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クリスマス番外編 騎士団に入った理由(前編)

更新に間が空いてしまいました。

ここまで読んでいただいている皆様、本当に申し訳ありません。


今回と次回は恒例のクリスマス番外編となります。

ちょっとした過去エピソードとなりますが、お読みいただけると幸いです。


 話は少し遡る、あれは5月の初めだっただろうか。

 ティモさんたちのリガニア紛争探索部隊が出発して、その彼らに同行していたミルカさんが戻って来た翌日だから、5月の8日ぐらいだったかな。


 探索部隊を送り出したあと、俺たちはグリフィニアで街の拡張工事で出来上がっていたギルド施設へ見学に訪れたり、その際のちょっとしたこともあって、ジェルさんからの大号令のもと集中訓練を行っていたりしていた。


 それで戻って来たミルカさんから、ファータの里に到着した後に里の爺婆4名を加えて10名となった部隊が探索に出発したとの報告を受け、俺たちは10日には王都へ行く予定としていた。


 なので、それまでの2日間は訓練を休んで王都行きの準備兼休養日にした。

 ジェルさんはこの僅かな休養日を使って、自分が当主であるバリエ騎士爵家が治めるバリエ村に帰り、村を任せているお父上や家人、村人たちに会いに。


 オネルさんは、4月末に正式に騎士に叙任された報告も兼ねて、同じく自分の生まれ育ったラハトマー村に帰って行った。

 こちらはお父上のエンシオさんが現役騎士としてグリフィニアで在任しているので、ご家族や村の人々へ報告がてら顔を見せにだね。


 それで、オネルさんと一緒に騎士になったライナさんだけど。


「わたしはさー、日帰りとか1泊2日とかで里に帰れないんだから、ブルーノお父さんのところに帰郷よー。いいでしょ? ブルーノさん」

「ははは。まあいつものことでやすからね」


 まあライナさんの場合、実家に帰りたいのか帰りたくないのは別として、彼女が生まれ育ったのはアルタヴィラ侯爵領の領都近郊にあるというバラーシュ村という所だ。

 グリフィニアからだと、長距離の乗り合い馬車で行くとしても王都で乗り換えとなり、5日か6日は掛かるだろう。


「わたしが乗せていきますよ、ライナ姉さん」

「あー、余計なことは言わないのよー、カリちゃん」

「で、ありますか?」

「で、あります」


 まあ、ドラゴン姿に戻ったカリちゃんに乗せて貰えばあっと言う間で、日帰りでも余裕だろうけどね。


 ということでライナさんは、グリフィニアに自宅を持っているブルーノさんの家に行って過ごすことになった。

 ので、俺とエステルちゃんとカリちゃん、ソフィちゃん、クロウちゃんもそれに便乗して、ブルーノさん宅に遊びに行くことに。まだお邪魔したことが無いしね。


 ちなみにフォルくんとユディちゃんは今回、ジェルさんがふたりを伴ってバリエ村に行っている。

 独立小隊は騎士団と違って領内の村々の巡回はしないので、騎士爵家村を訪れるのはちょっとした小旅行がてら、良い経験になるだろうね。


 アデーレさんとエディットちゃんも休暇にして貰おうと思ったのだけど、「お屋敷の人たちが普段通りなのに、わたしたちだけそうは行きませんよ」と言って、彼女らからやんわり断られた。

 まあでも、この日はトビーくんと一緒にお菓子作り三昧の日にするらしい。屋敷の侍女さんたちが喜ぶよね。



「まずは掃除でやすよ?」

「いつもそうなのよねー」

「はい、お手伝いしますよ」

「任せてください」

「あ、ザックさまは手を出さないように」


「ライナさんなら勝手がわかっているでしょうから、ブルーノさんもザックさまとお話でもしていてくださいな」

「そうは言いやしても」

「ここは女性陣に任せましょうよ、ブルーノさん」

「そうでやすか? ではお任せしやしょうか」

「カァ」


 ブルーノさんの家は、子爵館からそれほど離れていないグリフィニアの東南地区に在る。


 この東南地区の北の一画には子爵館、西南地区と境を接する西の端には冒険者ギルド、それを繋ぐアナスタシア通りのギルド近くには、冒険者に馴染みの深い商店も多くあって便利な場所。ただし子爵館近くは閑静な住宅街だ。


