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第141話 とうとう来られました

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


 翌日の朝、早めに朝食を済ませた王都屋敷の皆は、なんだか落ち着かない様子で、それでも各自の午前の仕事へと向かって行った。

 一方で、朝食の後片付けと昼食の準備を手伝ってくれているシフォニナさんを除いて、お客様が加わって人数の増えている人外の方たちも、心無しかそわそわしている。


 王都屋敷全体がどうもザワザワしているのだが、それが何故なのかって、今日、来られるからなんですよね。あの方たちが。


「どんな具合ですかね」と俺はシルフェ様に聞いてみた。


「ちょっと待って。いま伺ってみるから」


 神様3人に真性の精霊が3人も居るのだが、ここは精霊三姉妹の長女であの方たちの娘であるシルフェ様にお任せするのが良いだろう。


 その彼女は目蓋を閉じて暫し瞑目するようにしていたが、「だから、早いって。だって、じゃないでしょ。こっちにも準備があるの。あと、そうね、こっちの時間で1時間待ちなさい」と声に出した。


「えーと」

「1時間後に来るって」

「ははぁ、待ちきれなかったようだな」

「お母さまとお父さまらしいです」

「降りて来られるの、何百年振りだか、ですもんね」

「でも、大人しく言われた通りにするみたいよねー」

「あの御方たちにそう言えるのは、シルフェ殿ぐらいのものだな」


 そうなんですね。

 だいたい、この世界における最高神とか天界とかについては、俺は良く分かっていなくて、いったい何処から来るのかすら知らない。

 でもまあともかくも、アレア様の言ったことには何となく納得した。


 カァカァカァ。ああ、天界っていうのは隣り合わせの違う時空なのじゃないかって? 平行世界的なこと? 高天原的な場所なのかな。それとも北欧神話の九つの世界みたいなものか。

 それだと何て言ったっけ? カァカァ。ああ、アースガルズか。


 北欧神話における九つの世界とは、大地にあるミズガルズと呼ばれる人間の国を中心としたとき、概念的には上方に妖精の国アールヴヘイム、ヴァン神族の国ヴァナヘイム、そしてアース神族の国アースガルズが存在するとされる。

 アースガルズには、アース神族の長である万物の父オーディンが居るのだね。


 また下方には巨人の国ヨトゥンヘイム、小人の国ニザヴェッリル、黒い妖精の国スヴァルトアールヴァヘイム、霧の国ニヴルヘイム、炎の国ムースベッルスヘイム、死者の国ヘルヘイムがあり、これらを総合して九つの世界という訳だ。


 ただし、上方下方というのはひとつの概念でしかなく、単純な位置関係を表しているということでは無いのだとか。

 つまり上下左右、東西南北では無く、もしかしたら九つの平行世界か多元世界ということもあり得るというのが、クロウちゃんの解説というか解釈だな。


 ちなみに、北欧神話においてはこの九つの世界をユグドラシル、つまり世界樹が貫いているのだそうだ。



「なんですか? ザックさん」

「あ、いえ、天界と地上世界とを繋ぐのが世界樹と聞いていたので、どんな風に繋いでいるのかなとか考えていまして。以前に僕らが行ったときには、確か上空から世界樹のてっぺんが見えたような……。それでつい、ドリュア様の方を」


「ああ、そういうことですの。別に世界樹の枝とかが、天界に直接伸びている訳では無いのよ」


「それはあれよ、ザックさん。ほら扉にも、開け易いドアと開けにくいドアとか、鍵の掛かっているドアとかがあるじゃない、そういう扉のうち、世界樹はわりと開け易いドアで、ルーのとこの大森林なんかは開けにくいけど開けられるドア。それで、人間が造った祭祀のやしろなんかは、鍵の掛かったドアかそれとも窓があるってところかしら。まあ、ドアや窓そのものの無いやしろもあるでしょうけどね」


 ミネル様がドリュア様の言葉を継いでそう教えてくれた。

 ほー、そういう捉え方なんですか。するとこの王都屋敷は?


