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今はその想いを抱いて眠れ 1

遺品を埋葬し、穴を埋め戻し、石碑を立てる。


これが死者を弔い、喪失の悲しみとの別れる為の行為なのだ。


私はツェルク達の手伝いをしながら、何度も涙をぬぐった。

まだ、悲しみとは別れられる気がしなかった。


しばらく全員が無言で作業をしていたが、穴を埋め戻した頃に、モモが騎士団を引き連れ戻ってきた。


「────アネモネ?」


目を真っ赤に泣きはらした私の顔を見るなり、モモはぎゅっと抱き締めた。


「優しい子、ね。」


私にしか聞こえないほど、小さくて甘くて優しい囁きは堪らなくなってしまう。


─────が、長くは続かなかった。


「どちらかなぁ?」


モモはすっと私から離れたと思ったら、怒りのオーラをまとってツェルクとガラードを見た。

無論、満面の笑みのままだ。


「はぁ?まてまて、モモ!!なんでそうなったんだ!?」


「私の可愛い妹ちゃんを、泣かしたのはどっちかしらぁ?」


怒りのオーラをまとう迫るモモに、ツェルクが反論する。察したガラードは何気なく離れてから、


「─────ん。」


とツェルクを指差したのだ。


「ちょ!おまっ!」


「へぇぇ?ツェルクちゃん?女の子を泣かせるなんていい度胸ねぇ?」


「だ、だからちがぁっ!」


「問 答 無 用。」


ツェルクの絶叫が辺りに響き、騎士団の人達は拝み始め、ガラードはそそくさと離れ、シルトとノインが呆然と見る私をその場から引き離す。


モモがツェルクに流れるようにプロレス技を次々と繰り出していく、この光景が目の前にある。


しかもキレイに決まっている、全部見たことがあるプロレス技。

派手な音を立てて、ツェルクがひっくり返り頭から地面に叩きつけられた。

あ、それわかるわ。パイルドライバーだ。


「あだだだだだだっ!!!!」


「ツェルクちゃーん?可愛い妹に、何してのかなぁ?」


「だ、だ、だから!泣かせたんじゃ!あだだだだだだっ!!!!」


必死に喋ろうとするも痛みで叫ぶしかないツェルクに、容赦なくコブラツイストを決めるモモ。


「ふふっ。」


それを見て何だか笑えてきて、思わず笑いをこぼした。

だって、キレイに決まっているんだもん。


「ほら!モモ!アネモネ笑ってるぞ!可愛いよな!花みたいでさ!」


と必死にツェルクがモモの気をそらそうとして喋る。モモも気づいてあらぁ、とツェルクを解放。私の近くに来たのでよしよしと撫でる。


「ホントぉ、花みたいに可愛くていいわぁ。アネモネ、貴女は笑っていてね?」


「はい、モモお姉さん。」


ふとツェルクに視線を向けると、先程までのダメージかうずくまっていた。

体を丸めていたせいか、お団子を連想して再び笑ってしまう。


「ふふっ。ツェルク兄さん、お団子みたい。」


「あだだ、笑うなよアネモネ。めちゃくちゃ痛いんだぞ!」


ツェルクがふぅ、とため息をこぼして立ち上がるのを見て、改めて大丈夫?と聞いた。


「ん?あぁ、ちゃんとモモは手加減してくれてるからな。」


「まぁ、本気だったら今頃骨ボッキボキになっているよね。」


「────やめてくれ、想像しちまった。」


痛みを思い出したのか、真っ青な顔をしてツェルクがまたうずくまった。

それがまた面白くてふふっ、と笑った。


『おーい、みんなー!』


空から声が聞こえて見上げれば、龍形態のミーゲルが見えた。


「ミーゲル兄さんだ。こっちだよー!」


私が手をふると、ミーゲルが近づきながら人化してから着地した。その背にはマルスの姿がなかったのが気になって、ミーゲルに聞く。


「ミーゲル兄さん、マルスは?」


「あぁ、どうも僕の背中がダメみたいで、ムーファ達と一緒にドラゴンズキャッスルに向かうみたいだよ。」


ははぁん、マルスの弱みをひとつ知っちゃった☆

と心の中でニヤニヤしていると、ミーゲルはモモに話しかけ始めた。


「さっき知らせに来てくれた騎士団の人から、終わったって聞いてね。こっちに報告がてら合流しにきたよ。」


「そっちはどうだったのぉ?」


モモの言葉に、ミーゲルは獣人族の集落側の話をしてくれた。


獣人族の集落及び、マーシャット側にもブラックトレントが押し寄せてきたが、ムーファ率いる冒険者達とマルスとミーゲルで、危なげなく退治できたそうだった。


「数は20も来なかったよ。ほぼそっちに行ったみたいだね。獣人族の集落付近のブラックトレントが相当潜んでいたみたいで、あっという間に平野に変わっちゃったよ。」


ミーゲルがそう語るので、私は地図を広げると密集していた魔の森が、海岸側から獣人族の集落まで全て平野に変わっているのに驚いた。

