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第8話:雪原


あおいが基地に来てから2週間が経とうとしていた。

一度研究所から手紙が届いたがそれ以降は特に動きはなかった。


この日は朝から基地内は忙しかった。

あおいも起こされ談話室に置かれている。

紗夏に「これ着ておいて」と言われて着せられたダウンコートに埋もれつつソファに身を預けている。


人をダメにしそうなソファはすっかりあおいのお気に入りだ。

談話室にいるときは基本ソファに埋もれている。


今日、いつもと違うのは朝早くから動いていることだけではない。

時折、冷たい風がどこからか吹いてくる。

冷暖房完備の基地の中で影響は少ないが、それでも念のためあおいにはダウンコートが渡されている。


あおいは、1人でソファに身を預けながら天井の模様を数えている。

数時間後、作業が終わった紗夏がやってきた。


「遅くなってごめんねー。終わったからあおいも行こうか」

「……どこに?」

「……新しい基地だよ」


紗夏に抱っこされて外に出ると、外は真っ白な世界に覆われていた。

冷たい風があおいの頬を赤く染める。


「……つめたい」

「寒い? 歩くから少し我慢しててね」

紗夏はそう言うと、あおいのコートのフードを深く被らせた。

視界は遮らないように、けれど、暖かさは確保できるように。


あおいは、きょろきょろして落ち着きがない。

「……しろい」

「うん? 雪見るのも初めて?」

「……うん」

「そっか。この白いのは全部雪だよ。ここは寒い地域だから雨じゃなくて雪が降るの」

「……ゆき さわりたい!」

「え! さわりたいの? つめたいよ? さむいよ?」

「……さわりたい」

「じゃあ、ちょっとだけね」

紗夏は空いている手で雪を掬い、あおいの頬につける。


「……つめたい!」

「つめたいよね。はい、どうぞ」

渡された雪を手で包むあおい。

それはすぐに溶けてなくなる。

「……きえた」

「温かいと溶けちゃうんだよ」

あおいは手の中の水滴をじっと見つめる。

「……もっと!」

「もっとかー。向こうの基地に着いたらね。今は行かないと」

「……もっとぉ」

「はいはい。あとでねー」

ほっぺを少し膨らませたあおいを無視して、紗夏は移動する。

20分ほど歩き目的の新しい基地――国境監視用基地に着いた。


中に入るとすでに暖房がきいており、ぽかぽかする。

「紗夏、いいところに来た! ちょっとこれ手伝って!」

「はーい、いま行くー」


「あおい、雪はまたあとで。ちょっとここで待っててね」

「……むぅ」

紗夏があおいを降ろすと離れていく。


そのまま少しの間待っていると別の知っている影が通る。

「……きょうや! ゆき? ゆき、さわりたい! さわる?」

「え? うん? いいよ? なんかテンション高いね」

匡矢があおいを抱き抱え外に出る。


靴を履いていないから、あくまで匡矢の腕の中から雪を触る。

掬っては離し、掬っては離すことを繰り返す。

「……つめたい」

「ゆきだからね。もっと触る?」

「……さわる」


触りづらそうと思い、匡矢がおもむろにあおいの体の向きを変える。

外に向けるようにした瞬間――

あおいが自分から身を乗り出し、雪にばふっと倒れた。

「あおいちゃん!? 大丈夫? どこか体調悪い?」

急いであおいを起こすと、満面の笑顔がそこにはあった。

「つめたい! きもちいい! きゃあ!!」

ばふっ。

もう一度顔から倒れる。

びっくりする匡矢。

そんな匡矢を露知らず、あおいは顔を雪につけたまま手足をばたつかせる。

きゃあきゃあ声を上げながら。


匡矢は困惑する。

基地に来てから初めて見るあおいの子供らしい一面だった。

どうすればいいのか悩んでいると、用事を済ませた紗夏も来た。

「あおいー、待っててって言ったのに――」

雪の上で手足をばたつかせるあおいを見つけ、最後まで言えなかった。

「え? 匡矢、どういうこと?」

「僕もわからない」

「あおいって、こんな子だった?」

「……元々がこういう子だったのかな?」

「それは、あり得るね」


2人でしばらく雪を堪能するあおいを見守っていた。


数十分遊んだあおいの顔や手足は雪と熱で赤くなっていた。

「もう、こんなになるまで遊んで。そんなに楽しかった?」

「つめたい! ふわふわ!」

いつにも増してテンション高めの返事が返ってくる。

「よかったね、あおいちゃん」

匡矢が言う。

「うん!」

「今日は、お風呂にゆっくり浸かってあったまるんだよ」

「うん!」

匡矢があおいを抱っこして、玄関に3人で向かう。

基地に入ると、紗夏があおいに言う。

「このままお風呂に入りに行こうか」

「いく!」

「じゃあ、途中まで送ってあげるね」


匡矢は4階の階段の踊り場まで来ると紗夏にあおいを託して3階に戻っていった。

「……きょうや?」

「この基地は4階が女子部屋で、3階が男子部屋なの。だから、匡矢はここまで。お風呂もそれぞれの階にあるからね」

「……わかった」

「あとは、1階が医務室とトレーニングルーム、2階が食堂や洗濯室、最上階が隊長室や作戦室に使っている部屋があるからまた明日探検しようか」

「……うん」

「よし、お風呂に入るよー」

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