「ここはシルフェさんとケリュと、それからザックさんが居るから、開けようと思えば開けられるドアでしょ?」

「ははあ、そうなっているですか」


「まあな。だがここの場合、開けようと思うのが誰か、によるだろう。なので、そうそう誰でも開けられるものでは無いのだ。その点では大森林よりも難しい。なあ、ルー」

「そのようですな。あちらは開ける力があるかどうかが問題で、ここは開けようと思うのが誰かが問題、そういう違いではないですかな」


 ケリュさんとルーさんが解説してくれたけど、なんだか禅問答みたいであります。


 だけど、天界と地上世界とを繋ぐ扉がこの王都屋敷にも出来ていて、その扉を開けていよいよ来られるのですな、アマラ様とヨムヘル様が。

 王都屋敷が朝から何だか落ち着かないのは、まあそういう訳なのであります。




「それで、どちらにお出でになるのでしょうか?」


 厨房での片付けと昼食、夕食をどうするかをアデーレさんと打合せ、アマラ様とヨムヘル様にお泊まりいただく用に準備してある2階のいちばん広い居室を再確認し終えて来たエステルちゃんが、シフォニナさんとラウンジに戻って来てそう尋ねた。


 つまり、そのおふたりがまずどこに現れるのかという問いだ。

 気が付いたらこのラウンジにひょっこり座って寛いでいたとかだったら、驚いちゃうからね。


「それはあれよ。わたしはあっちのホールに、ケリュを座標にして直接に転移して来ちゃったけど、あの方たちは意外と生真面目だから玄関前とかじゃないかしらー。ねえ、シルフェさん」


 そう言えば昨日、アレア様とルーさんを伴って現れたミネル様はそうだったよな。


「玄関前に来るように言っておいたわよ。昨日のミネルさんは仕方無かったけど、いくら息子の家とはいえ、やっぱり初めて訪ねて来るのだから、玄関から入らないとでしょ」

「そうしたら、お姉ちゃん。お出迎えは玄関前の方が良いですかね?」

「ええ、そうなるわね」


 そうなりますか。そうすると、屋敷の全員を集めて一辺に挨拶するのが良いかな。

 俺がそう言うと、「そこはザックさんにお任せするわ」ということだったので、皆を集めることにした。

 さっきシルフェ様が1時間後にと伝えていたので、今だとあと40分ぐらいですか。


 到着予想時刻の10分前に身嗜みを整えて玄関前の馬車寄せに集合という予定にして、エディットちゃんとシモーネちゃんが皆に伝えに行った。

 なお、服装は普段着の方が良いということなので、そう伝えて貰う。


 なんでも、人間の礼装的なものには価値観的にあまり意味が無いし、それにあくまで内輪の訪問なので、変に着飾るよりは清潔で整った普段着の方が身近に感じられて安心するらしい。


 そこは、俺が前に居た世界の神様でもそんな感じだったな。

 実際にいまここに居る神様たちも、いつもの普段着のままのケリュさんとか、魔法少女みたいなミネル様とか、どこぞの戦士か上位冒険者といった風のアレア様とかバラバラなので、まあ気にしなくて良いのだろうね。


「でも、ザックさまはお着替えですよ」

「え? なんで?」

「それは、自分の息子がだらしない恰好とかだと、親としてがっかりするじゃないですか。ねえ、エステルさま」

「うふふ、そうね。カリちゃん、連れてって」

「はーい。はいはい、行きますよ」


 俺、だらしない恰好かなぁ。屋敷でいつも着ている普段着なんだけど。

 とか思いながらもカリちゃんに手を引っ張られ、自分の部屋で無理矢理着替えさせられ、髪なども整えられた。

 それでも彼女が選んだのは、お客様が来たときなどに着るまあ普段着のちょっと良いバージョンなんだけどさ。


「はい。これで、息子が立派になったと、お喜びになられます」

「そうなのかなぁ」


 これまで天界とのリモートアクセス越しでは対面しているけど、だいたいがリアルで会うのは初めてなのだから、息子が立派になったとかどうとかは分からないと思うのですけど。



