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第7話:勝敗


あおいが来てから数日後の昼前。

隊長の元に、研究所からの手紙が来ていた。

要件は、「研究所から逃げた研究個体を知らないか」。

実験個体につけていた首輪が第四部隊の敷地内から見つかったとも書いてある。


手紙を秘書の村瀬に渡し、ため息をつく。

「はぁ、面倒くさい。知らないとでも返しておいて」


「かしこまりました。首輪についてはいかがいたしますか」


「それもいい感じに返事してて。こっちはやることがいっぱいあるんだからいちいち相手にしてられないっての! それに、わざわざ書面で送ってくるのが嫌らしいわね」


「そうでございますね。それでは、こちらは"いい感じに"返信しておきます」


「うん。お願いね。ところで、今日のあおいの予定はどうなってるのかしら」


「本日は、特殊訓練日になりますので隊員が全員参加しております。そのため、あおいさんは談話室で1人で過ごしておられるものと考えられます」


「1人で!? 危なくないのかしら」


「どうやら、命令はきちんと聞くようでして、紗夏さんが伝えられた、今日はここから出ちゃダメと指示をしっかり守られているようです」


「……村瀬。その手紙に返事を書いたら、あおいの元に行ってちょうだい」


「……かしこまりました」


数十分後、返事を書き終えた村瀬が談話室に赴く。

談話室では、人をダメにするソファに身を預け気持ちよさそうにしているあおいの姿があった。


「こんにちは、あおいさん」


「……だれ?」


(わたくし)、隊長の秘書を務めております『村瀬』と申します」


「……ひしょ」


「主に隊長のお世話係になります」


「……おせわがかり」


「えぇ。皆様がご多忙とのことで、本日はあおいさんのお世話係を承りました。私のことは村瀬さんとお呼びください」


「……むらせさん?」


「はい、なんでしょうか。あおいさん」


「……むらせさん? …………むらせさん! これ する?」

あおいは村瀬の名前を呼びながら、近くにあったテーブルゲームを指差す。

「……オセロですか、いいですね。ルールはご存知ですか?」

首を左右に振るあおい。


村瀬が説明するルールを真剣に聞く。


「……以上がオセロのルールになります。何かご不明な点はございませんか」


「……ない」

村瀬が黒、あおいが白でゲームが始まった。


最初は、あおいの手はいかにも初心者というものだった。

しかし、結果は違っていた。

あおいは強かった。

とても強かった。

村瀬が手加減しているわけではない。

それなのに、盤面の8割があおいの色で占められている。

「お強いですね」

「……?」

きっと、戦術とかを考えていない。

その場の最適解を出しているだけ、と村瀬は分析する。

「今回はあおいさんの勝ちですね。お見事です」

「……うん」


勝ったのに嬉しさなんて微塵も思っていなそうな顔をしている。


「あおいさん、勝たれた時は喜ばれていいんですよ」

「……?」

首を傾げるあおい。

「……かつの あたりまえ。まけるの じぶんが わるい」

「なるほど。これは難しい。それでしたら、これから少しずつ覚えていきましょか」

「……なにを?」

「勝つ喜びをですよ。それに、負けたからといってあおいさんが悪いわけではないのですけれど……こちらはまた今度にしましょうか」

「……うん?」

「こちらの話でございますよ。次もオセロで遊びますか? 別のゲームもたくさんありますよ」

「……おせろ」

「かしこまりました。私も負けないように本気を出したいと思います」


その日は一日中村瀬と遊んだ。

オセロやジェンガ、トランプゲーム。

あおいはほとんどのルールを知らなかったが、運が絡まないゲームでは負けなしだった。


夕方、訓練を終えた紗夏が帰ってくる。

「あおい、ただいまー。あ、村瀬さんもいらっしゃったんですね」


「えぇ、隊長からの指示で今日はあおいさんのお世話をさせていただいておりました」


「え! そうなんですか! ありがとうございます」


「いえいえ。とても楽しい時間でしたよ。あおいさん、それではまた遊びましょうね」


「……うん」


談話室を出ていく村瀬の背中を2人で見送る。

「あおい、村瀬さんと何してたの?」


「……おせろ。むらせさん、つよい」


「やっぱり。強そうだとは思ってたけれど」


隊長の執務室。

隊長の秘書に戻った村瀬がいた。

「村瀬、今日はずいぶんと楽しそうね」


「ええ、楽しかったですよ。久しぶりに本気を出してしまいました」


「あおいと遊んだだけなのに?」


「あおいさん、お強いです。たぶん、基地内なら負けなしですね」


「村瀬にそこまで言わせるなんて……」


村瀬は静かに笑い、書類の整理をするのだった。


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