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第142話 神様、精霊様家族の団欒

 とりあえず、アマラ様とヨムヘル様をラウンジにご案内して落ち着きました。


 先ほどの屋敷の皆の紹介では、人外の存在に慣れているうちの者たちもさすがに緊張して恐縮し、地面に突いた膝を伸ばして立つことが出来なかった。

 それでもおふたりは全員を立たせ、ひとりひとりに順番に声を掛けていただいた。


 これがまだ人間の王様とかだったら緊張の中にも現実感はあったのかもだけど、なにしろこのおふたりは人間にとってはお祈りの先に居る存在だ。

 現れるとは分かっていても、おそらく皆は夢心地だったのではないかな。


 そんな屋敷の者たちはいったん解散して、それぞれの仕事に戻って貰った。

 アデーレさんとか大丈夫ですか? 昼食の準備に厨房で包丁とか火とか使うのだから、夢から醒めてくださいな。シモーネちゃん、ついてあげてね。




「ザック、あらためまして、こうして招いてくださってありがとうございます。母さん、嬉しいわ」

「父さんもだぞ。自分の息子と嫁さんが暮らす家に来られて、なんとも嬉しい限りだ」

「あー、はい。僕も、来ていただいてとても嬉しいです。ね、エステルちゃん」

「は、はい」


 やっぱり、親子プレイと言いますか、そういう設定で通す訳ですね。

 そうだろうとは思っていたけど、実際にこうして間近に対面して言葉を交わしてみると、いやそれは無理があるのではという非現実感と、そうなのだろうなという納得感とが徐々に混ざって行く感じだ。


 産みの親と育ての親という言葉があるけれど、この場合、見護りの親ですかね。

 この世界の人外の存在からは、俺は良くアマラ様とヨムヘル様の預り子と呼ばれるので、預り親ということなのだろうけど。


 俺の場合、今世、前世、前々世と、憶えている魂の記憶の中だけでも3組の両親が居る訳で、特に前世などは産みの親であっても親といった感覚がほとんど無かった。


 なのでこういう風に複数のせいの記憶や意識を現実感覚として有してしまうと、自分自身ですら親という存在への絶対性というか唯一無二性と言いますか、そんな理解が難しくなってくる。


 でも、そういった記憶の中の過去の両親像と比べても、いま眼の前でニコニコしているこのおふたりの方が、よっぽど自分の親なのではないかって、だんだん思えて来るのが不思議なのだ。

 もちろん、グリフィニアの両親の方が実在の親感は強いのだけどね。


「わたしたちがそう思って、もしあなたもそう思ってくれるのなら、それがそうなのですし、それで良いのよ。サクヤちゃんからも、あなたの前のせいのときのことはすべて聞いていましたしね。あの子、自分があなたの母親になれなかったから、こちらではお願いしますって」


 おそらくなんとなく不思議な感覚のままで黙っておふたりに顔を向けている俺に向けて、アマラ様がそう口を開いた。

 言葉や念話で伝えた訳でも無いのに、あれこれ考えていたことを受取ってそれに応えてくれたみたいな優しい声だった。



 ラウンジにはアマラ様とヨムヘル様を囲んで、人外の方たちが腰を落ち着けている。

 その彼らは、まるで親子の会話を邪魔しないようにという感じで、珍しく静かにお茶を飲んだりしながら黙って俺とおふたりのやり取りに耳を傾けていた。


「そう言えば、アレアとミネルはどうしてここに居るんだ?」


 その会話がひと段落したところで、ヨムヘル様がその彼らの方を見てそんなことを言う。


「あはっ、大将、いまさらですか」

「ケリュから呼ばれて、昨日こちらに来たんですよぉ」

「アレアが見聞きして来たドワーフの王国での一件で、それでニュムペさんとドリュアさんにも集まって貰い、ルーも伴ってミネルに連れて来て貰ったということです」


「ふーん、ニュムペちゃんはご近所だから居るってわかってましたけど、ドリュアちゃんもわざわざ遠いところから、わたしたちに会うために来てくれたものだと思ってたのですけれど」


「あ、お母さま、それはもちろんですわよ。お母さまとお父さまが久し振りに降りて来られるからってアルさんに聞いて、ぜひともお会いしたくて、それにそのドワーフ王国の件もありましたし、それで……」