 ◇◇◇◇◇◇


 玄関前、馬車寄せの少し広くなっている場所に屋敷の全員が集合した。

 ユルヨ爺やジェルさん以下の独立小隊メンバー、エディットちゃんとシモーネちゃんや昼食の準備を一段落させたアデーレさんも含め、全員が少し緊張しながらも整列する。

 正門の扉は閉じて鍵を掛け、アルポさんとエルノさんも皆と一緒に並んでいる。


 屋敷玄関を背にしては、俺とエステルちゃんにクロウちゃんを抱いたカリちゃんが立ち、神様、精霊様、エンシェントドラゴンの人外の方たちも集まった。


 今はその全員が、ぽっかり空いた誰も居ない空間を見つめている。


「なんとなくそこを空けたけど、そこに現れるのかな?」

「お姉ちゃんがその辺で大丈夫って言ってましたから、大丈夫だとは思いますけど」

「ザックさまの居る前に来られると思いますよ、きっと」

「そうなのかなぁ」


 そんなことを3人でコソコソ話していたら、なるほど、その空いた空間が光り出した。

 その輝く光の塊を見た人間のメンバーは、全員が一斉に片膝を突いて畏まる。

 特にそうしてお迎えすると決めていた訳では無いけど、その光を浴びて自然とそうした行動を取ったらしい。


 俺の隣のエステルちゃんも膝が落ちそうになったみたいだけど、立っている俺が手を繋いでいたので、片膝を突く姿勢にはならなかったようだ。


 すると、その光の塊がパーンと弾けるように飛び散って、その中からおふたりが姿を現した。


「来たわよ、ザック、エステルちゃん」

「ようやく来ることが出来た。元気そうだなザック。エステルさんも益々お美しい」

「あなた、来た早々で息子のお嫁さんにお美しいとか。それはわたしもそう思うのですけどね」

「素直にそんな言葉が出たのだ、仕方なかろうが」

「だったら隣のカリちゃんも褒めないと。ねえ、カリちゃん」

「あ、いえ、わたしは」

「こうして見ると、ふたりは姉妹のようだな、美人姉妹の出迎えで幸せだぞ」


「あー、来たそうそう煩いのだけど。それに、こっちにも美人三姉妹が揃っているのよ」

「コホン、シルフェ、おまえも相変わらず美しいな。お、ニュムペとドリュアも来ておったのだな。なるほど、3人揃って会うのは久し振りだ。麗しき我が娘たちよ」


「おまえもって、もう、お父さまはわざとらしい。お母さま、お父さま、ようこそいらっしゃいました」

「こうして久し振りにお会い出来て嬉しいです、お母さま、お父さま」

「おふたりとも、変わらずお元気そうで何よりですわ、お母さま、お父さま」


 そうか、地上世界に居る彼女らもリモートで言葉を交わすことはあっても、なかなか直接には会えないのだよね。


「シルフェちゃん、ニュムペちゃん、ドリュアちゃん。わたしも久し振りに3人と会えて、お母さん嬉しいわ」

「ケリュ、アレア、ミネルも揃っているか。おお、アルとクバウナも居るな。ふたりには俺らも感謝しておるぞ。あらためて礼を言う」


「そっちに居るのはシフォニナさんね、あなたもお久し振り。それから……」

「シモーネというわたしのところの子よ。エステルに付けています」

「シモーネでしゅ」

「そう、エステルちゃんに付いてくれているのね。よろしくお願いしますね」

「はい」


 そんな感じで、賑やかにも人外の方たちとの挨拶を交わしたアマラ様とヨムヘル様は、あらためて俺とエステルちゃんとカリちゃん、それからクロウちゃんの方に身体を向けた。


 これまでにも映像のようなリモートを通じて何回かお会いして来たが、こうして初めて直接におふたりを前にすると、人間の年齢にすればまさに自分の父母といった見た目に思えて来る。


 背が高く体格も素晴らしく少し長めの金髪に精悍な面立ち、そしておおらかそうに笑顔を浮かべる中年男性といったヨムヘル様。

 一方で、すらりと背筋が伸びた美しい立ち姿で、同じく金髪の長い髪を靡かせ、優しそうな表情を美しい顔に浮かべているアマラ様。


 なんとなくグリフィニアの両親にも似ていて、あるいはエステルちゃんの両親であるエルメルさんとユリアナさんにも少し重なって来る。

 それを心の奥から沸いて来る懐かしさ、という言葉にするのは違うかも知れないけど、でもそんな安心感を与えてくれるお姿だった。


「ようこそお出でくださいました、アマラ様、ヨムヘル様」

「エステル、です。こうしてお会い出来て、とても感激しています」

「あらためまして、カリオペです。よろしくお願いします」

「カァカァ」


「うふふ。はい、やっと会えて、わたしも嬉しいですよ」

「俺もだぞ」

「さて、ここからは堅苦しいのは無しですよ。いいわね、ザック。あなたはわたしたちの息子なのですから。エステルちゃんと、それからカリちゃんとクロウちゃんもね」


「えーと、はい、わかりました。それでは屋敷の中に入っていただく前に、うちの者たちをご紹介してよろしいでしょうか」

「だから、堅苦しいのは無しって、ね。ええ、紹介してくださいな。わたしたちからも、日頃のお礼を言わないとですしね」


 息子だから堅苦しいのは無しって言われてもさ。

 尊崇はしても特に過大な畏れは感じていないし、遠慮もしなくても良いのかもだけど、それでも冷静に考えてみると、この世界の最高神なんだよな、このおふたりって。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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