をものともしない魔物たちが巣食っている。


 炎を纏う狼。


 溶岩の殻を持つ甲虫。


 岩石の身体を持つ巨人。


 そして、その最奥に存在していた守護者――。


 あのオークとの戦いは、正春にとってもレンカにとっても、決して忘れられないものになっていた。


 だが。


 そんな死地から、二人は生きて帰ってきた。


「……疲れたな」


 フォルトックへ続く街道を歩きながら、正春は大きく息を吐いた。


 足が重い。


 身体のあちこちが痛む。


 肩には、ヴォルカノ火山から持ち帰った素材が詰め込まれた大きな袋が食い込んでいる。


 さすがに今日は休みたい。


 そんな正春の隣で、レンカが笑った。


「何を言っている。あれくらいで疲れていたら、これから先が思いやられるぞ」


「いやいや、あれくらいって……」


 正春は呆れた顔でレンカを見る。


「溶岩の中から飛び出してきたオークと戦ったんだぞ?」


「そうだったな」


「しかも、あいつに何度も吹き飛ばされた」


「そうだった」


「最後なんて、俺たち二人とも死ぬかと思った」


「……それもそうだった」


 レンカは少しだけ考えてから、肩を竦めた。


「なら、疲れて当然か」


「そうだよ」


「ふふっ」


 レンカは楽しそうに笑った。


 しかし。


 その顔にも疲労は隠しきれていなかった。


 長い赤髪には火山灰が付着し、頬には小さな擦り傷がある。


 腕にもいくつかの傷。


 戦闘用の衣服はところどころ焦げており、布が裂けている部分まであった。


 正春も似たようなものだった。


 上着には焦げ跡。


 靴底には溶岩によって溶けた跡。


 手には包帯。


 それでも二人は歩いていた。


 目の前には、フォルトックの巨大な城壁が見えていた。


「……帰ってきたな」


 正春が呟く。


「ああ」


 レンカも街を見つめる。


 フォルトック。


 岩の砦を意味する名を持つこの街は、巨大な岩山を利用して築かれている。


 街を囲む城壁はまるで巨大な要塞そのもの。


 外敵の侵入を防ぐために何重もの防壁が設けられ、門の両脇には常に武装した兵士が立っている。


 しかし、そんな物々しい外観とは裏腹に、街の中は活気に満ちていた。


 門をくぐった瞬間。


 様々な音が二人の耳へ飛び込んでくる。


「新鮮な肉だ! 今日仕入れたばかりだぞ!」


「鉄鉱石ならこっちだ!」


「魔石を買い取ってくれる店はこっち!」


「宿なら空いてるぞ!」


「誰か治癒魔法を使える奴はいないか!」


 商人の声。


 冒険者たちの声。


 鍛冶屋から響く金属音。


 酒場から漏れてくる笑い声。


 それらすべてが、二人に帰還を実感させた。


「やっぱり街はいいな」


 正春が言う。


「火山にいると、何をしていても暑かったからな」


「レンカは平気そうだったけど」


「私は暑さには強い」


「そうなのか?」


「赤髪だからな」


「それ関係ある?」


「知らん」


「知らないのかよ」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 そんな何気ない会話ができること。


 それだけで、正春は少し嬉しかった。


 ヴォルカノ火山では、常に死が隣にあった。


 一歩間違えば死ぬ。


 一瞬判断を誤れば死ぬ。


 そんな場所から帰ってきた今だからこそ、当たり前の日常がひどく大切に感じられた。


「まずは鍛冶屋だな」


 正春が言う。


「ああ」


 レンカが頷く。


「アレックスがどんな装備を作るのか楽しみだ」


「俺もだよ」


 二人はそのまま街の中心部へ向かった。


 向かう先は、二人が何度も世話になっている鍛冶屋だった。


 大通りから一本外れた場所。


 そこには、煤けた石造りの建物があった。


 看板には、簡素に剣と金槌が描かれている。


 建物の中からは、一定の間隔で金属音が聞こえていた。


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 まるで店そのものが鼓動しているようだった。


「親父さん、いるかな」


 正春が言う。


「いるだろう」


 レンカは即答した。


「あの男が仕事を休んでいるところなど、私は見たことがない」


「それもそうか」


 正春は扉へ手をかけた。


 その瞬間。


 中から怒鳴り声が響く。


「そこだ! もっと強く叩け!」


 カンッ!


「違う! 角度が甘い!」


 カンッ!


「もっとだ!」


 カンッ!


