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記憶を取り戻して転生したら、そこはかつてプレイしたゲームの世界でした〜5人パーティを組みたい俺と、二人きりがいい女戦士  作者: 夢芝居


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10/15

第10話 孤高の魔女と、終焉の五人パーティ

 ――フォルトック地下迷宮。


 そのさらに奥。


 冒険者たちの間で、ほとんど伝説として語られる深層領域。


 そこには、地上の迷宮とは明らかに異なる空気が漂っていた。


 音がない。


 魔物の鳴き声も。


 遠くから聞こえる冒険者たちの話し声も。


 剣戟の音すらも。


 何もない。


 ただ、静かだった。


 静かすぎる。


 まるで世界そのものが、ここだけ呼吸することを忘れてしまったかのように。


「……静かすぎない?」


 先頭を歩いていたスティレットが、腰に差した短剣へと手を添えながら呟いた。


 彼女は女シーフらしく、周囲を警戒しながら慎重に歩いている。


 腰まで伸びた髪。


 軽装の盗賊装備。


 細身の身体。


 そして、何より鋭い目。


 普段は飄々としている彼女だが、今だけは冗談を言う余裕がないらしい。


「この辺りから、魔物の気配が完全に消えてる」


「消えてる?」


 正春が聞き返す。


「ええ」


 スティレットは周囲を見回した。


「さっきまでいた魔物が、全部この先を避けてる」


「……俺たちが怖いんじゃないか?」


「それならいいんだけど」


 スティレットは苦笑した。


「たぶん違うわ」


「じゃあ何だ?」


「魔物が、ここを怖がってるのよ」


「……」


 正春は足を止めた。


 目の前に広がるのは、巨大な石造りの回廊。


 天井は高く、壁には古代文字のようなものが刻まれている。


 ところどころに埋め込まれた魔石が、青白い光を放っていた。


 しかし、その光は通常の魔石とは違う。


 炎のように揺らめいているわけでもない。


 むしろ。


 空中に浮かぶ微細な粒子のようだった。


「……マナ?」


 正春が呟く。


「そう」


 スティレットが頷く。


「でも、普通のマナじゃない」


「どう違う?」


「古いのよ」


「古い?」


「何百年……いや」


 スティレットは目を細めた。


「何千年も前のマナが、そのまま残ってるみたい」


「そんなことありえるのか?」


「普通ならありえない」


 そこへ。


「ありえますよ」


 穏やかな声が響いた。


 正春が振り返る。


 そこにいたのは。


 白い法衣を身にまとった少女。


 女僧侶。


 モイラだった。


「この迷宮自体が、通常の迷宮とは違いますから」


 モイラは壁に刻まれた文字を見つめる。


「この場所には、かつて高度な魔導文明が存在していた可能性があります」


「魔導文明……」


 正春は周囲を見る。


 ゲーム時代。


 この迷宮は、ただの高難度ダンジョンだった。


 最深部に眠る聖剣アロンダイトを手に入れる。


 それが目的。


 設定資料を読んだ記憶では、この迷宮が古代文明の遺跡であることは触れられていた。


 だが。


 ゲームでは、そこまで深く描かれていなかった。


 だから。


 今こうして実際に歩いてみると。


 妙な違和感があった。


「……ゲームより広いな」


「ゲーム?」


 レンカが反応する。


「いや、何でもない」


 正春は誤魔化した。


 危なかった。


 自分がこの世界を知っていること。


 そして、この世界がかつて自分の遊んでいたゲームだったこと。


 それを、仲間たちにはまだ詳しく話していない。


 女神から返された記憶。


 ゲームの未来。


 知っているイベント。


