第138話 今後の対策などなど
「さて、起きた事実を踏まえたうえで、その対策とこれからの我らの行動だが。アレアとミネルは意見があるか? アレアは大陸の東側を現況観察の途中だったな」
ドワーフ王国に攻め込んだ魔物軍団との攻防の事実をもとに、考えられる推測や意見をいろいろと話し合ったあと、この会議に区切りを付けるかたちで議長役のケリュさんがそう述べた。
「そうだな。俺はドリュア殿の世界樹から始めて、中央山脈を西方向に、金竜殿の宮殿、そしてグノモスのドワーフ王国と足を伸ばした途中だが、いったん天界に戻ろうかと考えている。だが、なんだ、思いもよらず大陸の西の端までせっかく来たので、本当はこのまま海を渡ってエンキワナ大陸まで渡り、さきほどザック殿の言葉にあった妖魔族の国の様子も見ておきたいところなのだがな」
ああ、このままエンキワナ大陸にね。この世界の神様の行動範囲は広いけど、どうやってティアマ海を渡るのでしょうかね。
でも、そんなことを言いながらアルさんに視線を向けていたので、まあ乗せて貰えば一足飛びか。
「しかし、やはりヨムヘル様のご意見も伺わなければならんだろうて。なので、いちど天界に戻ろうと思う。ミネル、頼めるか?」
「それは別にいいわよー」
俺の知っている天界と地上世界とを繋ぐ場所は世界樹とアラストル大森林だけど、ミネル様の転移なら何処からでもそのまま天界に行ける訳ですか。
「あー、それについてはだな、アレア」
「ん? ケリュ、なんだ? それって、俺が戻ることかよ」
「いやー、おまえが戻るのは我も良いとは思うのだが、ヨムヘル様への報告というところで」
「なんだよ。ヨムヘル様に報告しなきゃいかんだろうが」
「あ、いや」
「何が、あ、いや、だよ」
「その、来るんだな、これが」
「来る?」
「もう、あなたったら、何をモゴモゴ言ってるの。ちゃんと話せば良いでしょ」
ほら、ストレートに言わないからシルフェ様に叱られたでしょうが、ケリュさん。
王都屋敷側の人外メンバーとそれからルーさんは、もうどういうことか分かっているけど、敢えて口は噤んでいる。
「つまりだ、明日になると思うが、アマラ様とヨムヘル様が、ここに来られる。だから報告は明日には出来る」
「へ?」
「あらまー」
「おふたりが地上世界に降りられるって、いったいまたどうしてだ。俺たちが会議をしているからか?」
「いや、そうではなくて、息子の様子を見に、だな」
「息子って、ザックさんのことよねー。あははは。様子を見にわざわざ出て来るって、心配性な田舎のご両親かしらー。あははは、可笑しいわー」
大笑いしているミネル様の言い方。仮にも自分たちのトップで、この世界の最高神の二柱でしょうが。
この予定を初めて聞いたニュムペ様とドリュア様も、「まあ、お母さまとお父さまが来られるのね」「家族が揃う訳ですね。でしたら、サラさんとグノさんも無理矢理呼べば良かったかしら」などと騒いでいる。
しかし、ニュムペ様の言うように家族が揃うってことになるのか。
精霊三姉妹はおふたりの娘たちで、ケリュさんはその長女の婿。エステルちゃんは孫の生まれ変わりであり同じく娘でもあるのか。それで俺は、やっぱり息子なんですかね。
この世界で、もしそういう設定だとしたら、末の男子ってことですかねぇ。
「ともかくだ。そういうことだから、明日は皆もそのつもりで」
「地上世界に居る主だった者は呼ばなかったのか?」
前にもそんな話が出たけど、アレア様もそう尋ねた。とにかく極めて珍しいことらしいので、高位の人外の誰もがそう考えるようだ。
「まあ、理由が理由だからな。それに大勢を呼ぶとなると、受入れるザックとエステルも大変だ」
「そうよねー。田舎のご両親が訪ねて来るだけだものねー。あはは」
まだ言ってるよ、ミネル様は。
「でも、そんなことだから、この屋敷ってやたら防御が堅いのね。なんだか見たことのない防御魔法が混ざってるみたいだけど」
「ああ、それはミネル。ザックが張った結界だ。なんでも、前に居た世界のものだそうだ」
「ふーん、それは興味深いわ。あとで調べなくちゃ」
おちゃらけてはいるけど、ミネル様ってそこは魔法の戦神だよな。
彼女が調べて研究すれば、この世界にも前世の世界の呪法を遣う者が出ることになるんですかね。
「ということで、話を戻すぞ。今後の対策とこれからの我らの行動だ。ルーは何か意見はあるか」
ああ、そうでしたね。
