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今はその想いを抱いて眠れ 2

ドアを抜けると広い机の周りの椅子に座る人物がよく見えた。


真っ正面にはシュヴァルツァ、側近の龍人族の男性。左側にはムーファと犬の顔をした男性、そして右側にいたのが。


「アネモネ様!」


ぱぁっと笑顔がこぼれた声の主を見て、私はビックリした。


アッシャルダ魔帝王、アイズの弟であるエイルだったのだ。

隣には晩餐会で見かけたエイルの側近の男性が、笑みを携えて会釈をしている。


「エイル様がなぜここに?まさか、アッシャルダ魔帝王の使者とはエイル様だったんですか?」


「はい!」


元気な返事をしたエイルに、場が朗らかに緩んだのがわかった。


「アネモネ、ツェルク。どうやら、間に合ったようだね。」


シュヴァルツァはホッとした様子で声をかける。私は向き直り、すっと頭を下げる。


「はい、何事もなくブラックトレント掃討作戦は成功しました。」


私の言葉に、その場の空気が安堵に包まれた。


「では、報告を聞いていいかい?」


「はい。」


私は腕輪から先程ノインに複写してもらった地図を取り出して、机に広げた。


「こちらが作戦後の魔の森の状況です。」


「ほぉ!こりゃすげぇ。」


ムーファが思わず声を出して、隣の犬の獣人族に諌められた。


「魔の森を埋め尽くすように、いたんですね。」


エイルは顔を曇らせて呟いた。


「魔人族の集落も無事奪還し、石碑を立て弔いを終えてきました。」


「そうか。」


シュヴァルツァは地図から視線を離して、左右にいる人物達に話しかける。


「話を戻しますが。今回の作戦内容と、それに至る理由は先程お話しした通り、魔人族からの救援要請があり、こちらで魔人族を救出、保護しました。ツェルク、説明を。」


シュヴァルツァはツェルクをチラリと見てから、話を続ける。ツェルクは私の隣に立つと胸に手を当て、キレイに一礼をする。


「私は魔人族の集落の長の息子、ツェルクと申します。ここからは何故襲撃を受けたかを説明いたします。」


いつものチャラい感じのツェルクではなく、真剣な表情で丁寧な言葉遣いのツェルクは、見た目も相まって王子様のようだった。


ツェルクが嘘偽りなく説明しきると、左右にいる人達は頭を抱えた。


「そんな恐ろしいことが起きていたのか。」


ムーファの隣にいる人物は、犬の顔を真っ青にしている。彼はガタッと立ち上がると、深々と頭を下げる。


「自己紹介が遅れた。私は獣人族の集落の長、ロン・マクドレンと申す。事態把握するのに時間がかかり、今回の作戦に参加できず申し訳ない。」


ツェルクは真剣な表情のまま、話を続ける。


「いや、うちの長は排他的すぎた。日頃から他の種族との交流があれば、変わっていたかもしれません。」


「気を落とさぬよう。我々は同じ森に住まう者同士、今後は密に交流をしてゆきましょう。」


「それは嬉しい申し出ですが、我々は魔の森から離れるつもりです。」


ロンはなんと!と声をあげたところで、エイルがその件ですが、と片手をあげて立ち上がった。


「今はまだ、話し合いの途中になりますが。生き残ってる魔人族の方々の希望次第では、アッシャルダにて住居仕事等を斡旋する予定です。」


「そうですか。受入数は?」


「─────十数名しかいません。」


ツェルクが悲しげに目を伏せて話す言葉に、ロンはばつが悪い顔をした。ムーファがロンを腕で小突いたのが見えた。


「申し訳ない!」


ガバッと頭を下げるロンとムーファ。ツェルクは気にしてない、と首を横にふった。


「希望者の中には、このまま龍人族の集落に留まると決めたものもいます。その者が望めば、ぜひよろしくお願いいたします。」


ツェルクが丁寧に一礼をすると、ロンは勿論、と机に手を当てて頭を下げる。


「こちらこそ、よろしく頼みます。」


「では、エイル殿。ツェルクと共に別室で今後の話を話して頂いたい。」


静かに席をたったエイル達と共にツェルクが会議室を後にする。私がツェルクに視線を向けると、気づいた彼は軽くウィンクしてきびすを返した。


似合うよな、今のウィンク。


「さて、ここからは魔の森に住む我々の今後の話をしましょうか。」


シュヴァルツァが笑みを浮かべて、ロン達に視線を向けた。私はどうしようか、と思ったら、ムーファがこちらを向いて話しかけてきた。


「しっかし、お嬢ちゃん。マルスから聞いたが、実際に会うまで実感なかったが────天使って本当だったんだな。」


「あの時、マルスが喋ったときはビックリしました。隠すつもりはなかったのですが。」


そんな話をしていると、ロンがごほんと咳払いして中断された。


「ムーファ、失礼だろ。御使い様、申し訳ない。こいつは礼節を気にしないもので。」


「気になさらないで下さい。私もその方が気楽です。」


「そう言ってもらえると助かります。シュヴァルツァ殿、御使い様も同席してもらえたら心強いのですが、よろしいですか?」


ロンの提案で私達は、こちらの会議に参加していくことになった。











あの後、会議室内は談笑まじりの話し合いで進んでいた。


街道を整備し直しと、新たにどちらの集落からの短い距離で街道を整備することに合意。

あと、マーシャットからヴァーレデルド領の国境沿いにあるコレット村へも、短い距離で街道を整備し直そう、という提案もされた。


「これはヴァーレデルドの方にも了承とらねぇといけねぇな。」


ムーファは顎に手を当てて頭を悩ませた。


ヴァーレデルド王国とは、今はあまりトラブルを起こしたくないよね。


シュヴァルツァはふむ、と私の方を向く。


「アネモネ、君はヴァーレデルド王国に向かうつもりなんだろう?」


「はい、お祖父様。元々、同行しているマルスをヴァーレデルド王国に護衛する話でしたので。」


「気を付けて行きなさい。」


優しい笑みを浮かべて、私を見つめた。


───マフィア感パネェっす。お祖父様。


心の中でそんな呟きをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。


全員そちらを向けば、ドアが開いて現れたのはモモ達だった。


「お祖父様、戻りましたわぁ。」


「モモ、ご苦労様。火は収まったかい?」


シュヴァルツァの言葉にえぇ、とモモはゆったりと頷いた。


「街道沿いはある程度片付けたわぁ。」


「そうか、ありがとう。」


シュヴァルツァがそう言うと、ロンやムーファも改めて礼を告げる。


「今夜は細やかな晩餐会を開こうと思う。ご参加頂きたい。」


二日連続となった晩餐会の開催の知らせを受け、私は会議が無事に終わったことに、ホッと胸を撫で下ろした。

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