 知っている人物。


 そして。


 自分たちが本来なら迎えるはずだった結末。


 それらを全部話せば。


 きっと何かが変わる。


 だから。


 今は黙っている。


「正春」


 隣から声がした。


 レンカだった。


 赤髪の女戦士。


 巨大な剣を背負い、迷宮の中でも堂々と歩いている。


「さっきから何を考えてるの?」


「別に」


「嘘」


「……」


「顔に出てる」


「俺、そんなに分かりやすいか?」


「分かりやすいわよ」


 レンカは呆れたように言った。


「特に何か隠してる時はね」


「……」


 正春は目を逸らした。


「まあ、そのうち話す」


「約束よ」


「分かった」


 レンカはそれ以上追及しなかった。


 その代わり。


 正春のすぐ隣を歩く。


 肩が触れそうな距離。


 それを見て。


「……」


 モイラが少しだけ頬を膨らませた。


「レンカさん」


「何?」


「ちょっと正春さんに近すぎませんか?」


「別にいいでしょ」


「私はよくないと思います」


「何で?」


「正春さんは、私の保護対象ですから」


「それを言ったら私は前衛として正春を守る役目があるんだけど?」


「私は精神面を支える役目です」


「私は身体を守る役目」


「私は心を癒す役目です」


「……」


 正春は二人を見る。


「お前ら、俺を何だと思ってるんだ?」


「大切な人」


「守るべき人」


 二人が同時に答えた。


「……」


 正春は何も言えなくなった。


 その後ろで。


 スティレットが小さく笑っている。


「大変ね」


「他人事みたいに言うなよ」


「だって面白いもの」


「……」


「でも」


 スティレットは一瞬だけ真剣な顔になった。


「この先は、本当に気をつけて」


「何かいるのか?」


「いるというより」


 スティレットは前を見る。


「何かが、私たちを待ってる」


 その言葉と同時に。


 ――ゴォン。


 遠くで。


 低い音が響いた。


 全員が足を止めた。


「……今の何?」


 モイラが不安そうに呟く。


「分からない」


 スティレットが短剣を抜く。


「でも、近い」


 レンカも剣を構える。


「正春、後ろに」


「いや」


 正春は自分の剣を抜いた。


「俺も戦う」


「……」


 レンカが少し嬉しそうに笑う。


「そうこなくちゃ」


     ◇


 しかし。


 何も現れなかった。


 五分。


 十分。


 さらに進んでも。


 魔物一匹すら姿を見せない。


「……逆に怖いな」


 正春が呟く。


「でしょ?」


 スティレットが答える。


「何もいないんじゃない」


「え?」


「ここにいる何かが、私たちに姿を見せてないだけ」


「……」


 その言葉が。


 正春の中に引っかかった。


 ゲーム時代の知識。


 この先には。


 確か。


 特殊イベントがあった。


 隠しキャラクター。


 四人目のヒロイン。


 魔法学院を追放された天才魔術師。


 名前は。


「……キルケー」


 正春が呟いた。


「え?」


 レンカが振り返る。


「今、何て言ったの?」


「いや」


 正春は前を見る。


「この先にいるはずなんだ」


「誰が?」


「……」


 その時。


 空気が変わった。


 冷気が。


 一気に強くなる。


 空中に浮かんでいたマナの粒子が、突然一方向へ流れ始めた。


 正春たちの前。


 何もない場所。


 そこへ。


 光が集まっていく。


「……障壁?」


 スティレットが目を細めた。


 半透明の壁。


 巨大な魔法障壁。


 その向こう側には、さらに道が続いている。


 だが。


 近づこうとした瞬間。


 ――バチッ!