「……相変わらずだな」


 正春は苦笑した。


 そして扉を開く。


「親父さん、頼まれていた素材を持ってきたよ!」


「おう!」


 奥から野太い声が返ってきた。


「……って、誰だ!」


 次の瞬間。


 大柄な男が姿を現した。


 肩幅は広い。


 腕は丸太のように太い。


 額には汗。


 顎には濃い髭。


 右手には使い込まれた金槌が握られている。


 彼の名はアレックス。


 フォルトックでも名の知れた鍛冶師だった。


 十年以上、鍛冶職人として生きてきた男。


 武器、防具、盾、工具。


 金属を扱うものなら、ほとんど何でも作れる。


 そして何より、素材を見る目が確かだった。


「おう、正春か!」


 アレックスは豪快に笑った。


「無事だったか!」


「ただいま」


「ヴォルカノ火山へ行ったって聞いたからな。てっきり焼け死んで帰ってこないかと思ってたぜ!」


「縁起でもないこと言わないでよ」


「ははは! 冗談だ!」


 アレックスが笑う。


 その視線がレンカへ向く。


「嬢ちゃんも無事だったか」


「ああ」


 レンカは堂々と頷いた。


「少々熱かったが、問題ない」


「問題ないって顔じゃねえけどな」


 アレックスはレンカの腕に残った傷を見る。


「それに、その服……」


「これは戦闘用だから問題ない」


「いや、問題あるだろ。ボロボロじゃねえか」


「……」


 レンカが服を見る。


「確かに」


「確かにじゃねえよ」


 アレックスは呆れたように笑った。


 しかし。


 次の瞬間。


 彼の視線が二人の背負っている袋へ移った。


「……おい」


 アレックスの表情が変わる。


「その袋……」


「ん?」


「まさか……」


 正春は頷いた。


「頼まれていた素材だよ」


「……本当に持ってきたのか?」


「ああ」


 正春は袋を床に置いた。


 ズシンッ。


 店内の床がわずかに震える。


「重っ……」


 アレックスが眉を上げる。


「おいおい。何を入れてきたんだ?」


「開けるよ」


 正春が袋を開いた。


 その瞬間。


 店内に淡い銀色の光が広がった。


「…………」


 アレックスの顔から笑みが消える。


 目が大きく見開かれた。


「こいつは……」


 正春が取り出したもの。


 それは、鈍い銀白色の輝きを放つ鉱石だった。


 表面には細かな光が走っている。


 ただの銀ではない。


 鉄でもない。


 魔力を帯びた特殊金属。


「ミスリル……!」


 アレックスが呟いた。


 次の瞬間。


 彼は鉱石を両手で持ち上げた。


「間違いねえ……」


 声が震えている。


「しかも……」


 彼は表面をじっくり観察する。


 小さな鑑定器具を取り出し、ミスリルへ当てる。


 魔力を流す。


 鑑定器具が青白く光った。


「……嘘だろ」


「どうした?」


「純度が高すぎる」


 アレックスの声が低くなる。


「普通のミスリルは、こんなに綺麗じゃねえ。不純物がかなり混ざってる。だから加工にも技術が必要になる」


 彼は鉱石を持ち上げる。


「だが、これは違う」


 光を当てる。


 銀白色の鉱石が淡く輝く。


「ほとんどそのまま加工できる」


「そんなにすごいのか?」


「すごいどころじゃねえよ!」


 アレックスが叫んだ。


「こんな上物、俺だって何年ぶりに見るか分からねえ!」


 彼の目が輝いている。


 まるで少年のようだった。


「これなら……」


 アレックスはミスリルを見つめながら呟く。


「最高の防具が作れる」


 その言葉に、正春も期待が膨らんだ。


「頼めそうだな」


「ああ」


 アレックスは力強く頷いた。


「任せろ」


 次に正春が取り出したのは、巨大な厚革だった。


「これも」


「……オークの革か?」


「守護者のオークだ」


「守護者……?」


 アレックスの目がさらに鋭くなる。


「なるほどな」


 彼は革を手に取った。


 強く引っ張る。


 びくともしない。


 さらに指先で表面を叩く。


 ドンッ。


 乾いた音が響いた。


「すげえ」


「やっぱりいい素材か?」


「ああ」


 アレックスは頷く。


「普通のオーク革じゃねえ。長い年月、強い魔力を浴び続けた革だ」


 さらに骨も確認する。


「骨も使える」


「何に?」


「補強材だ。ミスリルだけじゃ硬すぎる。オークの骨を適切な形に加工して組み込めば、防具の強度をさらに上げられる」


「なるほど」


「ただし……」


 アレックスは正春を見る。


「お前、本当にこいつら倒したのか?」


「レンカと二人で」


「……」


 アレックスはレンカを見る。


 次に正春を見る。


 そして大きく息を吐いた。


「お前ら、少しずつ化け物になってきてねえか?」


「失礼だな」


