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第14話 剣の稽古

「それで? 何するんだ?」


 少し移動して、俺達は立ったまま向かい合っている。


「まずは基本だな」


 グラウスは自分の剣を引き抜き、その動作を何度か繰り返しながら俺に見せてきた。


「腰から剣を引き抜くのもコツがいる。とっさに構える必要が今後でてくるかもしれない。本当はこの練習をたくさんしておくのがいいんだが、今日相手するのはジャイアントラビットだ。抜刀に手こずって命がとられるわけじゃない。だから記憶の片隅に入れて、暇なときに練習しとけよ」


「分かった」


 言われて、俺は剣を引き抜いたり戻したりする。


「で、次だな。これは剣の持ち方だ。意外と力みがちなんだが、力みすぎるのもよくない。というのも力を入れすぎると手首の動きを制限することになるんだ。軽い力でしっかりとホールドできるように、俺は柄のサイズを細かく調整しているが、おそらくコウイチのは量産品だからそういうのが無いと思う。だから多少は力む必要があるかもな。でないと剣の重さを持ちきれず吹っ飛んで誰かに刺さって怪我させてしまうかもしれないからな」


「まじか」


「そう大マジ。これ意外と初心者あるあるの事故なんだよ。パーティーメンバーに剣が飛んでくるみたいなことはよく起こる」


 肩をすくめていうグラウス。それに続けて、「気をつけてくれよ。刺されたくはないからな」と続ける。


「あとは振り方だけど、基本的に剣ってのはそれなりの重さがある。それをしっかり理解して、ある程度は重さを使って切り掛かるといい」


 グラウスは俺に見せるように、剣を持ち上げて振り下ろした。


 速い。


 いや、単純に速いだけじゃない。ぶん回してる感じがしないのに、見ているこっちには鋭く見える。振ったあとも体勢が全く崩れていない。


「ま、伝えることはこれくらいだと思うぜ。いくら説明しても、どうせ実際にやってみないと感覚は掴めねぇ。やってみるのが一番だ。そこの木に剣を当ててみろよ」


 言われて、グラウスの視線の方を見る。人一人分くらいの太さの木が立っていた。


「打ち付けすぎるなよ。刃こぼれしたら泣くのはお前だからな。今は木を切るんじゃなくて、剣が当たった感覚を知るのが大事なんだ」


「分かった」


 俺は木の前に立った。グラウスが見せた動作を脳内で思い出しながら、剣を振り上げる。


 そして、そのまま振り下ろした。


 力は入れる。けど、ただ腕力だけで叩きつけるんじゃなくて、剣の重さもしっかり意識する。そうやって木へ剣を当てた瞬間、剣を伝って腕全体に衝撃が響いた。


 剣は木にめり込むことなく、跳ね返るような動きを見せる。


 俺は咄嗟に腕全体に体重をかけるようにして押さえつけた。


 ジーンとした痛みが、手のひらから肘のあたりまでじわっと広がる。思ったより重い。そして思ったより木は硬い。


「ははは! どうだ? 結構痛いだろ?」


「……そうだな。かなり腕が痺れてるような感覚がする」


「ま、そんなもんだ。にしても初めてにしてはいい筋してたぜ。剣が跳ね返った時、反射で押さえつけただろ?」


 グラウスが俺の剣先と足元を見ながら続ける。


「しかも腕の力じゃなくて体重を乗せてたな。そういうのは大事だ。案外、剣術の才能があるかもしれねぇぞ、コウイチ」


「それはどうも」


 なんだか素直に褒められて、思わず首の辺りを照れ隠しで触って視線を外す。


「ただ、今のは一個だけ駄目なところもあった」


「あるのかよ」


「ある。跳ね返ったあと、上半身で止めようとしすぎだ。あれだと手首を痛める原因になるし、疲れやすいからな。押さえつけるのはいいが、足と腰も使うんだ」


「……なるほど」


「よし、もう一回やってみな」


 言われて、俺はもう一度木の前へ立つ。


 今度は、当たったあとに全身を使って剣の跳ね返りを制御できるように意識する。