「っ!」


 スティレットが手を引っ込めた。


「触れられない」


「魔法障壁か」


 正春も手を伸ばす。


 触れる前から分かる。


 強い。


 圧倒的な魔力。


「解除できるか?」


「無理」


 スティレットが即答した。


「私の解除技術じゃ、このレベルは無理ね」


「モイラは?」


「私も……」


 モイラが聖印を掲げる。


 光が障壁に触れる。


 しかし。


 弾かれた。


「……聖属性を拒絶しています」


「じゃあ俺が」


 正春が剣を構える。


「待って」


 レンカが止める。


「斬ってどうにかなるタイプじゃない」


「分かってる」


「本当に?」


「……たぶん」


「たぶんって何よ!」


 レンカが怒鳴る。


 正春は苦笑する。


「じゃあ、どうする?」


「……」


 全員が黙った。


 突破できない。


 その時。


「――到着まで、あと三秒」


 声がした。


「……?」


 全員が振り返る。


「二秒」


 誰もいない。


「一秒」


 障壁の向こう。


「――到着」


 コツ。


 靴音。


 静かな足音。


 そして。


 一人の少女が。


 障壁の向こうから姿を現した。


 長い黒髪。


 白い肌。


 知的な眼鏡。


 黒を基調とした魔術師のローブ。


 その手には。


 古びた一本の魔法杖。


 杖の先端には、ひび割れた紫色の魔石が埋め込まれている。


 少女は。


 感情の薄い瞳で。


 正春を見つめた。


「……」


 正春の心臓が。


 一度。


 大きく跳ねた。


「……キルケー」


 少女は。


 わずかに目を細めた。


「正解」


 淡々と答える。


「久しぶりね」


「……」


「正春」


     ◇


 その瞬間。


 レンカが正春の前に出た。


「誰?」


「キルケー」


「それは聞いた」


「なら質問の意味が分からない」


「……」


 レンカの眉がぴくりと動く。


 モイラも前へ。


「あなたは正春さんをご存じなのですか?」


「当然」


「どうして?」


「昔から」


「昔から?」


 キルケーは眼鏡を押し上げる。


「彼の戦闘能力。


 魔力適性。


 成長率。


 思考傾向。


 判断速度。


 危機回避能力。


 そして」


 キルケーは正春を見る。


「鈍感さ」


「……」


「すべて知っている」


「最後のはいらないだろ」


「必要なデータよ」


「必要じゃない」


「重要」


「……」


 スティレットが吹き出した。


「ぷっ……!」


「笑うな」


「だって」


 スティレットは口元を押さえる。


「初対面なのに、すでに正春の扱いが雑なんだもの」


「初対面じゃない」


 キルケーが言った。


「え?」


「私たちは」


 キルケーは。


「何度も会っている」


 空気が止まった。


「……」


 正春だけが。


 その意味を理解していた。


 ゲーム。


 前の世界。


 何度も見た。


 何度も聞いた。


 何度も共に戦った。


 キルケー。


 孤高の天才魔術師。


 魔法学院史上最高の才能を持ちながら、既存の魔法理論を否定したことで追放された少女。


 彼女は一人で迷宮を攻略し。


 一人で魔王軍を撃破し。


 一人で古代魔法を解析した。


 だが。


 ゲーム後半。


 主人公と出会い。


 少しずつ変わっていった。


「……」


 正春は思い出す。


 キルケーのイベント。


 彼女が初めて笑った時。


 初めて誰かに助けを求めた時。


 そして。


 最後に。


『あなたの隣なら、計算外も悪くない』


 そう言った。


 その記憶が。


 鮮明に蘇る。


「正春」


 キルケーが近づく。


「……何?」


「確認する」


 彼女は杖を持っていない方の手を伸ばした。


 正春の胸元。


 ミスリル・エイル・メイル。


 そこへ指を当てる。


「……っ」


 レンカが剣に手をかけた。


「ちょっと!」


「問題ない」


 キルケーは淡々としている。


「触診よ」


「触診って……!」


「マナ循環を確認している」


 指先から。


 微かな光が流れる。


 正春の身体を巡る。


 そして。


「……予想以上に悪い」


「何が?」


「マナ効率」


「そんなに?」


「最悪」


「……」


「魔力を使うたびに無駄が多すぎる」


「俺、万能ジョブなんだけど」


「だから問題なの」


 キルケーは即答した。


「万能というのは、何でもできるという意味ではない」


「……」


「何でもできる代わりに、何をやっても中途半端になる危険性がある」


「なるほど」


「あなたはまさにそれ」


「……褒めてないよな?」


「事実」


 キルケーは眼鏡を押し上げた。


「このままでは」


 一瞬。


 瞳が鋭くなる。


「最下層到達前に死ぬ」


「……」


 レンカが反応した。


「そんなに危険なの?」


「確率で言えば」


 キルケーは淡々と言う。


「九十八パーセント」


「高すぎる!」


 モイラが青ざめる。


「正春さん!」


「俺、そんなに死ぬの?」


「死ぬ」


「即答かよ」


「だから」


 キルケーは正春を見る。


「私が必要」