 正春が苦笑する。


「褒めてるんだよ」


「ならいいけど」


 アレックスは笑った。


「よし。これなら最高の装備を作れる」


「正春には鎧を」


 レンカが口を挟む。


「私には盾を頼みたい」


「ああ。分かってる」


 アレックスは腕を組んだ。


「正春には軽装鎧だ」


「軽装?」


「お前の戦い方を見る限り、重装備は向いてねえ」


「確かに」


「防御力だけを上げるんじゃなく、動きやすさを残す。ミスリルを薄く加工して、オーク革を裏側に使う」


 アレックスの頭の中では、すでに設計図が出来上がっているようだった。


「胸部と肩はミスリルで守る。関節部分は革で補強する。腰回りも動きを邪魔しないようにする」


「それなら助かる」


「そして嬢ちゃんには盾だ」


「私に?」


「ああ」


 アレックスはレンカを見る。


「嬢ちゃんは前に出すぎる」


「……否定できない」


「敵の攻撃を受け止めて、そのまま殴り返す戦い方だろ?」


「ああ」


「なら、大盾じゃ動きが鈍る」


 アレックスはミスリルの一部を指差した。


「小型から中型の盾にする。表面にミスリル、内部にオークの骨を使う」


「軽いのか?」


「普通の鉄盾より遥かに軽い」


 レンカの目が輝く。


「それはありがたい」


「ただし、普通の盾じゃねえ」


 アレックスが笑った。


「ミスリルは魔力伝導率が高い。嬢ちゃんが魔力を流せば、衝撃を分散できるようにしてやる」


「そんなことができるのか?」


「俺を誰だと思ってる?」


 アレックスは胸を張った。


「フォルトック一の鍛冶師だぞ」


「自分で言うんだな」


「言っていいんだよ!」


 店内に笑い声が響く。


 しかし、そこで正春は財布のことを思い出した。


「そういえば、製作費はいくらになる?」


「……」


 アレックスが黙った。


「どうした?」


「いや……」


 アレックスは頭を掻く。


「普通なら、とんでもない額になる」


「だよな」


 正春は苦笑した。


「ミスリル加工なんてしたことないし」


「そりゃそうだ」


 アレックスはミスリルを見る。


「素材だけでも高い。加工には専用の炉が必要だ。普通の鍛冶師なら手を出さねえ」


「じゃあ、いくらくらい?」


「……」


 アレックスは少し考えた。


「そうだな」


 そして。


「今回はいらねえ」


「え?」


 正春が目を丸くした。


「製作費はいらねえ」


「どうして?」


「このミスリル、少し余るだろ?」


「ああ」


「その余りを俺に譲ってくれ」


 正春は驚いた。


「それだけ?」


「ああ」


 アレックスは笑った。


「職人としては、それで十分すぎる」


 彼はミスリルを見つめる。


「こんな上質な素材を、自分の手で加工できるんだぞ?」


 その瞳は輝いていた。


「俺はな、一度でいいから最高品質のミスリルを打ってみたかったんだ」


 正春は少し黙った。


 そして笑った。


「じゃあ決まりだ」


「本当か?」


「うん」


「よし!」


 アレックスが拳を握る。


「最高の装備を作ってやる!」


 レンカも嬉しそうに笑った。


「期待しているぞ」


「任せろ」


 アレックスは二人へ向き直る。


「ただし、一つ条件がある」


「何?」


「三日だ」


「三日?」


「ああ。完成まで三日待ってくれ」


 アレックスは真剣な顔になった。


「急いで作れば、それだけ素材を傷める」


「なるほど」


「ミスリルは生きた金属だ。温度、打ち方、冷やし方。全部が重要になる」


 彼は金槌を握った。


「一度失敗したら、取り返しがつかねえ」


「分かった」


 正春は頷く。


「三日後に来るよ」


「おう!」


 アレックスは満面の笑みを浮かべた。


「楽しみにしてろ!」


 こうして、二人は鍛冶屋を後にした。


 外へ出る。


 昼のフォルトックは、相変わらず賑やかだった。


「三日か」


 レンカが呟く。


「ああ」


「装備が完成するまで、どうする?」


「まずは休もう」


「休む?」


「ヴォルカノ火山から帰ってきたばかりだぞ」


「そうだったな」


 レンカは少し考える。


「では宿で休むか?」


「その前に……」


 正春は懐を探った。


 まだミスリルの欠片が残っている。


「これを売ろう」


「なるほど」


 二人は冒険者ギルドへ向かった。


 フォルトック冒険者ギルド。


 扉を開けた瞬間、二人は大勢の冒険者たちに迎えられた。


「おっ、正春じゃないか!」


「戻ってきたのか!」


「ヴォルカノ火山はどうだった?」


「聞いたぞ! 最奥まで行ったんだって?」


 次々と声が飛んでくる。


 どうやら二人の冒険は、すでに街で噂になっているらしい。


「大変だったよ」


 正春が笑う。


「でも生きて帰ってきた」


