黒木駆除作戦 6
「"爆炎波ッ!!"」
私はサージュからもらった魔道書の中にあった、火の最上級魔法を放つ。
作戦ポイントである広場に降り立ってから、ノインから"風雷の飛脚"を受け取ったツェルク。
その後すぐ、どっから沸くのか判らないほど大量のブラックトレントが森の中からガサガサと這い出てきたのだ。
もうね、アイドルの追っかけのヒドイ版。こちらのことなんて一切無視、自身の欲望のままに追っかけ回す。
────ちょっと前の自分も、これくらいキモかったんだと猛省した。
「はは、こりゃすげぇモテモテだな!全部を相手したらキツそうだな!シルトもどうだ?生まれてからまだ彼女もいないんだろ?」
「ツェルク、結界弱めるよ?」
「じょ、冗談だ!頼むから勘弁してくれ!あんなのに抱擁されたら、どうなっちまうかわかりゃしねぇ!」
ツェルクを守る結界をシルトが張りながら、仲良く会話中。
うん、なんか、ごめんなさい。
「アネモネ、大丈夫?」
ノインは私を守りながら、片手で魔法を維持しながら剣をふるう。ブラックトレントが私達に近づかないのは、まさにノインのおかげ。
久々に言います、さすかみ!
「うん、まだもうちょいいけそう。」
「あと2発撃ったら飲んで。」
飲んで、と言ったのは先程受け取った魔力回復ポーションだ。
ノインが渡すものだから、きっと即効魔力満タンになりそう。
『はっは!大したことねぇな!』
ライガはしっぽに風をまとって飛びはねながら、ブラックトレントの根や幹を斬り飛ばしてる。
ちょっと大きな猫が飛んで回ってる風景は何とも愛らしいが、やってることはえげつない。
「"氷嵐舞ッ!"」
ちょっと目を離すとかなり接近されていて、一方を氷像にして足止めしながら、もう一方を叩く戦法にした。
そろそろ手が足りなくなってきたな、と愚痴ろうかと思った矢先。
ごおぉぉぉぉぉっ!!!!
上空から炎が降り注ぎ、海岸側から龍が空を覆うほど波のように飛んで来た。
「来た!モモ姉さーん!!」
『お待たせぇ、たくさん集まっちゃってるわねぇ!えーいっ!』
龍形態のモモは、薄桃色の優しい色合いの鱗の龍で一見すると闘うような感じはない。
ただ、声や見た目とは裏腹に口から放たれたブレスは豪快な炎の波だった。
あっという間に辺りのブラックトレントが片付き、落ち着きを取り戻した。
見渡す限りの焼け焦げた平野に足をやけどしないように、私が魔法でモモの足に水をまとわせた。
『あら、ありがとぉ。』
どしん、と降り立ったモモは長い首を私に寄せ、軽くキスするようにピタッと口をくっつけた。
実際、サイズ的には一飲みされたそうな位に大きい口のために、身体にタックルされた感じだ。
これ、加護なかったらぶっ飛んでたかもしれない。
「海岸側はどうでした?」
『ぜぇーんぶ燃やしたわよぉ。』
広がった高野が海岸側からここまで続いているのを、ウィリアからもらった地図で確認する。
うわぁ、魔の森の三分の一は削れたかも。龍人騎士団の皆さん、凄すぎィ!
「じゃ、このまま魔人族の集落まで前進すればいいですね。」
『ええ。あっちから来て貰えるから楽チンよね。あらぁ、早速来たわよぉ?』
モモの言葉に私は帽子のつばをあげ、再び杖を構え直す。
「よし、取り返しにいきましょう!」
私の声にあわせて、龍人騎士団の龍達から咆哮があがる。
これこそ、ブラックトレントへの死刑宣告だ。
それから始まった龍人騎士団との行進は、まさに天変地異だ。
ブラックトレントは逃げ惑うことなく、ただひたすら私達に向かってくる。
それを龍人騎士団がまとめて焼き払って、パチパチと音を立て焼け野原が出来上がっていく。
─────ホント、これ現実?
そう疑いたくなる光景を、目の前にしてる。
熱さや火花はこちらには一切来ないのは、ノインが魔法で守ってくれてるからいいんだけど。
やっぱり圧巻な光景は、現実感がなさすぎるよぉ。
『来たか。』
そう声がかかり、見上げる先にいたのは赤黒い鱗の龍のガラード。空から私達のそばに近付くと、さっと人化してからストンと着地した。
「お、ちゃんと待ってたな。」
「それが、"風雷の飛脚"か。」
ツェルクが抱えている透明な球体に入った真っ黒な足"風雷の飛脚"を見て、ガラードは嫌そうに顔をしかめた。
「あぁ、気持ち悪りぃ足だろ?」
「小さいな。」
ガラードの言葉に、ノインが何気なく呟く。
「封印したから。」
「そうか。」
この二人だと会話にならないな。
マルスでも似たようなことがあったけど、私が積極的に話をしてたから、そうでもなくなった。
ガラードとも、そうなるかなぁ。
「ガラード兄さん、魔人族の集落はどんな感じだったの?」
仲良く話せるように私がきっかけになろうと、話をふる。ガラードはあぁ、と呟いて前をにらむ。
「さっきよりは減ったな。」
「なら、このまま行進だな。」
と前を向き直った私達に、
ガサッ、と左側から森の木々に紛れて、ブラックトレントが飛び出してきた。
「ッ!!」
私達の一瞬の動揺が広がった直後、ブラックトレントが一気に黒いの炎に巻かれて燃え上がった。悲鳴にも似た嫌な鳴き声が響き、熱風も含めて顔をしかめた。
「紛れていたか。」
ガラードが片手をすっと下げた。黒炎はガラードの魔法だった。防御体勢をとりかけた私達は、ホッとして元に戻った。
「助かった、ガラード。」