「……」


「あなたのマナ効率を最適化する」


「どうやって?」


「私が管理する」


「管理?」


「そう」


 キルケーは一歩近づいた。


「今日から」


 眼鏡の奥の瞳が。


 まっすぐ正春を見る。


「あなたは私の管理下に入りなさい」


「……」


「そして」


 彼女は続ける。


「パーティ最後の一人」


 杖を肩に乗せる。


「私が埋める」


     ◇


「ちょっと待ちなさいよ!」


 レンカが叫んだ。


「何で勝手に決めてるの!?」


「論理的だから」


「論理的とか関係ない!」


「ある」


「ない!」


「ある」


「ない!」


「……」


 キルケーは首を傾げた。


「あなたは非論理的ね」


「誰が非論理的よ!」


「あなた」


「この眼鏡女……!」


 レンカの怒りが爆発する。


 モイラも黙っていない。


「キルケーさん」


「何?」


「正春さんを管理するというのは、少し言い方が強すぎると思います」


「では訂正する」


「はい」


「保護する」


「……」


「監視する」


「もっと悪くなってます!」


「観察する」


「それも!」


「研究する」


「完全に悪化してます!」


 キルケーは少し考えた。


「では」


 正春を見る。


「好きにする」


「それが一番危ない!」


 正春が叫んだ。


 スティレットは腹を抱えて笑っていた。


「あははは!」


「笑ってないで助けろ!」


「無理」


「なんで!」


「面白いから」


「お前まで!」


 その時。


 レンカが正春の腕を掴んだ。


「正春は私の隣!」


「私も正春さんの隣です!」


 モイラが反対側から腕を掴む。


「……」


 正春の両腕が。


 完全に固定された。


「おい」


 そして。


 スティレットが反対側から肩に手を置く。


「私も参加しようかな」


「お前まで!?」


「だって楽しそうだし」


「楽しそうじゃねぇ!」


 さらに。


 キルケーが近づく。


「なら」


「待て」


「私も」


「待てって」


「隣に立つ」


「……」


 キルケーが正春のすぐ隣に立った。


「これで四方向から保護できる」


「保護って言葉が怖いんだけど」


「問題ない」


「何が?」


「逃げられないだけ」


「問題しかない!」


     ◇


 沈黙の回廊。


 そこで。


 五人の男女――いや。


 正確には四人の少女と一人の青年が。


 奇妙な形で睨み合っていた。


 レンカ。


 モイラ。


 スティレット。


 キルケー。


 そして。


 中央に正春。


「……」


 正春は思った。


 魔王軍と戦うより。


 この四人をまとめる方が。


 絶対に難しい。


「とりあえず」


 正春が言う。


「パーティ加入については、俺が決める」


 四人が同時に見る。


「本当に?」


 レンカ。


「はい」


 モイラ。


「もちろん」


 スティレット。


「合理的なら従う」


 キルケー。


「……」


 正春はため息。


「キルケー」


「何?」


「お前が入る」


「当然」


「即答するな」


「計算済み」


「……」


 正春は頭を掻いた。


「まあ」


 そして。


 少しだけ笑う。


「俺も、お前が仲間になってくれるなら心強い」


「……」


 キルケーが。


 一瞬だけ。


 目を見開いた。


「……そう」


「うん」


「なら」


 彼女は顔を逸らした。


「許可する」


「何の許可だよ」


「私が加入すること」


「逆だろ」


「……」


 キルケーの耳が。


 ほんの少し赤い。


 レンカはそれを見逃さなかった。


「……へえ」


「何?」


「別に」


「何かある?」


「何でもないわ」


 モイラも微笑んでいる。


「キルケーさんも、意外と可愛いところがあるんですね」


「……」


「違う」


「顔赤いですよ?」


「これは室温」


「地下迷宮ですよ?」


「……」


 キルケーが黙る。


 スティレットがまた笑う。


「いやあ」


「何?」


「面白くなってきたわね」


「……」


 正春は空を見上げた。


 地下なので。


 空はない。


「……帰りたい」


     ◇


 しかし。


 その時だった。


 キルケーが突然。


 真剣な顔になる。


「待って」


「どうした?」


「この先」


 キルケーが。


 杖を握る。


「何かいる」


 全員が警戒する。


「魔物?」


 レンカ。


「違う」


「じゃあ?」


「古代魔法」


 キルケーは壁へ近づいた。


 手を当てる。


 すると。


 ――ズズズズズ。


 壁全体が。


 震えた。


「……」


 古代文字が。


 一つずつ光り始める。


 そして。


 回廊の先。


 何もなかった壁に。


 巨大な文字が浮かび上がった。


『――五つの魂を確認』


「五つ?」


 モイラが呟く。


『――戦士』


 レンカを見る。


『――聖なる祈りを持つ者』


 モイラを見る。


『――影を歩く者』


 スティレットを見る。


『――魔を極めし者』


 キルケーを見る。


 そして。


『――世界を再び歩く者』


