第9話:索敵
国境監視用基地に来て2週間が経とうとしていた。
あおいは第四部隊の訓練に参加したり、雪で遊んだり平和に過ごしていた。
今日も、また雪で遊ぼうと準備をしていた時、今まで聞いたこともない警報音が鳴る。
準備をしていた手が止まり、反射的に耳を塞ぐ。
ドタドタと辺りが騒がしくなった。
足音の一つがあおいがいる部屋の前で止まり、ドアが開く。
戦闘服に身を包んだ紗夏が部屋に入って来た。
「国境沿いのフェンスが破壊されたみたいなの。わたしはこれから前線に行かなきゃいけないからあおいは、最上階の作戦室にいて!!」
「……わかった」
「うん、いい子だね。村瀬さんや隊長と一緒にいるんだよ」
そう言い残し、慌ただしく部屋を出ていった。
あおいは、紗夏の言い付け通り最上階の作戦室に行く。
部屋に入ると、隊長と村瀬さん、それと隣の部屋に数名の隊員がいた。
あおいは村瀬さんのそばに行く。
「あおいさん、自分で来てくれたんですね。今から探しに行こうかと思っていたところでした」
「……さなが ここに いてって」
「なるほど、そうでございましたか。それでは、こちらのイスをお使いください」
窓際に置かれたイスに座らされる。
窓も近くにあり外の様子もよく見える。
今日は吹雪がひどい日だった。
「もう、なんでこんな日に限って侵入してくるのかしら」
隊長が少し苛立った様子で呟く。
部屋にピリッとした空気が流れる。
警報が鳴ってから1時間。
時折入る現場からの通信を受け状況整理をする時間だけが過ぎていく。
通信によると、どうやら侵入者の数が予想よりも多く鎮圧に時間がかかりそうだと。
鎮圧できる見込みだが、圧倒的に人数が足りないらしい。
隊長と作戦係の隊員たちが話し合い解決策を探している。
あおいは、何もしていない状況に飽きて外をずっと見ていた。
そんな様子を見て、村瀬が声をかける。
「あおいさん、大丈夫ですか? お疲れではないでしょうか」
「……ねぇ、むらせさん。あっち からも ひと きてるよ。いいの?」
「え、どこでしょうか。…………私には見えないのですが」
「……ほら、あの きの ところ」
あおいが、そう指差すのは10kmほど先にある木。
普段でもぼんやりと見えるくらいなのに今は吹雪のせいで村瀬には全く見えていない。
しかし、あおいが嘘をついているようにもみえないので、別室のドローン班に聞いた。
「すいません、向こうの木のところに誰かいる気配はありますか?」
「木のところですか? 先ほど見回ったときは動くものの反応はなかったんですけれど……」
「そうですよね……念のため、熱探知でもう一度見てもらえますか?」
「了解しました。あおいちゃんが嘘つくタイプには見えないですもんね」
「はい。正直なところ嘘の方がいいんですけれどね」
「そうですね。もし来てたら大変ですよ」
あおいの言葉を信じていないわけではない。
だが、国境沿いのフェンスの電流とドローンの動いたものを捉える高度なセンサーを掻い潜りそこまで来ているとしたら大問題だった。
ドローン班が自然な動きであおいが示した木の周辺にドローンを向かわせる。
動いているものはやっぱりなかった。
カメラで確認したが広がるのは雪だけ。
しかし、指示どおり熱探知に切り替えると状況が一変した。
冷たい銀世界の中に温度が高いところが何箇所もあった。
確信できるようなものではない。
「村瀬さん、反応ありです! 人型はしていないので確実ではないですが、何かがあります!」
「……! わかりました。隊長に報告してきます」
村瀬は走って隊長に報告に行く。
「嘘でしょ?! 向こうで手いっぱいなのに。こっちが本命なのかしら? 情報源はあおいとドローンなのよね」
「はい」
「あおいを呼んできて」
「承知いたしました」
村瀬に抱っこされあおいが隊長の前にくる。
隊長はあおいの目をじっと見つめて聞く。
「あおい、本当にいるのよね」
「いるよ」
「何人くらいいるかわかる?」
「20にん くらい。 ゆきを かぶってね、ゆっくり あるいてる」
「そう。わかったわ。ありがとう、あおい」
隊長があおいの頭を撫でて褒める。
あおいの目が開かれるが、すぐに表情が柔らかくなる。
そんなあおいを見て隊長の頬も緩くなる。
けれども、キリッとした表情に切り替え村瀬に告げる。
「村瀬、ドローン班を集めて。今いる人で緊急会議よ」
隊長と村瀬の他に、ドローン班と隊長の護衛班合わせて6人が集まった。
「分かっていたけれど、少ないわね。それで今、敵はどのあたりにいるの?」
「9.8km先です。ドローンの探知を避けるためゆっくりと動いているものと思われます。このままのペースだと、ここに来るのにはあと4-5時間はかかる見込みです」
「そう。どうしましょう。向こうの戦況は?」
「この吹雪で苦戦を強いられているようです。こちらも4時間ほどで片付くのではないかと先ほど連絡が入りました」
「少なくとも4時間は防がなきゃいけないのね。困ったわね、何か考えがある人はいる?」
全員が口をつぐむ。
そんなとき、あおいが、隊長の服を引っ張った。
「ねえ。……ねえ! わたし、とめられるよ?」
「「「え?」」」
「――かべ―― つかえば かんたん」
「そうか。その手があったわね!あおい、何時間――壁――を持たせられる?」
「ちょっと待ってください!隊長! あおいちゃんはまだ子供ですよ!」
「そうですよ! この吹雪は大人でも危険なのに!」
「……だいじょうぶ、できる。どれくらいの ――かべ―― つくれば いいの?」
「そうね……高さ3m、幅2kmくらいかしら」
「隊長!」
バン!
と隊長が机を叩く。
「分かってるわよ! わたしだってあおいを使うのは嫌よ。でも、あれ以上の侵入は防がないといけないでしょ! 今向かえるのはここにいる人だけ。でも、この人数では何もできない。あおいが1人でできるっていうならそれを頼らないといけないじゃない。あおいを使う以外で何かあるのなら教えてよ!」
隊長は「ごめん」と言い、黙ってしまった。
あおいの参戦に反対していた隊員も何も言えなくなる
沈黙を破るようにあおいが小さい声で言う。
「……だいじょうぶ。だいじょうぶ だから。 これくらい わたし できるから」
「ごめんね、あおい」
「……なんで あやまるの? わたしが やるの あたりまえ」
「……そんなことないんだけれどね。ごめんね。4時間は――壁――持たせられる?」
「できるよ? 6じかん もつ から」
「うん。じゃあ、よろしくね」
「うん!」
隊長が一呼吸して隊員に指示を出す。
「20分後の15:40に、あおいが出発。基地から7.0km地点に壁を張る。我々はあおいの援護をする。各自、準備せよ!」
隊員たちが準備に取り掛かる。
あおいの防寒服を取りに行く隊員、先に壁を張る地点に行き雪洞を掘る隊員。
各々が最適解で動いていく。
あおいは、待っている間に隊長と話していた。
「あおい、ここに壁を作って欲しいんだけれど、敵を囲うように作れる? 1.5km×0.5kmくらいの箱型の」
「……できる。でも、じかん みじかくなる」
「そうよね。この形なら何時間持つ?」
「……5じかん しか もたない」
「それで十分よ。4時間持てば、味方が増えるから」
「……わかった」
そんな中、1台侵入者がいる所とは違う方向に向かうスノーモービルがあった。




