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第143話 もうひとつの家族とのひととき

 結局、アマラ様とヨムヘル様はうちに5日ほど滞在した。

 その間、神様らしいことをしたのは、ドワーフ王国への襲撃についてアレア様からあらためて報告を受けたぐらいで、あとはのんびり過ごしていただけだ。


 その襲撃の件に関しても、具体的に何か指示をするということは無く、戦神三神と精霊三姉妹、そしてアルさんとクバウナさん、ルーさんに任せるので頼みますよ、という感じだった。


 ただ、ミネル様にはヨムヘル様が「ミネルも暫く地上世界に留まるように」と指示を与えていた。

 つまりケリュさんとアレア様だけでなくミネル様もこの地上世界に居て、何かあったときには即応出来るようにしろということらしい。


 ミネル様は、「わたしはどこでも転移出来るから、まあどっちに居ても同じなんだけどねー」と言いながら了承しておりました。

 それでも、天界で住まいとなっている自分の研究所に引き蘢っているよりは、常時地上世界に居て、何かあったら直ぐに動けるようにしておけ、ということなのだろう。


 その件の話が済んだ最高神のおふたりは、本当に休暇で息子に会いに田舎から出て来た両親という感じで、屋敷で過ごして居た。

 ただし、結界で何ごとも外部に漏れないようにしているこの屋敷の外にはさすがに出られないので、いや、出ようと思えば自由自在なのだろうけど、そこは自重してくれていた。


 なのでアマラ様は、主にエステルちゃんと精霊三姉妹やクバウナさん、シフォニナさんと一緒におしゃべり。

 どうやら俺が小さいときから王都での学院生活時代、それから今年あった出来事の話まで、様ざまなことを話題にしていたみたいだ。とは、ときどき参加していたクロウちゃんからの情報でした。



 ヨムヘル様も、ときにはそんな女性たちの会話に加わったりしていたけど、さすがに長時間は無理だったようで、ほとんどは訓練場に来て俺たちの訓練を眺め、あるいは自分も木剣を握って身体を動かしていた。


 そこは戦神の長でもあるヨムヘル様なので、おそらくは人間流の剣術に合わせてくれていたのだろうけど、ケリュさんやアレア様とはまたタイプの異なる強さでした。


 まあ簡単に言うと、相手の動きをすべて事前に把握し、すべてを受け流し吸収してしまうような強さ。あらゆる無駄を排した究極の自然体からの最大効率による技で、誰もが手玉に取られてしまう剣と言いますか。

 俺が最も多く彼の相手をしたのだが、学ぶところの多い剣でした。


 もちろんケリュさんとアレア様も連日この訓練に参加していて、ジェルさんやオネルさん以下、うちの者たちの訓練の相手をしてくれる。

 ケリュさんとはこれまで一緒に訓練して来た彼らも、そのケリュさんとは違う豪剣タイプのアレア様と木剣を合わせるのは、かなり勉強になったのではないかな。


 一方でミネル様の方は、自分の弟子にしたライナさんやカリちゃんを相手に、そこに暇そうなアルさんとルーさんも加わって、魔法のワークショップみたいなことをしていた。

 俺もときどき呼ばれて参加したけど、要するに魔法のテーマをひとつ決めての研究会のようなものだね。


 俺が呼ばれたときは、先日披露したバージョンアップ版の火球機関砲の解説をしろということで、この面々に隠すことはひとつも無いので詳細に説明しましたよ。

 その他では、ライナさんが作った土人形に重力魔法を応用して動作させる方法の研究。この世界で見たことはまだ無いけど、ゴーレムのようなものですかね。


 ただ人や動物の形だと、もちろん関節部分などはなく硬化してしまえばガチガチに固まっているので、本物のように動作させるにはどうしたら良いのかを議論したり試したりしていた。

 形状を極力シンプルにした、まるで武骨なロボットみたいなカタチにしてみるとかね。

 一朝一夕に完成出来るとは思えないので、まあじっくり研究してください。



 あと、ユルヨ爺の指揮のもとでティモさん、リーアさん、アルポさん、エルノさんのファータのメンバーとブルーノさんは、自分の普段の仕事とそういった訓練に参加しながらも、交代で屋敷の敷地外部を密かに巡回して、不審な者が近づいて来ていないかを見張ってくれた。


 いくら結界を堅く張っているとはいえ、言ってみればこの世界で最高のVIPが滞在している訳ですからね。

 偶然でもうちの屋敷に近づいて、妙な存在感や神力を感じ取ってしまう者が出ないとも絶対には言えない。


 もしそういった者がうちの屋敷を探ろうとした場合には、アルさんが記憶を混濁させる魔法を掛けて処理するという手筈で、ケリュさん、アルさんとは事前に相談しておいたのですが。




 初日の昼食は人外組と人間組のふた組に分かれて食事をしたのだけど、その日の夕食からは場所を大広間に移して、全員が揃って食べて貰うことにした。まあ、仮設の大食堂ですね。