 まあ、元は領内一の冒険者で、その後騎士団に入り、今は調査外交局独立小隊員のブルーノさんとしては絶好の住環境だよね。


 ただブルーノさんの場合、俺と行動を共にするようになってからは1年の大半は王都屋敷住まいで、グリフィニアに帰っても調査外交局本部のあるヴァネッサ館に自分の部屋を持ってほとんどそこに居るので、この自宅は偶にしか帰っていないらしい。

 なのでまずは掃除、という訳だ。


 それでこのブルーノ家だが、二階建てのなかなかに立派な建物で、ある裕福な商家のご隠居さんのための家だったものを、そのご隠居さんが亡くなられて譲り受けたものなのだそうだ。


 そんな家屋なので屋敷と言うほどの大きさは無いけど、前の持ち主が趣味人でセンスの良い人だったらしく、物が多過ぎない落ち着いた雰囲気の内装と家具が馴染む、心地良い空間になっている。

 1階は広いリビングと隣の食堂、キッチン。それに小振りの部屋が2部屋ほど。

 2階にも4部屋ほど部屋があるらしい。



「いえ、譲り受けてから、状態も良くて内装や家具なども自分好みでやしたので、ほとんど手は入れてやせんよ。ただ、1階の部屋をひとつ、自分の作業部屋にしやしたけどね」


 手作業でする木工や小物、道具作りが趣味のブルーノさんの、作業部屋ということのようだ。

 そこだけは自分で改装し、あとは亡くなったご隠居さんが揃えた家具装飾なども含めてすべて居抜きで買い取ったらしい。

 さすがはグリフィニアのトップ冒険者、資金は潤沢だったんですね。


「いやいや、自分は趣味以外にはあまり贅沢はしなかったでやすからね。それに、冒険者稼業を辞めたあとの、ついの住処というつもりで。でも家を購入した当時は、年の半分を王都で暮らすなんて、思いもしやせんでしたよ」


「それって、騎士団に入った頃?」

「そうでやすねぇ」


 ブルーノさんが冒険者を引退して騎士団に入団したのは俺が4歳のとき、今から12年ほど前だよな。


 その前年には、夏至祭の会場にエンキワナ大陸の妖魔族の偵察員だか工作員だかが現れて、テロ活動を行おうとする夏至祭事件が起きた。

 それで当家としては急ぎ騎士団の組織改編と強化に取組み、それに伴って領内の優秀な人材の公募登用を行った。

 それに応募して騎士団員となったのが、ブルーノさんとそれからライナさんだった訳だね。


「僕は小さかったから良く知らなかったんだけど、ブルーノさんとライナさんて、どうして騎士団に入ったんですか?」

「どうして騎士団に入団したか、でやすか。それは……」


「こんな良い家を手に入れて、たぶんですけど、お金も充分にあって、冒険者としての名声も高くて。それなのに、わざわざ、騎士団の従士から始めなくても良かったのでは、とか普通に思っちゃうんですよね」