「それが何よりだ!」


「レンカも無事か?」


「当然だ」


 レンカが胸を張る。


「私はまだまだ戦える」


「さすがだな!」


 笑い声が起こる。


 そんな中。


 正春は受付カウンターへ向かった。


「ミスリルの買い取りをお願いしたい」


「……ミスリル?」


 受付嬢が瞬きをした。


「はい」


「ミスリル……ですか?」


「これです」


 正春が小さな欠片を置く。


 受付嬢はそれを見つめる。


 最初は何でもない顔だった。


 だが。


 次第に表情が変わっていく。


「……少々お待ちください!」


 受付嬢が鑑定器具を取り出す。


 魔力を流す。


 鑑定器具が淡い青色に光った。


「……ミスリル」


 受付嬢が呟く。


「間違いありません」


「いくらくらいになります?」


「えっと……」


 受付嬢は何度も確認する。


「純度が……非常に高いですね」


「高い?」


「はい」


 受付嬢は奥へ走っていった。


 しばらくすると、ギルド職員が何人か集まってきた。


「どこで手に入れた?」


「ヴォルカノ火山です」


「最奥まで?」


「はい」


「……」


 職員たちは顔を見合わせる。


 やがて、正式な査定結果が出た。


「買い取り価格は――」


 受付嬢が言う。


「三千エントになります」


「三千……」


 正春は思わず呟いた。


 これまで受けてきた依頼の報酬は、三百エント程度が多かった。


 つまり。


 今回のミスリル一欠片だけで、その十倍。


「本当に?」


「はい」


 受付嬢は頷く。


「これほど純度の高いミスリルなら、この価格でも安いくらいです」


「すごいな……」


 正春は硬貨を受け取る。


 ずっしりと重い。


 手の中に確かな富がある。


 レンカも横から覗き込む。


「三千エントか」


「ああ」


「これだけあれば、しばらくは生活に困らないな」


「そうだな」


 正春は財布をしまう。


 そして。


 ふと、レンカを見た。


「……レンカ」


「なんだ?」


「服」


「服?」


「ずっと同じ服じゃないか?」


 レンカは自分の服を見る。


 戦闘用。


 丈夫ではある。


 しかし。


 確かに、街で着るには少し物々しい。


「これしか持っていない」


「じゃあ買おう」


「え?」


「新しい服」


「私の?」


「ああ」


 正春は笑う。


「頑張ったご褒美だよ」


 レンカが黙った。


 そして。


 頬が少し赤くなる。


「……本当に?」


「もちろん」


「なら……」


 レンカは視線を逸らした。


「正春が選んでくれ」


「俺が?」


「ああ」


 レンカは正春を見つめる。


「正春が私に似合うと思うものを着たい」


「……」


 正春は少し驚いた。


「分かった」


 二人は服飾店へ向かった。


 フォルトックでも一番大きな店だった。


 店内には様々な服が並んでいる。


 旅装。


 普段着。


 礼服。


 そしてドレス。


 レンカは慣れない場所に来たせいか、少し落ち着かない様子だった。


「……こういう店は苦手だ」


「なんで?」


「戦う場所なら慣れている」


「服屋が戦場より苦手なの?」


「当然だ」


 レンカは真顔で答える。


「どれを選べばいいのか分からない」


「じゃあ俺が選ぶよ」


「頼む」


 正春は店内を見回した。


 白。


 青。


 黒。


 緑。


 黄色。


 紫。


 様々な色がある。


 その中で。


 正春の目に、一着のドレスが入った。


 深紅。


 燃え上がる炎のような赤。


 胸元から腰へ流れるライン。


 スカート部分には細かな刺繍。


 派手すぎない。


 それでいて強い存在感がある。


 正春は、そのドレスを手に取った。


「……これ」


「ん?」


 レンカが振り返る。


「これ、着てみないか?」


「私が?」


「ああ」


 レンカはドレスを見る。


「深紅か」


「レンカに似合うと思う」


「……」


 レンカはしばらく黙った。


 そして。


「なら、着てみよう」


 試着室へ入っていく。


 正春は外で待った。


 数分後。


「……正春」


「ん?」


「まだいるか?」


「いるよ」


「そうか」


「どうした?」


「いや……」


 カーテンの向こうから、少しだけ緊張した声が聞こえる。


「似合っているか、不安になっただけだ」


「見てみないと分からないよ」


「……そうだな」


 カーテンが開く。


 そして。


「……」


 正春は言葉を失った。


 そこに立っていたのは、いつものレンカではなかった。


 深紅のドレス。


 その赤は、彼女の赤い髪と不思議なほどよく似合っていた。