 これは昨年に、グリフィニアから父さん母さんたち一行が来て滞在したときにも行ったものなので、会場作りとしては問題は無い。


 今回問題だったのは人間のメンバーで、要するに畏れ多くておちおち食事が出来ないということだった。

 でも、ヨムヘル様が訓練に加わったり、アマラ様がラウンジで朗らかに寛いでいたりと、そんな様子に触れたおかげで、うちの者たちの緊張も徐々に解れて行ったみたいだね。


 あと、厨房の方はもちろん大変だったのだけど、そこはアデーレ料理長のもと、エディットちゃんにシモーネちゃん、それからシフォニナさんにクバウナさんも加わって、連日美味しいメニューを作ってくださいました。


 大広間での食事は回を重ねることにだんだん賑やかになり、と言うかいつものうちの雰囲気に戻り、人外のお客様たちも自然に馴染んで行った。

 うちの良いところは、分け隔てや気兼ねの無い家族の雰囲気で食事を楽しむところなので。



 夕食後はラウンジに人外組が思い思いに腰を落ち着けて、夜のひとときを過ごす。

 クロウちゃんはちゃっかりアマラ様の膝の上に乗せて貰って丸くなっている。


 案の定だがヨムヘル様とアレア様は大酒飲みで、加えてミネル様とルーさんも底無しだ。

 そんな面々にうちの底無しのアルさんとケリュさんが加わるものだから、うちでストックしているお酒が毎晩どんどん消費されて行く。


 もっとも高位の人外の方たちは、いくら飲んでも酔って様子が変わるということが無く、せいぜいが昼間は比較的無口なルーさんとアルさんのいつもの言い合いが、より多くなるくらいのことですかね。


「あなたたち、うちの息子の酒蔵を空にしないのよ」

「大丈夫ですよ、えと、お母さま。お酒は大量にストックしてありますから」

「そう? エステルちゃんも大変ね。こんな連中が何人も押し掛けて来て」


 お母さんとか父上とか呼ぶようにって俺に言っていたのだけど、いつの間にかエステルちゃんにもアマラ様をお母様と呼ばせておったのですな。


 エステルちゃんの場合、アマラ様とヨムヘル様との娘であるシルフェ様の子孫で、かつシルフェ様の亡くなられた娘であるシルフェーダ様の生まれ変わりらしく、かつ現在はシルフェ様の妹ということになっている。


 それで、アマラ様とヨムヘル様の預り子で息子に認定されてしまっている俺の許嫁というかまあ嫁なので、立場としてはとても複雑なのだよね。

 でもそんな複雑な繋がりは置いておくとして、アマラ様的には息子の嫁だから義理の娘ということにしたのでしょう。



「ははは。昼間は訓練で身体を動かして、美味い食事で腹を満たし、夜は息子に飲ませて貰う酒ほど、美味なる酒は無いぞ」

「もう、あなたは。ほどほどにしときなさい」


 そんな神様たちの酒の肴は、今年に行った俺たちの南方への旅の話や先頃のリガニア紛争探索の際に起きた出来事だ。


「あのショコレトールの豆を入手するために、わざわざ南方まで旅をしたのだな。その豆というのは、元はドリュアがエルフに与えたものなのだろ。ならば、ドリュアがザックにあげれば良かろうものを」