「まあまあ、お母さま。ドリュアさんは大陸の東の果てから、こうして来てくれているんですから」

「そうね。もちろん、あなたたちとも会えてとっても嬉しいのよ。ね、お父さんもそうでしょ?」

「お、おう、もちろんだとも。で、サラとグノのふたりはどうした」

「あー」


 5人の姉弟きょうだいのうちのふたり、火の精霊のサラマンドラ様と土の精霊のグノモス様ね。


「あの子たち、自分たちの棲み処から離れて、人族の王国とかの中に来るのを嫌がったんでしょ?」

「特にサラは、相変わらずの引き蘢りだろうからな」


「えーと、サラ殿とグノ殿にもいちおうは声掛けをしたのですがね。それでサラ殿はともかく、グノ殿は自分の膝元が襲撃を受けたのだから、暫くはドワーフの王国を離れる訳にはいかないと、ましてや親の気侭に付き合う必要は……」


「アレアっ」

「あ、いや、その、まあ彼が言うように事件が起きたばかりですから」


 まあ、親の気侭と言ってしまえばそうなのだし、ましてや会ったこともない俺のところに態々来ようとは思わないですな。


「あのふたりのことは良いか。それでどうなのだ、その事件というのは」

「はい。アマラ様とヨムヘル様には既に概略はご承知かと思いますが、あらためて起きた出来事だけお話ししますと」


「まあ待て、アレア」

「あそこでシモーネちゃんが、こちらの様子を伺っているわよ」


 振り返って見ると、確かにアマラ様の言うようにシモーネちゃんが何か言いたげにこちらの方を見ていた。


「どうしたの? シモーネちゃん。あ、もうお昼の時刻だったかしら」

「はい、エステルさま。それで、どうしましょうかって……」

「そうしたらお昼にしていただきましょうか。アマラさま、ヨムヘルさま、昼食の用意が出来たのですけれど」


「まあ、お昼ご飯ね。とっても楽しみにしていたのよ。いただきましょう」

「ザックのところの食事は美味しいらしいからな。これは楽しみだ」

「そうなのよ、お父さま。アデーレさんの作るお料理は、とっても美味しいのですよ」

「うふふ、わたしなんか、いっそのことシルフェ姉さんと一緒に、こちらで暮らそうかなんて思うぐらい」


 アデーレさんの作る料理を良く知っているニュムペ様はともかくとして、ドリュア様がうちに来ちゃうと世界樹とかエルフとかが困ると思いますので。

 尤もシルフェ様の場合も、近年はほとんどこっちで暮らしているのだけど、まあ向うの妖精の森もファータの一族も問題無く回っているみたいですけどね。




 昨晩の夕食はテーブルを増やし、なんとか席を詰めて全員が食堂でいただいたのだけど、更におふたりが加わったのでさすがに広さ的に限界だった。

 なにせ現在の王都屋敷にはいつも住人の22名と1羽に加えて、神様が4名、精霊様が2名、神獣が1名増えているからね。


 俺的には本意ではないのだけど、今日の昼食についてはふた組に分けて食事をしていただくことにした。

 あと人間の面々からは、アマラ様とヨムヘル様と同じテーブルでは畏れ多くて落ち着いて食事が出来ないという、そんな声もありましたので。


 なのでまずは、人外の方たちに俺とエステルちゃんとクロウちゃんが同席するかたちでの食事となった。

 なおシモーネちゃんには、配膳などもあるので人間枠の方に入って貰いました。


 それでも、神様が5名、精霊様が4名、神獣が1名、ドラゴン3名に人間2名と式神1羽で計15名と1羽という、かなりの人数かつ訳の分からない構成ですな。

 だけど今夜の夕食ではやっぱり全員で食事をしたいので、大広間を使おうと考えています。


 また、人間の食事は大丈夫なのかという心配も多少はあったのだけど、そこは問題がありませんでした。

 まあこれまでの経験上、人外の方たちの人間の暮らしに関わるそういった受容力が高いと言いますか、食事をはじめとした生活面ではすべて人間に合わせてくれている。



「ほんと、美味しいわね」

「アデーレさんといったか、彼女の作る料理はなかなかのものだな」

「でも、こんな大人数のお食事をひとりで作るのって、大変よね」


「そこはお母さま、うちではエディットちゃんも料理が上手になりましたし、シモーネもお手伝いしますし、大変なときにはエステルとシフォニナさんが加わって、クバウナさんも手伝っていただけるのですよ」