 普段の戦闘服では隠れていた女性らしさが、はっきりと浮かび上がっている。


 肩。


 腰。


 背中。


 すべてが美しく見える。


 それでいて、どこか力強い。


 可憐というよりは、凛々しい。


 まるで炎の中から現れた戦乙女。


「……どうかな?」


 レンカが不安そうに尋ねる。


 正春はようやく我に返った。


「すごく綺麗だ」


「……」


「本当に」


 レンカの顔が赤くなる。


「そうか」


「ああ」


「……正春がそう言うなら」


 レンカは鏡を見る。


 そして、小さく笑った。


「悪くないな」


「すごく似合ってるよ」


「……ありがとう」


 その声は小さかった。


 だが。


 正春にははっきり聞こえた。


「これ、買おう」


「いいのか?」


「ああ」


「高いぞ」


「三千エントもあるんだ」


 正春は笑う。


「今日くらい使ってもいいだろ」


 レンカはしばらく正春を見る。


 そして。


「……大切にする」


「うん」


「正春が選んでくれたものだから」


「……」


 正春は少し照れた。


 会計を済ませる。


 店を出た頃には、すでに夕方になっていた。


 街には夕日が差し込んでいる。


「正春」


「ん?」


「少し寄り道してもいいか?」


「いいよ」


「酒場へ行きたい」


「酒場?」


「ああ」


 レンカはドレス姿のまま歩いている。


「せっかく服を買ったんだ。今日くらい、戦士ではなく普通の女として過ごしてみたい」


「……分かった」


 二人は街で一番賑わっている酒場へ向かった。


 扉を開ける。


「いらっしゃ――」


 店員の声が止まった。


 酒場にいた客たちも振り返る。


「……」


「誰だ?」


「すごい美人だな」


「あれ、レンカじゃないか?」


「嘘だろ?」


「いつもの女戦士と全然違うぞ」


 ざわめきが広がる。


 しかし。


 レンカは周囲を気にしなかった。


 彼女が見ているのは、隣にいる正春だけ。


「行こう」


「ああ」


 二人は奥の席へ座った。


 料理を注文する。


 焼いた肉。


 香草のスープ。


 新鮮な野菜。


 焼きたてのパン。


 さらに、普段なら注文しない高級料理まで頼んだ。


「こんなに頼んで大丈夫か?」


「今日は特別だ」


 正春が笑う。


「火山から生きて帰ってきた記念」


「なるほど」


 レンカも笑った。


 料理が運ばれてくる。


 グラスを持ち上げる。


「では――」


「乾杯」


 グラスが触れ合う。


 カチン。


 小さな音。


 二人は食事を始めた。


「うまいな」


「ああ」


「火山じゃ干し肉ばかりだったからな」


「贅沢を言うな」


「レンカだってそう思ってるだろ?」


「……少しだけ」


 二人は笑った。


 やがて会話は冒険の話へ移っていった。


 初めて二人で依頼を受けた日のこと。


 初めて強敵と戦った日のこと。


 ヴォルカノ火山でのこと。


「そういえば」


 レンカが言う。


「最初に出会った時、お前は私のことをどう思っていた?」


「どうって?」


「怖かったか?」


「少し」


「少し?」


「かなり」


「……正直だな」


 レンカが笑う。


「だって、初対面でいきなり剣を向けてきたじゃないか」


「お前が弱そうだったからだ」


「ひどいな」


「だが」


 レンカはグラスを置いた。


「今は違う」


「そう?」


「ああ」


 真剣な顔になる。


「お前は私の背中を任せられる」


 正春は少し驚いた。


「それって……」


「仲間として最高だということだ」


「そっか」


「ああ」


 レンカは笑う。


「これからも頼むぞ」


「こちらこそ」


 その夜。


 二人は長い時間を過ごした。


 笑って。


 食べて。


 話して。


 戦いの緊張から解放された。


 そして。


 宿へ戻る道。


 夜空には無数の星が浮かんでいた。


「今日は楽しかったな」


 正春が言う。


「ああ」


 レンカも頷く。


「またこういう日があればいい」


「あるさ」


「本当に?」


「うん」


 正春は空を見る。


「これからもっと強くなって、もっといろんな場所へ行こう」


「……そうだな」


 レンカは微笑んだ。


「その時も、私は隣にいる」


「ああ」


 その言葉が、なぜか胸に残った。


 ――そして。


 三日が過ぎた。


 翌朝。


 フォルトックにはいつもの日常が戻っていた。


 正春は朝食を終えると、街を歩いた。


 装備はまだ完成していない。


 だから今日は完全な休養日。


 レンカも一緒だった。


 彼女は昨日買った深紅のドレスではなく、簡素な普段着を着ている。


「何をする?」


 レンカが尋ねる。