 正春を見る。


「……」


 正春は。


 嫌な予感がした。


『資格者――五名』


『終焉への扉――認証』


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 回廊の奥。


 巨大な扉が。


 ゆっくりと姿を現した。


 その扉の中央には。


 剣の紋章。


「……あれは」


 正春の目が見開かれる。


「アロンダイト」


 伝説の聖剣。


 かつて魔王を討った英雄が使ったとされる聖剣。


 この世界に一本しか存在しない。


 そして。


 ゲームでは。


 主人公が最終決戦前に手に入れる。


「本当にあった……」


 正春が呟く。


 レンカも。


「これが……聖剣」


 モイラが祈る。


「なんて神聖な……」


 スティレットは。


「罠じゃないでしょうね」


 キルケーは。


「違う」


 即答した。


「これは選別装置」


「選別?」


「この扉は」


 キルケーが解析する。


「武器を選ぶのではない」


「じゃあ何を?」


「持ち主を選ぶ」


 正春の胸が。


 ざわついた。


「……俺じゃないのか?」


「まだ分からない」


 キルケーは扉を見る。


「この先には」


 杖を握り直す。


「聖剣だけじゃない」


「何がある?」


「……」


 キルケーは。


 珍しく。


 言葉に詰まった。


「未来」


「未来?」


「あなたが」


 正春を見る。


「この世界で、何になるのか」


 その瞬間。


 扉の向こうから。


 低い声が響いた。


『――認証開始』


 全員が構える。


『第一条件――五人』


『第二条件――記憶』


『第三条件――覚悟』


 そして。


 最後に。


『最終条件――終焉を受け入れよ』


 ――ドン!


 巨大な扉が開いた。


 その向こうから。


 眩い白い光が溢れ出す。


 正春は目を細める。


 そして。


 光の奥に。


 一人の男の姿が見えた。


「……誰だ?」


 正春が呟く。


 男はこちらを向く。


 顔は。


 正春と。


 よく似ていた。


「……!」


 正春の呼吸が止まる。


 男が。


 ゆっくり口を開く。


『――やっと来たか』


「……俺?」


『そうだ』


 男が笑う。


『お前だ』


「……」


『未来のお前』


 世界が。


 一瞬。


 静止した。


 レンカが正春を見る。


 モイラが息を呑む。


 スティレットが短剣を構える。


 キルケーだけが。


 何かを理解したように。


 静かに目を細めた。


「……やっぱり」


 正春が振り返る。


「知ってたのか?」


「仮説として」


「どういう意味だ?」


「この迷宮は」


 キルケーが答える。


「聖剣を守っているだけじゃない」


「……」


「あなた自身を」


 そして。


「待っていた」


 扉の奥。


 未来の正春が。


 もう一度。


 笑った。


『さあ』


『再攻略を始めよう』


 その瞬間。


 迷宮全域に。


 巨大な鐘の音が響き渡った。


 ――ゴォォォォン。


 ――ゴォォォォン。


 古代のシステムが。


 数千年ぶりに目を覚ます。


『終焉の五人――認証完了』


『勇者――正春』


『戦士――レンカ』


『聖女――モイラ』


『盗賊――スティレット』


『魔女――キルケー』


『パーティ構成――確定』


 そして。


 最後の文字が。


 空中に浮かぶ。


『――これより』


『第二次終焉戦争を開始します』


「……」


 正春は。


 剣を握り直した。


「……聞いてねぇぞ」


 レンカが笑う。


「でも」


 彼女は剣を構える。


「面白くなってきたじゃない」


 モイラも聖印を掲げる。


「私は正春さんと一緒なら、どこまでも」


 スティレットは短剣を回した。


「終焉戦争ねぇ」


 そして。


 キルケー。


 彼女は正春の隣に立った。


「安心して」


「何が?」


「あなたが死ぬ確率」


「……」


「私が下げる」


「何パーセント?」


「九十八パーセントから」


 キルケーが眼鏡を押し上げる。


「ゼロへ」


 正春は。


 少しだけ笑った。


「……頼む」


「任せて」


 五人は。


 同時に。


 扉の向こうへ歩き出す。


 その先に待っているのは。


 伝説の聖剣。


 忘れられた古代文明。


 そして。


 自分自身の未来。


 200エントの借金から始まった。


 世界最強の再攻略。


 そのパーティは。


 ついに五人になった。


 戦士。


 聖女。


 盗賊。


 魔女。


 そして。


 万能ジョブの青年。


 誰もが。


 その五人をこう呼ぶことになる。


 ――終焉の五人。


 しかし。


 彼らはまだ知らない。


 この迷宮の最深部に眠っているのは。


 聖剣だけではない。


 正春自身が失った。


 最も重要な記憶。


 そして。


 この世界が一度。


 終わった理由。


 そのすべてが。


 この先で。


 彼らを待っていることを――。

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