ここまでほとんど発言せずに黙っていたルーさんに、ケリュさんは意見を求めた。
「そうですな。まずはあらためて、敵をしっかり知る必要があるでしょう。エルフ、ドワーフと、それぞれの本拠地に攻め込んだ魔物の軍団が、アステリオスと配下のゴズであることはわかっています。そして、先ほどの皆様方の推測通り、次に狙われるのがシルフェ様のファータである可能性は極めて高い。ならばそれへの対策も含め、その魔物軍団の規模、本拠地あるいは進撃拠点、また魔物軍団側にアステリオスとゴズ以外の魔物は居ないのか。そういったことを把握する必要があるかと。ニュムペ殿の眷属のユニコーンを襲い、ザックたちが討伐した魔物は、それとは別のテウメーとその配下であったこともありますし」
「うむ、そうだな。魔物軍団を把握する方策として、ルーに考えはあるのか?」
「前回今回と大陸の東側で起きた出来事ですが、これは私の直感として、やつらはニンフル大山脈沿いに移動した可能性があると思います。なのでまずは、その辺から痕跡を探すべきではないかと。そのためには、金竜殿に助力を願うべきでしょうか。なあ、どうだアル、クバウナ殿」
普段から広大なアラストル大森林で魔物や魔獣、獣たちの秩序を維持しているルーさんらしく冷静にそう意見を述べると、珍しくアルさんの名前も口にして正面に座るふたりのドラゴンを見た。
「そうじゃのう。やつらの拠点がそこにあるかどうかはわからんが、魔物の兵が移動する経路としては、ニンフル大山脈沿いというのはあり得る。ならば、エンルの爺の配下の若い衆を動員して探索するのはありじゃろう。なあクバウナ」
「そうですね。ニンフル大山脈は東西に長大だとはいえ、あの辺りはエンルさんの警戒範囲です。若い子たちを動かして貰いましょうか」
あらためてだけど、ニンフル大山脈というのは、ニンフル大陸の中央部で東西に三千キロメートル以上に渡って横たわる、超大型の山脈だ。
ニンフル大陸というのは、ざっくり言えば横幅五千キロ以上、縦は四千キロ程度の長方形の広大な土地が、右側を下方向に左側を上方向に傾けたかたちで広がる大陸。
そのニンフル大陸の中央部分を東西に伸びるニンフル大山脈が南北に分けており、山脈の北側はニンフルステップと呼ばれる広大な草原地帯で、南側は温帯から亜熱帯に続く森林地帯が連なっている。
今回、魔物軍団の攻撃があったドワーフの王国は、そのニンフル大山脈の東端。
前回に攻撃された世界樹の麓のエルフのアルファ自治領は、ニンフル大山脈の東端から南方向に千五百キロほど行った先にある。
つまり、今回と前回に起きた魔物軍団の攻撃にあたっては、ニンフル大山脈沿いを移動経路にしたのではないか。あるいはもっと言えば、そのどこかに魔物軍団の拠点があるかも知れないと示唆したのがルーさんの意見だ。
あと、金竜のエンルさんの宮殿はニンフル大山脈の中央からやや西の位置、そこから南側に広がる山岳地帯の中にある。
配下の若い衆とは、そのエンルさんの手元に居る四元素ドラゴンの若者たちのことだ。
彼らは訓練も兼ねて、エンルさんの宮殿を中心とした広範囲において常に警戒監視活動をしている。
だから金竜のエンルさんに頼んで、この地域を空から広範囲に探索して貰うのには意味があるだろう。
この探索を依頼するについては、アルさんとクバウナさんがエンルさんの宮殿まで話をしに行くことになった。アルさんはちょっと渋々だったけどね。
なお、金竜宮殿で暫く修行をしながら暮らして居たカリちゃんも同行することになった。
カリちゃんが「ザックさまとエステルさまも行きましょうよ」と言うので、予定を調整して俺たちも久し振りに訪問することになるかも知れない。
それから、次に予想されるファータへの攻撃の対策なのだが、これについては今日の会議で結論は出なかった。
と言うのも、エルフのアルファ自治領やドワーフ王国とファータの里とは少し位置付けが違うからだ。
この点を簡単に言うと、エルフのアルファ自治領はドリュア様の本拠地である世界樹の麓にあり、地下の大空間にあるドワーフ王国の奥にグノモス様の本拠地がある。
しかし、シルフェ様の本拠地である風の精霊の妖精の森はファータの里からかなり離れており、妖精の森を中心として東西南北にそれぞれ六百キロから八百キロほどの距離でファータの里があるのだ。
尤も、俺が場所を実際に知っているのは北の里だけで、ミラジェス王国と商業国連合との境の地域にあるという西の里もだいたいの位置は分かるが、東と南の里についてはシルフェ様とシフォニナさんから何となく聞いているだけだ。
