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第139話 皆で昼食、のち戦神と試合稽古

 初めましての神様や精霊様、神獣殿にうちの屋敷のメンバー全員を紹介し、皆で昼食をいただいた。


 まったく初対面なのはアレア様にドリュア様か。ミネル様とは大半の人たちがアルさんの洞穴で会っていて、ルーさんとはフェンリルの姿の彼に大森林で、レイヴン初期メンバーは会っていたかな。まあ人化した状態では初めましてですね。


 かつて遭遇した巨大なフェンリルがかなり恐ろしかった印象が強いせいか、宮廷魔導師のような今の姿の人がルーさんだと言われても、ジェルさんたちも直ぐにはピンと来なかったみたいだけど。


 ただ、無愛想な表情と鋭い眼光にはちょっと近寄り難い雰囲気があるらしく、全員が緊張して挨拶を交わした。

 ケリュさんからは「おまえ、少し笑え。怖いぞ」と言われて、なんだか無理に表情を緩めようとしていたみたいでした。


 一方でアレア様とミネル様は相変わらず賑やかで、アレア様は直ぐにジェルさんとオネルさんに目を付けて剣術の話などを始めた。

 また、一回会っただけで師妹関係になったミネル様とライナさんは、師と弟子というよりも既に長年の友だちといった雰囲気になっていて、カリちゃんも交えて笑い合っている。


 こういうところがライナさんの凄さというか、もう人間の常識をかなり手放し気味というか、まあ仲が良いのは良いことです。


 ドリュア様はシルフェ様とニュムペ様、そしてエステルちゃんも加わっての四姉妹と言いますか、以前に俺たちが世界樹を訪れて以来の顔合わせとなって、こちらも朗らかに談笑していた。


 昼食は食堂にテーブルと椅子を増やし、なんとか全員を収容していただいた。

 こういう非常識な面々が集まった食堂だけど、まるで家族や親戚、遠方からの友人などを交えたみたいな温かい食事風景に見えてしまうのは、俺自身をはじめとした王都屋敷メンバーの全員が、大なり小なり人間の常識の外に来てしまっているということでしょうかね。


 ただ、明日には来るらしいもっと非常識な存在の来訪を思うと、いったいどんなことになるのやらです。カァ。




 昼食が済んだあとは全員が手伝って後片付けをし、厨房で片付け作業のあるアデーレさんとエディットちゃん、シモーネちゃんを除いた王都屋敷メンバーと共にラウンジに移動して、午前の会議で出た話をざっと皆に伝えた。


 特に、次に魔物軍団が狙う可能性が高いのがファータの里だ、という話には全員に緊張が走る。

 しかし、「おそらく直ぐにということでは無いでしょうし、必ずわたしたちが事前にそれを阻止しますので、あなたたちは無闇に騒がないように」とシルフェ様が皆を安心させた。


 いつもならアルポさんとエルノさん辺りが大きな声を出して騒ぎ出すところだけど、さすがに本日集まった高位の存在たちの前では大人しかったのと、一族の始祖たるシルフェ様の言葉に対しては全面的な信頼があるからね。


 ただ、ユルヨ爺にはシルフェ様と俺から、近いうちに里に帰ってドワーフの王国が魔物軍団に襲撃されたという事実を、エーリッキ爺ちゃんに伝えて貰うように頼んでおいた。


「委細わかり申した。西の里は、地理的に攻撃目標になる可能性が低いと考えますが、向うの里長さとおさにも手紙を出すように致しましょうか。それから、東と南とも連絡を取らねばなりませんな。特に東とは近ごろ交流が無いのですが、位置的には東は大山脈の北方で、南は西の端に在りますでな」


 シルフェ様とユルヨ爺によると、東の里はニンフル大山脈の北に広がるニンフルステップの西部に位置しており、また南の里は大山脈の西端からほど近い森の中に在るのだそうだ。

 なので魔物軍団がもし、東西に長く伸びるニンフル大山脈を移動経路としているとしたら、東かあるいは南の里が経路的には対象となる可能性がある。


 そのふたつの里のファータ衆はどんな生業なりわいなのかを尋ねると、南の里は全面的にでは無いにせよ探索仕事も行っており、主な取引先は商業国連合に所属する商会なのだとか。

 なので、西の里との交流もそれなりにあるのだという。


 しかし東の里は、周囲に仕事を受ける纏まりのある国や大家たいけ、商会などがほとんど無いこともあり、遊牧的な牧畜業をしながら周辺の部族などから依頼された探索や時には戦闘も請負うのだとか。


