第28話
ジャイアントラビットの生息地の森からリューベールにつくと、すっかり太陽が顔をだしていた。
街に入ると幾人もの老若男女にいぶかしげな視線を向けられたが、そんなことを気にしていられるほどの体力はも残っていないかった。
ギルドの扉を開けると、中にいた何人かがこっちを見た。掲示板の前にいた男。受付へ向かっていた女。そのほかにもその場の全員に怪奇な目で見られる。
一瞬だけ、時間を切り取られたような気がした。
泥だらけの服を着た寝不足でまともに開かない目の男。そんな奴が持っているのはジャイアントラビットが三体だ。
もう腕も肩も体のなにもかもが限界だった。
俺は三体を連れて、受付の上に乗せる。受付にいたのは、セレナさんだった。
丸眼鏡の奥の目が、冷徹にこちらを見る。
「……コウイチ様」
「依頼の報告に来た」
「依頼はジャイアントラビットの討伐でしたよね。素材、ではなかったと思いますが」
セレナさんは、机の上に乗ったジャイアントラビットを見る。
耳だけじゃなくて丸ごと乗ったジャイアントラビットを見て、あきれているのかわからないが、少しの間静止した。
「まぁ、耳だけ切って放置ってのは、気持ちが悪くてな。連れて帰ってきたよ」
「気持ちはわかりますが」
少しの沈黙のあと、セレナさんは手元の書類をめくった。
「受注したクエストはジャイアントラビットの討伐三体。お間違いないですか?」
「ああ」
セレナさんは俺の返事を聞いて淡々と頷いた。
「グラウス・ヘルヴィン様のパーティー名義ですね。ジャイアントラビット三体。今回はジャイアントラビットの納品という形で処理させていただきます。よろしいですか?」
「頼む」
「少々お待ちください」
セレナさんが近くの職員を呼んだ。
奥から職員が二人出てきて、ジャイアントラビットを確認していく。顔から見ていって、体を見て、短く言葉を交わしてた。断片的な単語からジャイアントラビットの状態を確認しているようだ他t。
その間、俺はカウンターに手をついて、首を垂れていた。
座りたい。その気持ちはやまやまだけれど、座ったら立てなくなる気がしてこのまま立っていることに決めた。。
「三体、確認しました」
職員の一人が言った。
「討伐依頼は達成扱いで問題ありません」
セレナさんが書類に記入していく。
「ただし、現物の持ち込みがありますので、素材の買い取り分、報酬を上乗せさせていただきます。毛皮の状態はやや落ちていますが、肉は可食部に問題はないと判断しましたので買い取りが可能です」
「……そうなのか」
「はい。討伐は倒すだけですが、納品になれば素材をギルドが購入するという扱いなので報酬が増えます」
その言葉で、肩の力が少し抜けた。
持ってきた意味はあったらしい。
「それでは報酬ですが」
硬貨の入った袋が、目の前に置かれる。
思っていたより重そうだった。
「こちらとなります」
「どうも」
袋を受け取ると手のひらに、硬貨の重さが乗った。
一晩かけて一人で倒した。
それが、今こうして報酬となったことで、ようやくこの世界で生きている実感がわいてきた。
変な感じだ。
「それにしても。ひどい見た目ですね。少しばかり怪我もしているようです」
「あぁ。問題ないだろう。フィーアに直してもらうよ」
「……なるほど。そうされるのがいいですね」
セレナさんは書類をまとめ、最後に小さく頭を下げた。
「初めての依頼達成おめでとうございます。期限ぎりぎりでしたが、本当にお疲れさまでした」
「お、おう……」
その言葉が、思ったより身に染みる。
俺は報酬袋を握りしめて、顔を上げた。
その時、聞きなれた声が聞こえてくる。
「コウイチ様?!」
ミリアだった。食堂のほうから来たのか、片手にパンを持っていた。それを落として、こちらに小走りにやってくる。
「ど、どこいってたんですか! ボロボロになってるじゃないですか! 心配したんですからね!」
「す、すまなかったよ」
俺はミリアに肩を揺さぶられながら平謝りをした。
「みんな向こうにいますよ。早く無事を伝えましょう」
「お、おう。そうだな。悪かったよ」
俺はミリアに手を引っ張られて、食堂のほうへと連れていかれた。
体力が限界だったからか、まったく抗う気も起きない。俺は言われるがままに食堂のみんなの前に戻ってきた。