 俺がブルーノさんと初めて出会ったのは騎士団員になったその翌年だ。

 騎士団見習いの訓練に参加させて貰っていた俺とヴァニー姉さん、アビー姉ちゃんが、その特別訓練でアラストル大森林に初めて入ったときのことだね。

 そのときにはライナさんもブルーノさんと同じ従士として付き添ってくれていて、ライナさんとは彼女がいつも話すように、俺が2歳の頃から知っている。




「お掃除、だいたい終わったわよー」

「お紅茶でも淹れましょうかね」

「あ、それならキッチンよー。エステルさま、わかる?」

「さっきお片付けしたから、だいたいわかるわ」

「わたしも手伝います。ライナ姉さんとカリ姉さんは座ってて」

「いいの? ソフィちゃん」

「ザックさまとブルーノさんは、何のお話をしてたですか?」


 本格的な大掃除という訳でもなく、見た感じ綺麗に片付いていたブルーノさんの家なので、掃除は直ぐに終わったようだ。

 女性4人で取り掛かっていたしね。


 それで、居心地の良いリビングのソファに座って話していた俺とブルーノさん、クロウちゃんのところに、ライナさんとカリちゃんが来て腰を落ち着ける。


 エステルちゃんとソフィちゃんはキッチンに行って、紅茶の準備をしてくれているようだね。以前には、子爵館で侍女の仕事もしていたエステルちゃんには手慣れたものだ。

 もちろん彼女は屋敷から大量のお菓子を持って来ていて、お昼用の料理は俺の無限インベントリに収納されていますよ。


「あー、ブルーノさんがこの家を購入した頃のことを話していて、ブルーノさんはそのあとわりと直ぐに騎士団に入ったのだけど、それがどうしてなのかって聞いていたところ」

「へぇー。って、そのとき、ライナ姉さんも冒険者を辞めて、騎士団に入ったんですよね」

「あは、そうよねー」


「これまで僕も、ブルーノさんとライナさんがどうして騎士団に入ったのか、ちゃんと聞いたことが無かったから、この家に来させて貰ったのがそれを聞く良いタイミングかなって思ってさ」


「それはわたしも聞きたいですよ、ブルーノさん、ライナさん」


 紅茶を淹れて、お茶請けのお菓子も用意したエステルちゃんがソフィちゃんとキッチンからこちらに来て、それぞれにティーカップを配りながらそう言った。

 彼女もちゃんと聞いたことが無かったようだね。



「ザカリー様に尋ねられて、エステルさまも聞きたいとおっしゃるのなら、これは話さないといけないでやすかねぇ」と、ブルーノさんはライナさんの顔を見る。


「そう? だったら仕方ないか。それほどの話でもないし……。あれは、グリフィニアで夏至祭事件が起きた年の翌年のことよねー。カリちゃんとソフィちゃんは、夏至祭事件のことは知ってる?」

「はい、聞いてますよ」

「わたしもだいたいは知ってます」


 その年には既にグリフィニアに探索者見習いとして来ていて、夏至祭事件の事後探索にも関わっていたエステルちゃんは、大きな眼をパチパチと何回か瞬かせたものの、敢えて何も言葉には出さなかった。


「そう、ならそこは省略して。それで、グリフィン子爵家としては、いまの体制に騎士団を整備するのと同時に、新しく騎士団員になる者を募集したのよねー」


 騎士団の騎士というのは、従来どこの貴族家でもだいたいが世襲で、同時に従騎士や従士というのはその騎士爵家の一族郎党が務めるのが普通だ。


 従って、騎士爵家ごとで従士の数や技量が不揃いとなり、騎士団全体としては闘いに備える集団としての質の維持やレベルアップには苦労する。

 また騎士爵家単位の組織なので、全体的な指揮や指示系統で正確性や迅速性の欠如といった不具合が出てしまいがちな側面がある。


 うちの騎士団としては従来から騎士、従士の質は高かったものの、領内の優秀な人材を公募することによって騎士団員の更なる質的向上をはかると共に、騎士爵家に属さない騎士団直轄の高い能力を有した人材を一定数揃えたいということだった。


 そこでその公募の主な対象となったのが、同じく戦闘に従事する職業である冒険者だったのだけどね。

 でも冒険者というのは、基本的に組織に所属したくない言わば自由人の集まり。

 ある意味、騎士団員とは似て非なる性格の人間たちの業界とも言える。


 セルティア王国内でも優秀な冒険者がいちばん集まると言われるグリフィニアでさえ、いやだからこそ、俺の前々世の世界における個人事業主やスタートアップのような自由闊達な気性の冒険者ばかりで、騎士団員になろうとする者はなかなか現れないんだよな。