「まず市場へ行こう」


「何か買うのか?」


「保存食」


「戦いに備えるのか?」


「冒険者だからね」


 市場を歩く。


 果物。


 肉。


 パン。


 薬草。


 魔石。


 武器。


 防具。


 様々な商品が並んでいる。


 正春は保存食を買いながら、街の様子を眺めた。


 フォルトックには、多くの冒険者がいる。


 それだけ、危険な場所でもある。


 しかし。


 危険な場所だからこそ、強い人間が集まっている。


「この街、好きかも」


 正春が呟く。


「私も好きだ」


 レンカが答えた。


「鍛冶師が多いからな」


「そこ?」


「もちろん」


 レンカは真顔だった。


「武器が安く手に入る」


「レンカらしいな」


 二人は笑う。


 昼になる。


 適当な店で食事をする。


 午後。


 二人は訓練場へ向かった。


「休養日じゃなかったのか?」


「身体を動かすくらいならいいだろ」


「そうだな」


 木剣を握る。


「いくぞ」


「ああ」


 カンッ!


 木剣がぶつかる。


 カンッ!


 レンカが踏み込む。


 正春が避ける。


 反撃。


 レンカが盾を構える。


 まだ新しい盾はない。


 だから今は木製の盾だった。


「前より速くなったな」


「そっちもだ」


「ヴォルカノ火山のおかげか」


「ああ」


 二人は何度も打ち合った。


 そして。


 訓練が終わった頃。


「……疲れた」


 正春が地面へ座り込む。


「最初に言っていたことと違うな」


「何が?」


「疲れたと言っていたのに、訓練までしている」


「レンカもやったじゃないか」


「私は別だ」


「何が別なんだよ」


「戦士だからな」


「便利な言葉だな、それ」


 笑い声が響いた。


 夕方。


 二人は鍛冶屋へ向かった。


 扉の外からでも、激しい金属音が聞こえる。


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 正春が扉を開ける。


「親父さん、まだかかりそう?」


「おう、正春!」


 アレックスが振り返った。


「ちょうどいいところだ!」


「完成した?」


「まだだ!」


「まだなのか」


「三日って言っただろうが!」


 アレックスは笑う。


「だが、もうほとんど終わってる」


 二人は工房の奥を見る。


 炉の中。


 赤く輝くミスリル。


 その横には。


 すでに形を整えられた装甲が置かれていた。


「……すごい」


 正春が呟く。


 胸当て。


 肩当て。


 腕部装甲。


 腰部装甲。


 どれも銀白色。


 余計な装飾はない。


 しかし。


 無駄がないからこそ美しい。


「まだ完成じゃねえ」


 アレックスが言う。


「最後の焼き入れが残ってる」


「今日中に?」


「明日の朝だ」


「じゃあ、明日取りに来ればいい?」


「ああ」


 レンカも装備を見る。


「盾は?」


「こっちだ」


 アレックスが布をめくる。


 そこには一枚の盾があった。


 円形に近い形。


 中央には淡い青白い魔石。


 表面は銀白色。


「……綺麗だ」


 レンカが呟く。


「だろ?」


 アレックスは得意げに笑う。


「ミスリルの特性を生かしてある。嬢ちゃんの魔力を流せば、衝撃を分散する」


 レンカは盾へ触れる。


「軽い」


「だろ?」


「本当にこれが私の盾になるのか?」


「ああ」


 アレックスは笑った。


「明日には完成する」


「楽しみだ」


 レンカが笑う。


 しかし。


 その夜。


 フォルトックに、奇妙な変化が起きていた。


 街の外。


 北側。


 監視塔に立つ兵士が、遠くの山を見つめていた。


「……なんだ?」


 山の向こう。


 黒い煙が上がっている。


「火山の噴煙か?」


 別の兵士が言う。


「いや……違う」


「何?」


「煙の動きがおかしい」


 風に流れていない。


 まっすぐ空へ昇っている。


「隊長を呼べ!」


 兵士が叫ぶ。


 しかし。


 次の瞬間。


 地面が震えた。


 ドォン……。


「……?」


 兵士たちが顔を見合わせる。


 もう一度。


 ドォンッ!


「な、なんだ!」


 そして。


 遠くから咆哮が響いた。


 グオオオオオオオオオオオッ!


「魔物……?」


 兵士の顔が青ざめる。


 その夜。


 フォルトックの街はまだ、その異変を知らなかった。


 ――翌朝。


 アレックスの工房。


 いつもより早く火が焚かれていた。


「よし……」


 アレックスは額の汗を拭う。


 炉の中で、最後のミスリルが赤く輝いている。


 それを慎重に取り出す。


 金槌を構える。


「これで最後だ」


 カンッ!