 アマラ様の疑問に、エステルちゃんが口を開く前にシルフェ様がそう応える。

 ちなみに、ショコレトールとカーファ作りはザックお菓子工房の仕事なので、カリちゃんとライナさんがメインです。


「シルフェ、あなたはすっかりこの家の人なのね」

「あはは、まあ居候なのですけどね」

「わたしも暫くこちらに置いていただくのはダメかしら、シルフェ姉さん」


 だからドリュア様、うちは別に居て貰うのは良いですけど、世界樹はどうするですか。


「それはザックさん、世界樹の苗木をこちらに植えて育てれば、あとは地面を通じて向うの本体に繋がりますから、わたしが向うを離れていても大丈夫ですのよ……えーと、たぶん」


「それを言うなら、このお屋敷の敷地の中にわたしの精霊池を作れば、わたしもあちこちの水源池と繋がってこのお屋敷で暮らせます。ナイアの森まで直ぐに行けるようになりますし、アラストル大森林とも繋がりますしね」


 ニュムペ様までそんなことを言い出した。

 あー、この屋敷の敷地内に世界樹の若木と水の精霊の池ですか。

 そんなことしたら、この王都のど真ん中に次元の違う異世界が出現しちゃうんじゃないかなぁ。


「もうあなたたちは。ちゃんと自分の持ち場でお役目をしないとダメですよ。まあシルフェの場合は風ですから、あちらこちらどこへでも行って良いのですけど」

「シルフェ姉さんだけ、ずるい」


「でも、こうして親子が揃って過ごすのは良いわね」

「でしょ、お母さま。ザックさんとエステルさんもわたしたちの姉弟きょうだいなのですから」


 シルフェ様は俺たちといつも一緒に居るし、ニュムペ様もわりと頻繁に会っているけど、ドリュア様は滅多に会えないからなのか、今日はのほほんとしたお姉さんの雰囲気ではなくて、なんとなく積極的だ。


 大地に根を生やす樹木の精霊であり世界樹の護り手という立場上、自分自身の気軽な移動がままならないだろうから、こうして普段会うことの無い姉妹が揃い、ましてや両親までが共にして食事のひとときを過ごすなんて、滅多に無いことなのだろうな。


 だからって、うちに世界樹を植えるのはやめましょうよ。

 周囲にどんな影響を及ぼすか分からないしさ。


「わたしたちも暫くザックのもとで暮らそうかしら」

「お、それは名案だな、アマラ」

「うふふ。良い案でしょ」

「お母さま、それならやっぱりわたしも。アルさん、世界樹の苗木を取りに行きますわよ」

「そうしたらわたしも、ここに精霊池を作ります。ライナさんに穴を掘って貰えば」


 あー、みんなで何を言ってるんだか。




 賑やかで和やかな神様、精霊様の家族団欒の昼食も終えて、食事を待って貰っている人間メンバーに食堂をバトンタッチして、再びラウンジの方に場所を移して貰った。


「えーと、ヨムヘル様」

「父さんな、ザック。父上でもいいぞ」

「あー、では、父上」

「わたしは母さんね、ザック」

「はいです。それで、食事のあとの飲み物ということで、カーファというものをお出ししたいのですけど」


「だいじょうぶ? ザックさま」

「カーファだな。俺も昨日飲んだが、あれはなかなかに良い飲み物ですぞ」

「わたしはちょっと、かな。ミルクとお砂糖を入れたら美味しかったけど」

「わたしもですわ。でもショコレトールとカーファの大もとはわたしですし、ザックさんに工夫していただいたので、ぜひとも飲んでいただきたいですわ」


「そうしたらカリちゃん、準備をしよう」

「あいあいさー」

「もう、どなたにでも、いちどは振舞わないと気が済まないんですよ」


 ニュムペ様には以前に水の精霊屋敷で、ルーさんには大森林で飲んで貰っているし、ドリュア様とアレア様、ミネル様にも昨日振舞いました。

 そのなかでは、アレア様がいちばん気に入ってくれたんだよね。

 なのでヨムヘル様、あ、いや、ヨムヘル父さんか父上にも気に入って貰えるのではないかな。


 ではカリちゃん、全員分のカーファを淹れて、あとは温めたミルクと砂糖に、カーファ請けのミルクショコレトールですな。あいあいさー。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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