 そしてこの状況は、当時も現在もそれほど変わらない。


 それがどうして、あの頃、王国一の斥候職冒険者として名の知れたブルーノさんと、まだ少女ながら土魔法の天才冒険者として頭角を表していたライナさんが騎士団員になったのか。

 これまでふたりが何も語らなかったからだけど、俺にも長年の謎だったんだよな。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そしたら、わたしが話すわね。何か記憶違いのことがあったら、ブルーノさん、訂正して」

「ライナさんに任せやすよ」


「こほん。夏至祭事件があった年の秋の頃よね。ギルドの依頼書なんかが掲示される掲示板に、1枚の大きな張り紙が貼られて。『グリフィン子爵家騎士団員大募集』とかのタイトルだったわよね。あの当時ブルーノさんは、ザカリーさまたちも知っている通り、クリストフェルたちのブルーストームにアウニさんと一緒に所属していて、わたしは、ほら、去年の冬至イヴのときにアナスタシアホームに来ていたエヴェちゃんとセラちゃん、それからレティシアさんという人と、女性4人のパーティを組んでいたの」


「何て言う名前のパーティだったんですか? ライナ姉さん」

「パーティ名? ソフィちゃん、えーと、それはまあ置いておいてさ」

「美しき魔女と戦士、と言ったでやしたかな」

「ははあ……」

「ブルーノさんは何でバラすかなぁ」

「美しき魔女って、土の魔女のライナ姉さんのことですよね」

「カリちゃん煩い。良い案が出なかったから、エヴェちゃんがそう名付けて登録しちゃったの。話を戻すわよ」


 冒険者パーティの名称というのはだいたいそんなものの気がするが、若い女の子たちパーティの賑やかで無邪気な雰囲気がなんとなく伝わって来る。

 当時、ライナさんは確か13歳で、他のメンバーも十代だったか。レティシアさんはもう少しお姉さんだったですかね。


「うちのパーティメンバーはその募集の張り紙を見て、ただ『へぇー』って感じだったけど、ブルーノさんのところには直接、勧誘話が来たのよね?」

「自分とそれからアウニにも来やしたね、ウォルターさんとクレイグ騎士団長から」


 アウニさんは現在もブルーストームに所属して活動しているけど、その前にはブルーノさんとギルド長のジェラードさん、ギルドのナンバー2でアウニさんのお姉さんのエルミさん、それからダレルさんの4人で、15年戦争終結後に王国一と言われるパーティを組んでいた。


 当然ながら、ウォルターさんとクレイグ騎士団長は戦争の終末期からこのパーティメンバーとは知り合いだったから、まだ現役冒険者として活動していたブルーノさんとアウニさんに、おそらくは真っ先に声を掛けたのだろうな。


「アウニは『そんなの、入るわけ無い』と、鼻にもかけておりやせんでしたけどね」

「ブルーノさんは?」

「ははあ、あのときの自分でやすか? 自分はそろそろ、こういう稼業からは引退をとも考えていやしたので……。ダレルなんかを見ていても、毎日のんびりと自分の好きな仕事をして楽しそうでやしたし、この家を買ったのもありやしてね」


 ダレルさんが冒険者から退いてうちの子爵館の庭師兼管理責任者に就いたのは、母さんの嫁入りが決まって先代子爵のカート爺ちゃんに勧誘されたのがきっかけだ。

 そのことでブルーノさんたちのパーティが解散となり、それぞれの道へと歩むのだけど、それは俺が生まれる5、6年前のことだろう。


「そうなんですね。でもそのとき、ブルーノさんが引退しちゃってて、ライナ姉さんも興味がぜんぜん無かったら、いまのレイヴンも独立小隊も無かったかもですよね」

「そうなるわねー、ソフィちゃん」


「でも、そうしたら、どうしてブルーノさんとライナ姉さんが、騎士団に入ることになったんですか?」

「それがさー、その翌年の直ぐに、ある出来事が起きた訳よ」

「お、いよいよ本題ですね」



(つづく)



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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余話の「魔法少女のライナ」の続きだー!やったー!!
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