 金属音が響く。


 ミスリルに細かな魔力の光が走る。


「……いい」


 カンッ!


 さらに叩く。


「いいぞ……!」


 その瞬間。


 外から。


 ――ゴォン。


 鐘の音が響いた。


 アレックスの手が止まる。


「……?」


 もう一度。


 ゴォン。


 ゴォン。


 ゴォン。


「警戒鐘……?」


 フォルトックの警戒鐘。


 それが三度鳴る意味を、アレックスは知っていた。


 魔物襲撃。


 しかも。


 通常の魔物の襲撃ではない。


「まさか……」


 アレックスは窓へ走った。


 城壁の向こう。


 黒煙。


 そして。


 大地を埋め尽くすような魔物の群れ。


「……くそったれ!」


 アレックスは金槌を握り直す。


 同じ頃。


 正春は宿で目を覚ましていた。


「……何だ?」


 遠くから鐘が聞こえる。


 ゴォン。


 ゴォン。


 ゴォン。


 隣の部屋からレンカが飛び出してきた。


「正春!」


「ああ」


 二人は顔を見合わせる。


「今の鐘……」


「警戒鐘だ」


 レンカがすぐに武器を手に取る。


 その顔から眠気が消えている。


「北門だ」


「分かるのか?」


「音の方向で分かる」


 外から怒号が聞こえた。


「魔物襲撃だ!」


「北門へ急げ!」


「兵士を集めろ!」


「冒険者は城壁へ!」


 街中が騒然となる。


 人々が逃げ惑う。


 商人が店を閉める。


 冒険者たちが武器を手に取る。


 正春も剣を握った。


「行こう」


「ああ」


 二人は街へ飛び出した。


 そこには、昨日までの穏やかな日常はなかった。


 恐怖。


 怒号。


 混乱。


 すべてが渦巻いている。


「北門へ!」


 誰かが叫ぶ。


 二人は走った。


 その途中。


 空から巨大な影が飛んできた。


「伏せろ!」


 レンカが正春を押す。


 ドォンッ!