さらに、獣人族の集落と魔人族の集落の間にも森があったが改めて見ると、街道があるのみの平野に変わっている。

ミーゲルが飛んで来た方向を見れば、ちらほら薙ぎ倒された木々があるものの、見通しのよい道が続いていた。


うわぁ、改めて見たら随分と見通しが良くなってる。

あ、今まで見辛かったドラゴンズキャッスルの屋根が見やすくなってる。


「空から見たけど、あんなに森が密集してたのに今やちらほら見えるくらいになったよ。」


「見通しが良くなったのはいいことねぇ。」


「全部焼けてるから、後で火事が広がらないように水を撒かないといけない。モモ団長、この後ですが─────。」


とミーゲルとモモ、シルトが今後の話をし始めたのでそっと離れる。振り返ってみたら、いつの間に石碑が立てられていたのに気づいた。


ガラードが騎士団の人達と共に石碑を立てていたらしく、パンパンと服を払って立ち上がった。


「ガラード兄さん。」


私はガラードの隣まで移動しながら、石碑に刻まれた何かの文字に気づいた。


「この文字は?」


「───魔人族が昔に使った言語だ。」


それは確かに読めないはずなのに、何となく漢文に似ていて、読めそうな気もした。


『この地で安らかに眠れ。貴方達の新たな生の巡りの先でまた会おう。』


とノインが念話で答えを教えてくれた。ありがとう、と念話で礼を言う。


良い言葉だな。また会おう、か。


「この言葉は、ガラード兄さんが?」


「前半はな。」


「後半はツェルク兄さんかな?」


ガラードは頷き、近くにいたツェルクに視線を向ける。私もそちらを見ると、彼にも聞こえていたらしく頷いた。


「良い言葉だね、さすが兄さん達。」


「ありがとな、アネモネ。」


ツェルクはニコッと笑い、石碑を見上げた。


「やっとひとつ、できたな。」










ミーゲル達の話し合いも終わった頃に話を聞くと、モモとシルト、ガラードはここに残り、他はドラゴンズキャッスルへ帰ることになっていた。


「この作戦の説明を聞きに、獣人族の集落の長とムーファ、あとアッシャルダから魔帝王の使者が来るらしいんだ。」


出来ればその席に居て欲しい、とミーゲルに言われたら断るわけがない。

私達はミーゲルの背に乗り、ドラゴンズキャッスルに戻った。


ドラゴンズキャッスルに入る前の、集落の出入口にはたくさんの人だかりがあり、馬車や荷車と何やら騒がしい様子だった。


「ミーゲル兄さん、出入口の人だかりは何?」


『あぁ、早いな。多分さっき言ってた、獣人族とアッシャルダの使者じゃないかな?馬車にアッシャルダ魔帝王政の紋章があったよ。』


ミーゲルに言われてよく見れば、馬車のドア付近にアッシャルダ城でよく見た紋章がキレイに細工されていた。


「すぐ会談が始まっちゃいそうだね。ミーゲル兄さん、急ごうか。」


『あぁ、そうだね。』


ドラゴンズキャッスルの私達が借りているゲストルームに繋がる大きなベランダに近づき、ミーゲルの背中から飛び降りた私達。すぐにミーゲルも人化して、ベランダから一緒に中に入る。


「お帰りっ!」


と待ってました、と言わんばかりにサラが嬉しそうに抱きついてきた。ゲストルームで待っててくれていたようだ。


「ただいま、サラ姉ちゃん。」


と抱き締め返した私に、えへへと笑うサラ。


「上手くいったんだってね!」


「うん、またゆっくり話そう。お祖父様はどこに?」


とサラに聞いたが、分からないらしく代わりに答えたのは近くにいた金髪の美少女だった。


「アネモネ、お祖父様は会議室でお客様とお待ちですよ。」


「ありがとう、モリス姉さん。」


目の前にいるこの金髪の美少女が、モモとサラの姉妹のモリスだ。掃討作戦に出発する前に一度会って軽く話をしたけど、物腰が柔らかく優しい姉だった。


「すぐ行くの?」


「うん、待たせちゃいけないし。」


と話しながら私は帽子を取り、髪型を軽くハーフアップに整えて、アネモネの髪飾りをつける。魔力をこめて、御使いスタイルにチェンジする。


「じゃ、ノイン。行こうか?ライガはサラ姉ちゃん達と待っててくれる?」


『おう、わかった。』


返事をしたライガはサラのところに行くと、サラもライガを抱き上げてじゃれ合いはじめた。


「会談か?俺も同行しよう。」


ツェルクはにぃっと笑って、私のそばに来た。ミーゲルはサラ達と残るらしく手をふっていってらっしゃい、と挨拶してくれた。


ドアを開けて、会議室へ急ぎ足で向かう。やがて着いたドアの向こうから、聞きなれた声が聞こえた。


その声はマルスに似ていたが、幼さが残る声であることに気づいた。


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