ツェルクがガラードの肩を叩く。ふん、とガラードはその手を払い、
「ありがとう、ガラード兄さん。」
ニコッと笑って私が礼を言うと、プイッとそっぽを向いた。
あ、今一瞬だけ笑ってくれた気がする。
「大丈夫?」
モモが振り返って心配してくれたが、大丈夫と返した。ガラードにはもれなくよしよし、と撫でた。逃げられずしかめっ面なガラードを気にすることなく笑顔のモモ。
ずっと仏頂面かと思えば、ちゃんと表情が変わっている。
意外と分かりやすいのね、ガラード兄さん。
「見えてきたな、集落だ。」
ツェルクの声に前方を見れば、壊された建物の跡が見えた。
木々は薙ぎ倒され、焼き払われ、あちこちから煙が上がったその先に、魔人族の集落があった。
建物自体は他同様な造り、街灯や道が整備されているのを見たら、魔帝都市の城近くと変わらないほど立派だった。
また、この集落を囲うように点在する柱はおそらく魔力壁の装置だろう。
こんな森の中に立派な街がぽつんとあったら、違和感があるほどの規模だった。
ただ、残念なのは崩され、壊された姿だということ。
「龍人族の集落付近までブラックトレントを焼いてっちゃうわねぇ。」
「はい。よろしく、モモ姉さん。」
「気をつけてねぇ?」
よしよしと優しく撫でられてから、モモは龍人騎士団を従えて魔人族の集落から離れていった。
残ったのは私達とシルト、ツェルク、ガラードだ。
「シルト兄さん、周辺の警戒を任せていい?」
「わかった。」
シルトに声をかけてから、魔力壁の装置付近にいるツェルク達に近付く。
ちょうどたどり着いたタイミングで、魔力壁が発動して集落を取り囲んだ。
「動いたんだ。」
「あぁ、不意打ちを防げれればラッキーくらいの気休め程度だ。」
ツェルクはガラードに目配せすると、ガラードはスタスタと集落の中へ歩き出した。
「アネモネ、ノイン、ライガ。頼みがある。」
「なんでも言って、ツェルク兄さん。」
前みたいに出来る限り、とは言わない。家族になった相手にそれは言いたくなかった。
「何でもいい、建物や道端で拾ったもので魔力を感じた物全て集めてほしい。」
「ん?何故?」
私が問いかけると、ツェルクは悲しげに目をつぶってから絞り出すように言った。
「────遺品として墓を立てて埋葬したい。」
「ッ!ごめん、ツェルク兄さん!」
「いや、辛いことをさせるんだ。逆に俺が申し訳ない。」
私はわかった、と頷いてからノインとライガを見る。彼らも頷いて一緒に近くの家に向かう。
迂闊なことを聞いてしまった。
魔人族は魔力を生命力としてるから、肉体も魔力で形成してる。魔力を維持できなければ消えてしまう。
だから────死体は残らない。
埋葬するなら、まとっていた衣服、装飾等を探すしかない。
切ない事情を察して、私達は各家や道端をくまなく探して回った。
とある家にはドアがめちゃくちゃに破壊され、部屋の隅に引き裂かれた衣服が散乱していた。そっと触ると、ほのかに魔力を感じた。
たまらず涙が込み上げる。ノインやライガが大丈夫?と声をかけるが、私は押しのけた。
今は泣くときじゃないんだ、と気を引き締め直して探索を続ける。
多分、ノインもライガもどうしていいかわからない程に泣き顔や嗚咽を隠せなかったんだろう。
何度も止める一人と一匹を無視して、私は探し続ける。
やがて、数えきれない程の遺品を持って、ツェルクの元にいく。
ツェルクも私の顔を見て、戸惑った後にガバッと抱き締めた。
「すまん、すまん!そんなに泣くとは思わなかったんだ!アネモネ、もういいぞ?ここで待っててくれ。」
「ぐす───イヤだ。」
「そんな顔をしてる妹は見ていられない。」
「うっ、ぐす。うわ、あああああああっ!!」
泣き始めたら止まらなくなって、ツェルクの胸元でそのまま泣き出してしまった。
辛い、悲しい、苦しい、切ない。
私は身近な人が亡くなったとこを見たことがない。まだ祖父母も健在だったし、幼い頃にあった親戚の葬式も全部両親が対応した。葬式もほとんどかかわりなく、親戚の子供同士で公園に行ったりゲームして遊んでいた。
だから、こんなに死にまつわる行為は関わったことなかった。
「泣くな。」
いつの間に近づいて来たガラードが、わしっと頭をおさえて乱暴に撫でる。
「が、ガラ、兄ぃさ。」
「お前が泣くな。」
「だってぇぇ。」
ガラードを見上げると、彼もまた目を赤くはらしていた。それをなるべく見せないように、とそっぽを向いていた。
「ガラード、お前が言うなよ。」
「泣いてない。」
「はは、こりゃ俺が泣くタイミングないじゃないか。」
ツェルクも泣きそうな顔をしながら乾いた笑いをする。
「でも、アネモネ。君が泣くことはないんだ。けど、ありがとう。俺達の為に泣いてくれて。」
「──もう泣くな。」
ツェルクとガラードは私に優しく声をかけてくれる。私はようやく落ち着いて涙をぬぐい、ツェルクから離れた。
「ありがとう、ツェルク兄さん。ガラード兄さん。」
「アネモネ、もう大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
何とかにぃっと笑う私を、ツェルクは心配そうに見つめる。
「さ、続きしなきゃ。」
私はノイン達と捜索を始めるために離れると、
「いい子だよな。」
「────あぁ。」
とぽつり、と聞こえた二つの呟きに、また泣きそうになって敢えて無視した。