東と南のファータとは交流も少ないらしく、エステルちゃんもまったく知らないのだとか。
話を戻すと、エルフ、ドワーフと続いた攻撃は真性の精霊のお膝元に対してであって、先行して起きたナイアの森のユニコーンへの攻撃も同様だ。
だがファータの里は何処も、そういう意味でシルフェ様のお膝元とは言えない。
なので、精霊の本拠地の間近の眷属を攻撃することで、精霊を動揺させ秩序を揺るがすという先ほどまで話し合っていた敵側の意図の推測とは、どの里が攻撃されても意味合いが少し外れる。
俺やエステルちゃんからすると、ファータの一族の本家であるシルフェーダ家が存在する北の里がいちばんに狙われると考えがちだけど、これは人間の感覚に基づくものだよね。
「あとは、ファータの場合、ザックが統領に就いたという点に違いがある」とは、ケリュさんの言だ。
「へ? 僕ですか?」
「そう、おまえだ、ザック。おまえの側には常に我らが居るし、少数だが強力な側近も控えている」
「そうかー、わたしの弟子も居るしねー」
「そして、例えシルフェーダ家本家がある北の里が攻撃されたとしても、あるいは西でも南でも東でも、最強のドラゴンが3人も居るのだから、応戦は素早く行える。だから、エルフやドワーフのケースとは事情が異なって来るだろう。ニュムペのユニコーンが襲われた際にも、これを討伐してしまったのだしな。だがまあ、敵方がその辺のことをどこまで把握しているかはわからんが」
「やっぱり、ザックさんにはエルフの統領もやって貰いたいわ」
「ドリュアさん、まだそれを言うのね」
まあ確かに、仮にファータの里が魔物軍団に攻撃される事態となれば、俺は何の遠慮もせずに全面的に闘いますけどね。
だけど、そんな事態が起きないのを取りあえず願いたいところだ。
あと、こういった事態が起きる可能性について、ファータとしてどう備えるかについても話し合ったが、シルフェ様の意見もあり、ファータ全体に無用な動揺を与えないためにも、ドワーフの王国が攻撃を受けた事実だけをエーリッキ爺ちゃんに知らせることとした。
もちろん、ユルヨ爺をはじめ王都屋敷メンバーには次はファータが攻撃を受ける可能性があることも話すつもりだ。
また近いうちに、ユルヨ爺にはファータの北の里に赴いて貰い、その辺のところをエーリッキ爺ちゃんと協議して貰いたいと考えている。
今日の会議はこのぐらいですかね。
だいたい、この世界の高位の人外の存在というのは、人間みたいにあーだこうだと長々と話し合いや会議を続けるのには、基本的には向いていない。それに間もなくお昼だし。
「そうしたら、お昼にしましょうか。うちのひとたちもご紹介しないといけないですしね」
「やったー、お昼ということは、お昼ごはんということよね、エステルちゃん」
「はい、ミネルさま。お口に合えば良いのですけど」
「人間の作った食事はすっごく久し振りだけど、ダイジョウブよー。うふふ、楽しみだわー。ねえ、アレア」
「おう、いつもケリュがいただいている食事が食べられるのだな。これは待ち切れん」
「わたしも楽しみですよ、エステルさん」
「こちらのお料理はとても美味しいのよ、ドリュアさん」
「そうかぁ、ニュムペちゃんはもう何度もいただいてるのね」
「うちの子たちも大好きです」
ミネル様にアレア様、そしてドリュア様は初めてでしたね。
まあうちのアデーレ料理長が作る料理は絶品ですから、楽しみしていてくださいな。
ちょうどエディットちゃんとシモーネちゃんが、「そろそろお昼の時間ですけどどうしますか?」とエステルちゃんに聞きに来たので、お昼にするということと、うちのメンバーを紹介するために全員呼んで来るように頼んだ。
「そうしたら、昼食のあとはザック殿、腹ごなしに手合わせを頼むな。いいだろ? ケリュ」
「ああ、ザックが良ければ」
「まあ、ご所望ということでしたら」
「よしっ。これも楽しみだぞ」
まあこうなりますよね。
俺は苦笑いしながら頷き、エステルちゃんの方を見る。
彼女も苦笑気味に、仕方無いですねという感じで微笑んでいたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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