「だってお父さま、ザックさんがあんな美味しいお菓子に作り変えるなんて、わたし、知らなかったのですもの」

「そこはザックさんが、ちゃんと人間同士で取引をして、入手ルートをしっかり確立しないといけないからってね」

「なるほどなシルフェ、それはそうだな」


「商業国連合が間に入っていますしね。それに、エルフのイオタ自治領とも良い話し合いが出来ましたので」

「エルフのあちこちの自治領には、ショコレトール豆とカーファ豆をイオタ自治領に集めるように託宣を下ろしておきますわ」

「あー、いやあ、ほどほどに……」


「そうすれば、世界各地からあの豆がザックさんの手元に集まって、それが美味しいショコレトールになって、そうすればわたしのところに巡って来ますでしょ」

「ドリュアさんはそれが狙いね」

「だってニュムペ姉さん。カーファはともかく、あのショコレトールはうちの子たちと毎日いただきたいじゃない」

「まあ、そうですけど」


 ショコレトールが安定的に製造出来るようになったら、精霊さんたちと食べられるように、ドリュア様はもちろんニュムペ様にも定期的にお送りしますよ。


「わたしのところにもね、ザック」と、アマラ様がウィンクをする。

 えーと、どうやって送れば良いのですかね。


「それはザックさんが、このお屋敷の敷地のどこかにおやしろを造ればいいんじゃない? そうしてそこに供えれば、アマラ様が回収できるわよー」


 そうミネル様が教えてくれた。なるほどです。


「カーファの焙煎した豆か粉も頼むな、ザック」

「ときどきで良いので、アデーレさんの作るケーキやお菓子なんかもあると嬉しいわ」


 初日の夕食のデザートにはザックトルテが出ましたからね。

 しかしこれは以前から考えていたように、ここに祭祀のやしろを建立しないといかんですな。実体はお菓子転送装置だけど。



「向うではハヌマートさんにお会いしましたよ。それからバンダル族とオグル族も」

「オグル族のグンダーっていうのが、無謀にもザックさまに挑んで、あっけなく倒されました」

「ははは。それは無謀だったな、カリちゃん。あいつらは血の気が多いからな」

「図体はでっかかったですけどね」


 ハヌマート、ハヌさんは森の賢者と呼ばれる南方の森の守護者で、バンダル族は手長猿の姿をしたその眷属。

 オグル族は鬼みたいな姿のオーガで同じくハヌさんの配下だけど、アレア様の言うように確かに血の気は多かった。


「ハヌとも久しく会ってないですけど、ザックが会ったのなら良かったわね」

「そうだな。ルーはハヌと連絡は取り合っておるのか?」

「はい。北の森と南の森、それぞれの守護を任された者同士として、定期的に連絡は取り合っております。ですので、ザック殿が向うを訪れたことも承知しておりました。


 へぇー、ルーさんとハヌさんは連絡を取り合っているのか。

 ちなみにルーさんは、アマラ様とヨムヘル様が来てからは、以前は呼び捨てだった俺のことをザック殿と呼んでいる。

 何故? ってこっそり聞いたら「おまえも大人になったからな」なのだそうだ。まあ、最高神おふたりの手前ということもあるのでしょうね。


「ルーさんとハヌさんて、どうやって連絡を取り合うんですか?」

「ああそれは、ハヌの魔法というか、あいつが作った魔導具でだな。私には作れないが、なんでも空中のキ素を伝わって互いにやり取りするものだ」

「理屈はわたしの風の便りと一緒ね。こっちはお手紙だけど」

「わしが言葉を投げるのとも一緒だな。ザックさまも出来るじゃろ?」


 ああ、シルフェ様の風の便りや、アルさんの伝達方法と基は同じなのか。アルさんのは威力が半端無いので、受取るのが大変だけどね。

 でもそれらは一方通行の電信のようなものなので、それをハヌさんが双方向のネット通信みたいに使える魔導具にしたという訳ですか。


「そんな魔導具があるんですね。ミネル様も作れます?」

「あー、えーと、わたしって、魔導具作りが下手だからさー。それに、わたしらはそういうのが必要無いし。あなたもクロウちゃんとは必要無いでしょ?」


 ああ、神様同士は直接通信が出来るから必要無いのか。

 たぶんそっちは念話の延長線上だと思うけど、俺たちが使っている念話は出力的な問題か、届く範囲が限られる。


 しかし、そんなネット通信端末みたいな魔導具があるのなら、俺も欲しいよな。

 次がいつになるかは分からないけど、今度ハヌさんに会ったらお願いしてみよう。



 あとはリガニア紛争探索での出来事も話題になったが、神様、精霊様というのは基本的に人間同士の争いごとについては関心が薄い。


 それでもうちのティモさんをはじめファータの里の者や俺たち自身も多少関わったということで、ヤルマリさん救出作戦の話は熱心に聞いてくれた。特にこういう話が好きなアレア様がです。

 アマラ様とヨムヘル様には里のやしろで、感謝を伝えつつ簡単に報告してあるしね。


「前にも言ったが、地上世界のことでの判断はザックに任せるぞ。なに、だからと言って、おまえがひとりで世界の人間たちを相手にする必要は無いのだがな」

「あなたは、あなたの家族とあなたが大切にしている人たちを護れば、それで良いのよ」


 前世では一国の平和と秩序の回復をなんとかしようとして、結果的に国を導くことも背負うことも出来なかった。そして自分に身近な人たちすら、護ることも適わなかったのだよな。


 だから、いくら個人が強くなろうとも、それがあらゆることを解決出来るものでは無いと、俺は身に染みて知っている。


「だいじょうぶですよ、お母さま、お父さま。このひとが無茶を、いえ、多少は無茶をしても無理なことはしないように、側に居るわたしたちが出来る限り支えます」

「わたしも、ですよ」

「お願いします、エステルちゃん、それからカリちゃんもね」


 支えると言ってくれてるけど、いちおう翻訳すると、叱る、です。


「ははぁ、人間で地上世界最強がザックさんだとして、その最強を止めることが出来るエステルちゃんが、実は最強なのねー」

「そうですよ、ミネルさま。エステルさまが最強なのです」

「違いますよぉ」

「うふふ、どうやらそのようね」


 世界は広いし、俺が人間で最強だとは思わないけど、エステルちゃんが最強なのは俺もそう思いますよ。ね、クロウちゃん。あ、キミはアマラ様の膝の上の居心地が良くて、もう寝てますか。 



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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