 剣を振り下ろして、木に当たった時、さっきと同じように衝撃は来たが、今度は少し違った。今度は木に跳ね返されることなく、少し剣が刺さっている。


「おぉ、今のいいな」


「そうなのか?」


「ああ。さっきより手元が暴れてねぇ。そういう修正が一回でできるってのはなかなかできることじゃない」


 それを聞くと、少しだけ自信がつく。あまりに単純な思考に気がついて少し冷静になる。


「あとは、今日の実戦で最も使うことになるだろうってのを練習しとこうぜ」


 その言葉に俺は首を傾げる。実戦で使うことになる剣の使い方とはなんだろうか。


「ずばり、剣で押し返すってのだ。これは簡単に練習できる」


 木の前に立ったグラウスは、剣を正面で構えてそのまま少し斜めにずらした。そして、木に剣を当てて、剣が自分の方へ来ないようにしっかり固定したまま、腕だけじゃなく体ごと前へ押した。するとその力の反動がグラウスの体を少しだけ後ろへ押し返す。


「ジャイアントラビットってのは突進してくるんだ。しかもものすごい速さで。避けるのもいいんだが、避けるよりも剣で押し返したり、受け流す方が今後の練習になる」


「おいおい待て待て。剣持った相手にも突進してくるのか? でかいうさぎだよな?」


「そうだぞ。ジャイアントラビット見たことないのか?」


「全くない。ちなみに想像も全くできていないな」


「アイツな、めっちゃ毛が丈夫なんだよ。突進してきたところを剣で突いても、毛並みがうまい具合に刃をいなす。だから結構苦労するんだよなぁ」


「そ、そうなのか……」


 俺の想像していたウサギとは、防御力にかなり差がありそうだった。


「ただ、勘違いするなよ。押し返すってのは、真正面から勝つためじゃねぇ。勢いを殺して、軌道をずらして、自分の体制を崩されないためだ。初心者ほど“敵を倒す”ことばっか考えるが、まずは“自分が崩れない”方が大事だ」


「崩れない、か」


「そうだ。しっかりと動ける範囲を作るってのが初心者にできるアドバイスだってわけだな。コウイチに今日意識してほしいのは、一撃で仕留めることじゃねぇ。突進を受けて、慌てず、崩れず、敵の動きをしっかりと見ることだ。殺すってのは考えなくていいぜ」


 言われてみると、かなり分かりやすかった。


 無理に格好良く敵を倒さなくていい。まず自分自身を保つための動きだと思えば、頭の中が少し整理される。


「よし。じゃあやってみろ」


 とにかく、今はグラウスの言ったことをやるだけだ。俺は木の前に立つと、剣を押し当てて、グラウスと同じ動作を繰り返した。


「よし。ひとまずそれで十分だな」


 グラウスは満足そうに頷いた。


「今日意識することは三つだ。ひとつ、焦って追いかけるな。ふたつ、突進に崩されるな。みっつ、当てようとする前に、まず相手を見ろ」


「相手を見るか」


「そう。足と頭の向きだ。あいつら、突進してくる時に飛ぶ方向を見る習性がある。そこ見てりゃ、少しは動きが読めるぜ」


「へぇ……」


「あと、無理だと思ったらすぐ引くんだ。変に意地張る必要はないぞ。俺たちがいるんだからな」


 その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。


 一人じゃない。


 それを改めて言葉にされると、さっきまでの緊張が少し和らぐ。


「……分かった」


「よし。じゃあ、そろそろ行くか」


 グラウスがティータイム中の女性陣へと目線を向ける。


 ジャイアントラビット。


 名前だけなら、でかいだけに聞こえるウサギのに、今の説明を聞いたあとでは全くそう思えなかった。


「急に緊張してきたな……」


「それでいいんじゃねぇか?」


 グラウスは笑う。


「緊張が消えたら、それはそれで危ねぇからな」


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