黒木駆除作戦 5
前話で、アネモネはこのお孫ズの末っ子となったことを追加しました。
「アネモネちゃん、無理しちゃダメだよぉ?」
「はい、モモ姉さん。」
集落の出入口でモモを含めた騎士団達が見送りに来てくれた。ぎゅっと抱き寄せられ、モモの暖かさに嬉しくなる。
「アネモネ、こっちはそろそろいくぞ。」
「うん、マルスもミーゲル兄さんも気をつけてね。」
龍形態のミーゲルの背中から、マルスが声をかけてきたのを見上げながら手をふる。
『なんか、兄さんって慣れないなぁ。』
ミーゲルが龍形態のまま長い首を私に寄せる。
「私もだよ。でも、すごく嬉しい。」
『はは、僕もだよ!アネモネも気をつけてね?さ、マルスさん。いきますよ!』
「頼むから飛ばさないでくれ!」
マルスの絶叫が空に響いたのを確認し、私はすぐ近くのガラードにも声をかける。
「ガラード、兄さん?」
「────なんだ?」
そっぽを向いているが、きちんと返事はしてくれるガラード。
これがいわゆる反抗期かな?
「その、魔人族の集落の様子見だけにしてね?」
「わかってる。」
「さっきみたいに突撃しないでね?」
「わかってる。」
ロボットのように返答するガラードに、ちょっと楽しくなってきた私は。
「海岸側が終わったら必ず行くからね?」
「あぁ。」
おっと、返答が変わった。
「ちゃんと待っててね?」
「しつこい。」
「それくらい、兄さんが出来て嬉しいの。」
「っ!」
予想外な言葉が来てガラードはビックリした顔で私をみた。
意地悪そうな笑みをして、
「だから、いっぱい心配するの。」
と言うと、ガラードはひきつった顔から再び仏頂面になり、プイッとそっぽを向いた。
「─────勝手にしろ。」
「はい。ガラード兄さん、気をつけて。」
そのままそっぽを向いたまま、スタスタと歩き出したガラードは、少し離れたところで龍形態に変わって飛び立っていった。
もしかして、すぐそばで龍に戻ると危ないから離れてくれたのかな?
何とも優しい対応に、私はほっこりした。
「あいつは行ったか。大人しく待っててくれるといいが。」
ツェルクとシルトが近づいてきて、ガラードの飛んでった方向を見た。
「大丈夫だと思うよ。じゃ、私達も作戦ポイントに行こうか。シルト兄さん、お願い。」
兄さんと呼ばれて嬉しいのか、シルトは品のよい笑みを浮かべて龍形態に変わる。
群青の鱗の龍に変化したシルトは、私達が乗りやすいように寝そべってくれた。
『乗れる?』
「大丈夫。ありがとう、シルト兄さん。」
ライガを抱っこしてから、風の魔法のホバリングでシルトの背中に乗る。
ツェルクもノインも同じように乗ってくる。
『行くよ。』
シルトが身体を起こして、大きく翼を広げて街道を助走してから飛び上がる。
そのまま、翼をはためかせて上空に上がっていく。
作戦ポイントに向かっていく途中、遠見の魔法で魔の森を見ていく。
私達の動きがわかるのか、がさがさとブラックトレントが群れになって追いかけてきている。
「来てるよ、ワサワサと。」
「あぁ、この辺りのがまとまって来てるな。」
嫌そうな顔をしてツェルクが魔の森を見下ろしている。
「海岸沿いからも来てる。」
ノインが向かい風のせいなのか、顔をしかめている。
『そろそろ着くよ。あっ!』
シルトが声を上げたので私が前を見ると、作戦ポイントに決めた場所には黒い塊が見えた。遠見の魔法で確認すると、それはブラックトレントが群がっているのがわかった。
「なんで待機してるの!?」
「こいつは気持ち悪りぃ。」
ツェルクの言葉に同意して、私は杖を構える。
「降り立つにも減らさないと。」
「しかし、何に群がっているんだ?」
ツェルクは目を細めてブラックトレントの群れを見る。私も魔法でブラックトレントを倒しながら群がっているのが何かを探す。
「────。」
隣にいたノインが息をのみ、やや怒りに似たオーラをまといはじめた。
「ノイン、何かわかった?」
「────魔人族。」
「なっ!?だが、姿が見えないぞ?!」
ノインが指差した付近をよく見るために、私とツェルクが同時に光の鞭でブラックトレントを倒してどかす。
「ッ!!」
ツェルクが顔を歪ませた後、ノインと同様に怒りの表情に変わった。
「許さねぇ!」
叫びながらツェルクがシルトの背中から飛び降りた。あわてて手を伸ばしたが、間に合わず空振りする。
「ツェルク兄さん!」
名を呼ぶ私の声を無視して、ツェルクは白金の霧をまとって変化した。
白い蛇のような細長い体躯と翼の龍だった。
するすると滑空しながら、一目散に魔人族らしき者がいる場所に向かう。
ツェルクはブラックトレントをかき分けていくのを、私とノインで魔法で援護する。
『よしっ!』
何かを掴んだ様子でツェルクが声をあげると、一気に上空に飛び上がる。
シルトはそれを待っていたかのように、滑空して背中でツェルクを受け止めた。
一度、作戦ポイントから離れるように飛ぶシルト。
背中に着地したツェルクは、"人化"しながら肩から息をする。
その彼が抱えていたのは、サッカーボールくらいの水晶だった。
「これが、原因?」
「あぁ、一体誰がこんなことを!」
ツェルクの怒りが収まらない。私はノインを見るが、悲痛な顔に変わり首をふった。
えっと、ちょっと状況が読めない。
「これ、魔人族、なの?」
これというのが悪い気もするが、血の気が引くような気持ちが強すぎて語彙力がヤバい。
「うん。」
ツェルクよりも先にノインが答えた。震え始めた唇を何とか聞き取れるように喋る。
「水晶に、閉じ込めれてるの?」
「うん。」
私はツェルクの抱えた水晶に近付く。触ってみると何となく私達とは別の魔力があるのがわかる。たまに水晶の中で何かが動くのを見えた時に、ドキッとしてしまった。
「いる、んだ。」
「アネモネ、何とかならないか?」
ツェルクが私に声をかけるが、私はそれをノインに視線で投げかける。受け取ったノインがすっと膝を落とし、水晶に触れる。
しばらく無言の後、手を離したノインが頷いた。
「出すことはできる。」
「そうか!」
「ただ、出したら多分死ぬ。」
ノインの言葉に真っ青になるツェルク。構わずノインは話を続ける。
「魔力を補う何かを作る。そこに移す。」
「それなら助かるのか?」
ツェルクは気持ちを持ち直して問いかけると、ノインは迷わず頷いた。
「よし、待ってろよ。作戦が終わったら必ず出してやるからな。」
そう言いながら愛おしそうに撫でると、ツェルクは水晶を消した。多分、自分の空間魔法の中にしまったんだろう。
「よし、当初の予定通り始めるか!」
ツェルクの言葉に私は腕輪から帽子を取り出して、かぶりながら気を引き締め直した。
いよいよ、ブラックトレント掃討作戦開始だ。