 建物の壁が吹き飛ぶ。


「何だ……?」


 瓦礫の向こうから、巨大な魔物が立ち上がる。


 狼に似ている。


 だが、その大きさは普通の狼の何倍もある。


「グルルル……」


 赤い目。


 黒い体毛。


 口から漏れる炎。


「正春」


「ああ」


「やるぞ」


「うん」


 二人は武器を構えた。


 魔物が飛びかかってくる。


 レンカが前へ出た。


「はあっ!」


 剣が魔物の爪を弾く。


 正春が横から斬り込む。


「そこだ!」


 魔物が倒れる。


 しかし。


 遠くから次の咆哮。


 さらに。


 さらに。


 無数の魔物が城壁へ向かっている。


「数が多すぎる……」


 正春が呟く。


 レンカも表情を変えた。


「これは普通の魔物襲撃ではない」


「ああ」


 二人は北門へ走る。


 城壁が見えてくる。


 そこでは兵士たちと冒険者たちが戦っていた。


 火球。


 雷撃。


 矢。


 剣。


 様々な攻撃が魔物へ叩き込まれる。


 それでも。


 魔物の群れは止まらない。


「何だ、この数は!」


「後ろにもいるぞ!」


「城壁を守れ!」


「絶対に中へ入れるな!」


 正春は城壁の向こうを見る。


 そして。


 足を止めた。


「……何だ、あれ」


 遠く。


 魔物の群れの中央。


 巨大な影が立っている。


 最初は山だと思った。


 だが。


 動いた。


 大地が揺れる。


 ドォン。


 ドォン。


 一歩。


 また一歩。


 こちらへ近づいてくる。


「……嘘だろ」


 レンカもその姿を見つめている。


「あれは……」


 ヴォルカノ火山で戦った守護者のオーク。


 あれよりも大きい。


 あれよりも強い。


 そして。


 何より異質だった。


 全身を黒い甲殻が覆っている。


 頭部には巨大な角。


 肩には赤黒い魔力が渦巻いている。


 そして額。


 そこには。


 禍々しい赤い紋章が刻まれていた。


「……魔族の紋章」


 レンカが呟く。


 正春は拳を握った。


「魔族……?」


「ああ」


 レンカの声が低い。


「普通の魔物じゃない」


 巨大な魔物が顔を上げる。


 そして。


 フォルトックを見つめた。


 まるで。


 街そのものを獲物として認識したかのように。


 次の瞬間。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 咆哮が響き渡った。


 空気が震える。


 窓ガラスが割れる。


 城壁の上にいた兵士たちが思わず耳を塞ぐ。


 大地が震える。


「……こんなの」


 正春が呟く。


「どうやって戦うんだよ」


 レンカは剣を握り直した。


「戦うしかない」


「レンカ」


「街には人がいる」


 レンカの瞳に強い光が宿る。


「逃げるわけにはいかない」


 正春も前を見る。


 怖い。


 正直に言えば。


 今すぐ逃げたい。


 まだミスリルの装備は完成していない。


 自分たちは万全ではない。


 なのに。


 フォルトックには大勢の人間がいる。


 昨日、一緒に笑った冒険者。


 市場の商人。


 服を売ってくれた店員。


 鍛冶屋のアレックス。


 そして。


 この街で少しずつ築いてきた日常。


「……そうだな」


 正春は剣を握った。


「守ろう」


 レンカが微笑む。


「ああ」


 その時。


 遠くから声が聞こえた。


「正春!」


 二人が振り返る。


 走ってくる人物。


 アレックスだった。


「親父さん!」


「無事だったか!」


「ああ!」


 アレックスは息を切らしながら叫ぶ。


「装備は!」


「まだ完成してない!」


「くそっ!」


 アレックスは悔しそうに拳を握る。


「あと少しだったんだ!」


 正春が言う。


「どれくらい?」


「最後の焼き入れだけだ!」


「じゃあ――」


 正春は魔物を見る。


「間に合わないか」


「いや」


 アレックスが笑った。


「まだ分からねえ」


「え?」


「俺は職人だ」


 アレックスは金槌を握った。


「作るって決めた以上、最後まで作る」


 そして。


「お前らも生き残れ」


「親父さん……」


「三日後に取りに来いって言っただろうが!」


 アレックスは怒鳴る。


「約束を破るんじゃねえ!」


 正春は笑った。


「分かった」


「絶対だぞ!」


「ああ!」


 レンカも頷いた。


「必ず取りに行く」


「それでいい!」


 アレックスは工房へ戻っていく。


 正春とレンカは、再び城壁の外を見る。


 巨大な魔族の魔物が。


 こちらへ向かって歩いてくる。


 その一歩ごとに大地が震える。


 その額の赤い紋章が、不気味に輝いていた。


「正春」


「なんだ?」


「帰ったら」


 レンカが言う。


「また、あの服飾店へ行こう」


「……え?」


「今度はもっとゆっくり服を選びたい」


「いいな」


「それから」


 レンカは少しだけ笑う。


「また酒場にも行こう」


「ああ」


「そして……」


 レンカは一瞬だけ言葉を止める。


「次は、私から何か贈る」


「楽しみにしてるよ」


「約束だ」


「ああ」


 二人は拳を合わせた。


 そして。


 魔物の群れが、一斉に走り出した。


 地面が震える。


 空気が揺れる。


 フォルトックの城壁が軋む。


「来るぞ!」


 誰かが叫んだ。


「構えろ!」


「魔法隊、準備!」


「弓隊、放て!」


「冒険者は前線へ!」


 無数の矢が空を飛ぶ。


 魔法が炸裂する。


 爆炎が魔物の群れを飲み込む。


 だが。


 その向こうから。


 巨大な影が現れた。


 赤い瞳。


 黒い身体。


 額の魔族紋章。


 そして。


 その口元に浮かぶ、獰猛な笑み。


「……来る」


 正春が呟く。


 レンカが盾を構える。


 まだミスリルではない。


 まだ完成した装備ではない。


 それでも。


 二人は立っていた。


 昨日まで笑っていた街を背に。


 守りたいものを背に。


 そして。


 これから始まる戦いへ向かって。


 正春は剣を構えた。


「レンカ」


「ああ」


「生きて帰ろう」


「当然だ」


 レンカは笑った。


 その顔には迷いがなかった。


「約束したからな」


 次の瞬間。


 巨大な魔物が吠えた。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


 その咆哮と同時に。


 フォルトックへの総攻撃が始まった。


 ――そして。


 まだ完成していないミスリルの鎧と盾は。


 炎の中で静かに輝いていた。


 まるで。


 これから始まる戦いを待っているかのように。


 アレックスの工房では。


 最後の焼き入れを待つミスリルが、青白い光を放っている。


「……絶対に完成させる」


 アレックスは呟いた。


「この街を守るためにもな」


 カンッ!


 金槌が振り下ろされる。


 銀色の火花が散る。


 その瞬間。


 フォルトックの空に。


 一筋の赤い光が走った。


 魔族の紋章が、夜空を赤く染める。


 ――新たな戦いが始まった。


 そして正春とレンカは、まだ知らなかった。


 今回の襲撃が。


 単なる魔物の群れによる襲撃ではないことを。


 その背後に。


 この世界の歴史すら変える存在がいることを。


 そして。


 三日後に完成するミスリル装備が。


 二人の運命を大きく変えることを――。

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