「東はちいと野蛮な連中だて。だがまあ、戦闘力はそれなりにありますでな。そのうちにザック様を伴って訪れんといけませんなぁ」とユルヨ爺は言っておりました。




 そのミーティングを終えてひとまず解散となった。


「ならばザック殿、剣合わせと行こうか」

「そうですね。それでは訓練場へ」

「待って、わたしも行くわ」

「ならば我も付き合うか。ルーも暇だろうから来い」

「はあ。でしたら」


 俺とアレア様が剣を合わせるということで、ジェルさんとオネル、ライナさんも残っていてくれて、戦神のふたりを訓練場へと案内した。


 カリちゃんはエステルちゃんに言われて、お世話係でお目付役として付き添いだね。クロウちゃんももちろん来ている。

 アルさんはどうしようかと一瞬躊躇っていたが、ラウンジに残るのが精霊姉妹にクバウナさん、シフォニナさん、エステルちゃんの女性陣なので、それならばと一緒に見物に来ることになった。


 ちなみにミネル様は、この屋敷に施された魔法と呪法の防御と結界を観察したいと言っていたが、まずはこちらにするようだ。


「ふーん、ここが訓練場ね。ここにもかなり強力な防御魔法が張られているのね」

「隣にも貴族屋敷がありますからね。それで、多少の魔法を撃っても音や振動なんかが漏れないように、アル師匠が強い防御魔法を張ってくれたんですよねー」

「なるほどねー。屋敷の敷地全体に加えて二重のバリアになっているのか」


 ライナさんが簡単に説明してくれたが、まあ順番的には先にこの訓練場で、そのあと此処も含めて屋敷全体に、という感じなんですけどね。


「ミネル師匠だったら、この防御魔法は破れます?」

「ははあ、ライナちゃん。それ聞いちゃう?」

「試してみるとか言うではないぞ、ミネル殿」


「そんなことしないわよー、アル。たぶんだけど、アルのだけだったらなんとか破れるかな。でも敷地全体の方には、おそらくだけどアマラ様の加護が加わっていて大変そう。それに、ザックさんの結界だっけ? これ、ちょっと厄介よねー。あと、ケリュのも乗っかっているかしら。あなた、こんなに強い防御を張れた?」


