第4話 お出かけ
昼過ぎ。私は鏡の前で侍女たちに髪の毛をセットしてもらいながらも、どこか落ち着きがなかった。理由は一つ。
(推しとデート......)
厳密に言えば兄妹で城下町に行くだけ。そんなことは分かっている。しかし中身はただのオタクなのだ。攻略対象、ましてや自分の最推しと出かけるなんて。
「お嬢様。できましたよ」
「あ、ありがとうございます」
自分の姿を改めてみると、とても可愛かった。三つ編みにされた髪の毛、服は淡い青色と白色の夏を感じさせるようなワンピース。あまり派手ではないけれど、印象に残る服装だ。
部屋を出るとすでにクロードが待っていた。
「お待たせしました」
「いや。今準備が終わったところだから気にしなくていい」
クロードはこちらを見る。今日もやはり顔がいい。屋敷ではいつも正装だから硬い印象があったが、ラフな服装になると普段よりも柔らかい雰囲気になっている。
「今日もエミリアは可愛いな。ワンピースも似合っている」
お、推しに褒められた!?可愛いって......嬉しすぎる。いや、褒められてるのは私じゃなくてエミリアなんだから。いったん冷静になる。
馬車に揺られることしばらく。
城下町に着くと私は思わず目を輝かせた。たくさんの露店、人々のにぎわう声。
ゲームで何度もみた景色が本当に目の前にある。
「そんなに珍しいものでもないのにエミリアは変な反応をするな」
「えっ!?あ......」
危うく『ゲームで見たことあるんです』と言いかけた。気が緩んでいるといつボロを出すかわからないものだ。
「城下町に来るの久しぶりなので」
クロードは納得したように頷く。
「なら、今日は好きなところを見て回るとしよう」
「え?いいのですか?」
「エミリアと出かけるために来たからな」
なんてかっこいいセリフを言うのだろう。クロードが毎回何かを言うたびに心臓が落ち着かない。
(クロードってこんなに優しいキャラだっけ......?クロードといえばもう少し塩対応だったような......)
クロードは攻略対象の中で一番攻略が難しいキャラだった。仲間思いで優しいがなかなか心を開いてくれない。そんなキャラだったはずなのに。
そんなことを考えながら歩いていると、ある小さな屋台に目をひかれた。金属でできた花のようなもの。繊細なつくりをしていて妙に目をひいた。私がその花を見るために足を止めていると。
「欲しいのか?」
「い、いえ!ただ綺麗だなと思って見ていただけです!」
「店主。その花を」
「はいよ!兄ちゃんかっこいいしタダでいいよ!」
あっという間に会計が終わっていた。
クロードが花を私に差し出してくれる。推しからの贈り物。思わず両手で受け取る。
「ありがとうございます!!」
「お嬢ちゃん、兄ちゃんと仲良いな~」
一部始終を見ていた屋台のおじさんが笑った。私は危うく持っていた花を落としそうになった。
「ち、違います!兄妹です!」
慌てて顔を真っ赤にしながら訂正する。推しと兄妹になれたのは嬉しいのに恋人だと勘違いされるととても恥ずかしくなる。
「兄妹に見えないのか.....」
「え?何か言いましたか?」
「いや。気にしなくていい」
私はクロードを不思議そうに見つめたが、その横顔からは何を考えているかは分からない。
(さっきなんて言ったんだろう......)
首を傾げていると、人の流れが押し寄せてきた。
「きゃっ」
転びそうになった瞬間、ぐい、と腕を引かれる。気づけば私はクロードのすぐ横にいた。
「はぐれたら困る」
と言って、彼が私の手を握った。
「人が多いから手を繋いでおこう」
(えっ!?このまま!?大丈夫、私たちは兄妹。兄妹だから......)
心臓がもたない。クロードは手袋をしているとはいえ、彼の体温を直に感じてしまうような気がする。私の手汗は平気かな.....と心配しつつ、必死に自分を落ち着かせながら歩いていると。
向こうから一人の貴族らしい青年が歩いてきた。顔を見る限り、私の知らない人物なので重要人物ではないだろう。多分。
すると、彼はクロードを見て頭を下げた。




