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第10話:耐久


出発の時。

あおいは寒さ対策重視の服装のせいで歩けなく、隊員に抱えられている。

雪に紛れるように白いコートに白い帽子、白い手袋、白い靴。

全部のサイズが大きく、見た目は可愛らしさがあった。

けれども、その顔つきはさっきまでのあおいではなかった。

研究所のあおい――DW-094がいた。


そこに、1台のスノーモービルが入ってきた。

それに乗った人物がゴーグルを外し、名前を呼ぶとあおいの表情は変わる。

「あおい!」

「……さな!」

「あおいが戦場に出るからって迎えにきてくれたのよ。あ、向こうには別の隊員が入ったから安心して」


あおいは、スノーモービルに乗る隊員に顔を向ける。

「……どうして?」

「あおいが出るなら、紗夏がいなくちゃ不安だろ。俺たちよりもあおいを見てるんだから」

「そうね、あおいのことなら一番分かってるのわたしだから。ほら、行くよあおい。」

「……うん」


紗夏に抱き上げられスノーモービルに乗せられる。

あおいの後ろに紗夏、前には運転してくれる隊員がいるからあおいは挟まれている。


スノーモービルが走り出す。

振動があおいに伝わり時々体が浮く。

前の隊員にさらに掴まろうとするが、手袋が大きくてちゃんと掴まれない。

そんな様子を見た紗夏が後ろから片手をあおいのお腹に手を回し、浮かないように抑えた。

「大丈夫」と小さく言うが吹雪に紛れてあおいには聞こえない。


――壁――を張る7km地点に着いた。

あおいたちは、雪洞を掘っていた隊員と入れ替わり身を潜める。


数十分後、侵入者がまもなく7km地点に着くとドローン班から連絡が入る。

「あおい、よろしくね」

「……うん」

あおいが照準を定めるように手のひらを掲げる。

手を動かしていくとその手の先に――壁――が作られていく。

きっちり7km地点に。


あおいの壁は透明ではない。やや青みかがっているが、この吹雪では視認できない。

だから、がんっ、と壁にぶつかる音がした。


――壁――から数百メートル内側にいるあおいたちにも戸惑っている声が聞こえた。


「来たね」

「来ましたね」


「あおい、大丈夫?」

「……だいじょうぶ できる」


ゴンゴンと壁を叩く音が聞こえている。

ドローンにバレないようにしているためか、銃火器は使用せず手や足で確かめているようだった。


しかし、あおいの高さ3m、幅1.5kmの壁はびくともしない。

数人が左右に散るがすぐに戻ってくる。

幅が1.5kmもあるから敵は左右からもまわりこめずにいるようだ。


10分後、まだガンガンと壁を壊そうとする音が聞こえる。


30分後、音が止んだ。


1時間後、銃を使い壁の破壊を試み始めた。

ドローンに敵の侵入が感知され、アラームが鳴る。

焦っている声が聞こえる。


2時間後、あおいが壁から目線をはずし息をつく。

「……のど かわいた」

「お茶飲む? 村瀬さんがあおいにって持たせてくれたよ」

「……のむ」

「……なんか呑気だな」

スノーモービルを運転してきた隊員がお茶を飲み、まったりしているあおいを見てそう話す。

「そもそも、目を外しても大丈夫なのか?」

「たしかに。あおい、どうなの?」

「……いしき してれば だいじょうぶ」

「へぇ。便利だな」

「……そう」


3時間後、あおいが深く息を吐く回数が増えてきた。

「あおい、息荒いよ。 大丈夫? 無理してない?」

「……まだ、だいじょうぶ」

「わかった。 無理な時は早めに言ってね。一回お茶飲もうか」

「……うん」

一口お茶を飲むが呼吸は変わらない。


3時間半後、約束の時間まであと30分になった。

あおいがはぁはぁとし始め、肩が上下に動いている。


「あおい、本当に大丈夫? やめてもいいよ?」

「……まだ、できる。 できる から」

あおいは、集中が切れないように――壁――を見つめそう告げる。


誰も口を開かない時間が続く。

吹雪の音だけが周囲を満たす。

時計を見るたびに、まだ数分しか経っていない。

まるで時間が止まったようだった。

誰もが同じことを思っていた。


「なあ、まだあっちの部隊は来ないのか?」

「まだ3時間半しか経っていないから難しいかも」

「くそっ! なんで、あおいが頑張っているのに俺は何もできないんだ!」

「本当にね。わたしも自分に怒ってる」

それでも、紗夏と隊員には侵入者に対して何もできない。


吹雪はさらに強くなっていった。

風は強く目が開けられない。

大人でも長時間は耐えられない凍えるような寒さが襲う。

紗夏が、後ろからあおいを抱え込む。

隊員も風上に移動する。

少しでも雪があおいに当たらないように。

2人ができることはそれくらいだった。


「あおい、もうちょっとで来るから。絶対間に合うからね」

「……だいじょぶ」

あおいはそう言うが、心配は消えない。

紗夏があおいの手を握ると微かに震えていることに気づいた。

「え、あおい。無理してない?」

「……だいじょぶ」

「さっきから大丈夫しか言ってない……お茶飲む?」

「……だいじょぶ」

「もう、どっちの大丈夫よ」

紗夏とあおいがやりとりしている間、もう1人の隊員も――壁――から目が離せなかった。


「あっ!」

隊員が声を上げる。

「なに?」

「今、壁が揺らいだぞ」

「え?」

紗夏が――壁――に視線を移すと、――壁――の輪郭が歪む。

「ほんとだ……」

「あおい、限界なんじゃないか?」

「……だいじょぶ」

紗夏が表情を確かめるように顔を覗き込む。

「ちょっと、顔が白くなってるじゃない! あおい、やめよ? もう、ここから侵攻されても基地まで届かないから! 」

「……だいじょぶ」

吹雪の中でもわかるくらい、あおいの顔色が悪くなっていた。


それでも、――壁――を消さないあおい。

「あおい!倒れそうなんじゃないの? ねえ、聞いてる?」

「……だいじょぶ」

半分、反射で返事をするあおい。


「おい、紗夏。どうするよ」

「どうするって言ったって……」

「このまま続けたらヤバいんじゃないのか」

「たぶん。まだ、あおいの限界を知らないんだけど、ここまで辛そうなのを見るのは初めて」

「…………隊長に報告して、強制的に止めさせるか?」

「……………………」


紗夏はどうするのがいいのかわからず決められずにいた。


――遠くの方から、エンジン音が聞こえてきた。


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