「ははは。ザックに教えて貰ったのだ」

「なになに? ザックさんの異世界魔法? わたしにも教えてー」

「あー、たいしたものではありませんけど」


 異世界魔法じゃなくて呪法ね。教えたというかケリュさんが九字の呪文を遣って重ね掛けしたからだよな。


「ミネル。魔法はあとにして、まずは剣だ」

「そうだったわねー、アレア。あなた、さっさとザックさんに負けちゃいなさい」

「むむ、何を言う。俺にもいちおう、プライドというものがあるからよ……」

「あまりアレアを煽るな、ミネル」


「だって、手ぬるい剣の手合わせなんて、見ていてもつまんないでしょ? ねえ、ジェルちゃんとオネルちゃんもそう思わない?」

「は、ははあ」

「念のためですが、ザカリーさまは生身の人間ということも……」


「ダイジョウブよー。クバウナさんとカリちゃんが居るし。わたしも居るから、即死じゃない限りはどうにかするわよー」


 さいですか。出来ましたら、即死の場合も蘇生をお願いしたいところではありますが。



 まずは得物をどうするかということで、アレア様は当たり前のように真剣を主張したのだが、そこはお世話係でお目付役のカリちゃんから待ったが入った。


「本物の剣を遣うと、一撃で終了、ということもありますので、ここは木剣で願いますね、アレアさま」

「ほほう、一撃で終了とな。まあ、それは言えてるな」


 危ないからとかの人間の常識ぽい理由ではなく、カリちゃんはそんなことを言った。


「アレアが一撃で両断されるかー。それも見てみたいわよねー」

「静かにしとけ、ミネル」


「明日にアマラ様とヨムヘル様が来られるのに、その前の日にご子息に大怪我をさせるのもいかんからな。ならば木剣でよしとしようか」

「はい。ザックさまもいいですね?」

「もちろん良いけど、僕はこれを遣ってもいいですかね。いちおうハンデということで」


 俺はそう言って、無限インベントリから遣い慣れている本赤樫の木刀をするりと取り出した。


「なになに? 収納魔法? でもちょっと違うような」

「いえ、これも違う世界での授かり物でして」

「ふーん」


「ザカリーさまがあれを出すって、意外と本気ですよ」

「まあ本気でなければ、手合わせは出来んだろ」

「でも、本気の本気なら、カタナって言うの? あれ出しちゃうわよねー」

「だな」

「ですね。でも、エステルさまに叱られるのが決定ですけど」


 などとお姉さん方が囁き合っている。

 観戦のアルさんは余裕綽々ののんびりとした表情で、おそらく俺の剣術を初めて見るであろうルーさんは、いつもの鋭い眼光がますます鋭くなっているようだ。


「ほう。ただの硬い木の棒のように見えて密度が濃く、かなり鍛えられて遣い込んでいる得物だな」

「木刀、と言います。いえ、長年の相棒みたいなものですよ」

「なるほどな。そうしたら俺は、これを遣わせて貰おうか」


 アレア様はそう言って、オネルさんが用意してくれていた木剣の中でも最も肉厚で、ブレードが最も長い木剣を選んだ。

 うちには遣う者が居ないのでグレートソードサイズの木剣は常備していないが、これはロングソードサイズで最も長い両手木剣だね。ブレード部分だけでも1メートル以上ある。


 一方で俺が手にしている木刀は、前世の少し後の江戸時代で言うところの定寸にほぼ同じで、刀長は72センチ程度だ。

 だがその長さもさることながら大きく違うのは、俺の木刀よりもアレア様が素振りをして確かめている木剣は全体的に分厚く、重量もそれなりにあるということだ。


 それを彼は片手だけで、あるいは両手で握ってブンブンと何度も振り下ろしていた。

 でしたら俺も、少しだけ素振りをしておきましょうかね。



「ねえ、あのふたり、放っておいたらいつまでも素振りをしてるんじゃない?」

「まあ、素振りは大切だからな」

「わたしたちでも、訓練では500本はしますよ」

「へぇー、ライナちゃんも」

「わたしも騎士ですからね。でもザカリーさまなら、ひとりで1000本以上はあの木刀を振っていますよー」


 ギャラリーたちが素振りをただ見ているのも退屈だろうからと、俺は100本ぐらい振ったところでいちど木刀を下ろした。

 するとアレア様も、ほぼ同じタイミングで木剣を下ろして俺の方に身体を向ける。


「試合稽古、でいいんだな?」

「いいですよ」

「試合稽古? ああ、生命いのちのやり取りは駆け引き程度で、ほどほどに留める、ってことだな。まあそれでいいぞ」

「ならば、我が検分しよう。魔法は無しだが、キ素力は使っても良し。いいか?」

「承知」

「おう」


 ケリュさんがひと声掛け、アレア様も同意した。

 でも、試合稽古って意味、ぜったい分かって無いよね。俺を見つめる眼光が、先ほどまでの陽気な筋肉おじさんのものとは、まったく違ったものになっている。

 まあ良いでしょう。ケリュさんが検分、つまり審判役を務めてくれるみたいだし。


「ならば、始めっ」


 そのケリュさんの始めの声と共に、ふたりは同時に歩を進め、なかった。

 俺は相手の出方を見るつもりで自然体に構えて動かず、アレア様は大地に根を下ろした大木のようにどっしり構えて、ゆるゆると長い木剣を担ぎ上げる。



「来んのか? 来ねば始まらんぞ」


 暫くそのままの姿勢で相対していたのだが、アレア様がそう声を出した。

 まあ、戦神が相手では当然ながら俺の方が遥かに下位の者だし、この場合、下位から打ち掛かって行くべきでしょうね。


「では、参ります」

「おう」


 自然体で立って居た態勢から、一気に縮地もどき。瞬間に間合いを詰め、居合の抜き打ちのように太い胴体の左側を横から斬り抜け、そのままアレア様の後方へと廻り込む。

 相手が人間なら、おそらくは脇腹をざっくり斬った筈だ。続く二の手では背骨を断つ。


 だがそこはさすが戦神。木刀が彼の脇腹に達する寸前に、自分の木剣の刃先を下ろして差込み、俺の木刀を弾いていた。

 その瞬間的な対応により、彼の後方から二の手を出す筈の俺の足元が僅かにふらついた。


 そこをぐるりと身体を半回転させたアレア様の、いつの間にか引上げられていた木剣が落ちて来る。

 太く重い木剣が俺の頭部を断ち割る寸前、僅かに頭を動かして見切りながら、俺は後方へと跳ね飛んだ。


 ふう、危ない、危ない。あれがまともに当たっていたら、即死どころか頭部が破裂して神様であっても蘇生不可能になってますよ。


「ふむ。速いな、ザック殿。人間の技とは思えん」

「でないと、既に死んでいました」

「ははは、まさかな。では、今度は俺から行くぞ」


 そのひと言に、俺は更に後方へ跳んで距離を取る。

 しかしそれを見たアレア様は、木剣を肩に担ぎながら重戦車のように接近して来たのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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