龍巫女と白魔人 5
龍人族のパーティは豪勢なものかと思いきや、人数は多けれど質素な立食パーティだった。
シュヴァルツァのエスコートを受けつつ、龍人族の偉い人に挨拶回りをして落ち着いたのは、パーティの中盤だった。
テーブルに並ぶ料理を皿に盛り、美味しそうなローストビーフを口に運ぶ。
───うまぁぁぁぁ!これもしかしたら、ユーリンが一枚噛んでるんじゃと言えるほど美味しいんだけど!
ノインが目をキラキラさせてもくもくと食べ続けてるので、相当美味しい模様。
「いかがですか?」
シュヴァルツァがにこやかに話しかけてきた。
「とても美味しいです。」
「それは良かった。私もこの料理が好きでしてね、気に入っていただけて何より。」
うん、美味しいって言わないとシェフが抹殺されそうな位に変わらずマフィアのボス感がヤバい。
「アネモネ様、少しご相談があります。」
シュヴァルツァは真剣な表情で私に話しかけるので、気持ちを切り替えて私もキリッと真面目な顔に変えた。
「なんでしょう?」
「我々龍人族は我らが偉大なる主神様の命を受けて、この地や"風雷の飛脚"を封じてきました。今やお役目も果たすことが出来ましたので───その、ですね。」
私は口よどむシュヴァルツァに何か?と促すと、言いにくそうに咳払いした後に、呟くように言った。
「我々龍人族に次の神託を授けて下さるように、我らが偉大なる主神様に御願い頂けませんか?」
────あぁ、やっぱりそれか。
百科事典で知った神龍の一族の部分には、太古の昔から主神を含む神々に仕える司祭のように、神託を標とする。
龍人族は己が極めたいことを極め尽くす主義があるのもあって、神龍の一族にもなれば徹底的に神託に尽くすだろう。
魔王の右足である"風雷の飛脚"を守り続けるという神託が無くなった今、どうしたらいいかわからなくなってるのかもしれない。
それはそうだろうけど、私が主神にそんなお願いしてもなぁ。
これは表面上受け取ったことにするしかないかなぁ。
「まぁ、お約束出来ませんが伝えてはみます。」
「ありがとうございます!どうぞよろしくお願いいたします。」
いや、無理とかいったらこの場で抹殺されそうな雰囲気でお願いされたらそう言うしかないんだもん。
「アネモネ様は、今後いかがされるのですか?」
少しホッとしたシュヴァルツァが、シャンパン片手に私に問いかける。
「そうですね。ブラックトレントの駆除や、ツェルク殿の問題もありますし。まだ魔の森には留まるつもりです。」
「ブラックトレントですか。駆除に我々の龍人騎士団を手伝わせましょうか?」
その提案はありがたい!
広範囲の駆除はさすがに大変だから、何とか手を借りたいと思ってたけどあっさりオッケーもらえるとは!
「良いですか?」
「ええ、奴らの駆除は我々も協力できます。」
シュヴァルツァは笑みを浮かべると、近くにいた男性に声をかけ用件を話した。それを聞いた男性は私達から離れ、すぐ見覚えのある人を連れて戻ってきた。
「あらぁ?」
桃色の髪を揺らして、たわわに実った桃をドレスで包んで、甘く囁くような声の美女。
そう、集落の出入口で話してきたあの美女だった。やっぱりドレスのが似合っていて、うふふと笑う姿は女神のようだった。
「貴女が御使い様だったのぉ?」
「ん?知り合いか?」
シュヴァルツァが美女に話しかけるが、私には美女を侍らすマフィアのボスにしか見えなくなって、若干苦笑いしてしまった。
「さっき偵察にいくときにねぇ。」
にこぉっと笑う美女に、私は同じように笑って返す。
じゃあ、集落の出入口で会ったのは龍人騎士団の人達だったのか。
「そうか、改めて紹介しよう。彼女は龍人騎士団の団長、モモだ。恥ずかしながら私の孫でサラの姉にあたる。」
「よろしくねぇ。」
モモはすっと手を差し出したので、握り返すと互いに嬉しそうに笑った。
「良かったぁ、お礼がしたかったのよぉ。」
「お礼?」
心当たりがなかったので首をかしげると、モモは隣にいるサラにそっと抱き寄せた。
「サラをね。"風雷の飛脚"を封印するっていうお役目から解放してくれてありがとうね。」
それは、ミーゲルと同じことだった。私がきょとんとしてる間にモモは話を続ける。
「封印のお役目はねぇ、かなり心身を削るのよ?それで私達はママを亡くしてるの。」
やや悲しげに笑うモモに、サラはぎゅっとモモを抱き締めて顔を隠した。
死ぬなんて聞いてない話に思わずチラッとノインを見ると、ノインは目を伏せて頭を垂れた。
───後で詳しく問い詰めるからね?
「そんな辛いお役目を継ぐのには私じゃあダメでねぇ。まだ幼いサラにさせるの、本当はイヤだったの。」
優しくサラの頭を撫でながら、モモは私に向き直る。
「ありがとうねぇ。」
「───はい。」
心からの感謝を無下にするのもいけない。だから私は照れながらも頷くしかなかった。
晩餐会が終わり、ゲストルームに戻った私はノインにつかつか歩み寄ると、笑顔で肩を掴まえる。
「説明してくれるよね?」
「うん。」
やや引き気味に頷くノインから話を聞く。
魔王を封じた魔法道具はやっぱり呪われるらしく、封印を維持するには心身を削る────まさに封印の為に命を捧げることになるのだ。
「そんなに危険なの?」
「うん。」
「なら、"地底の健脚"が渡ったヴァーレデルド王国も危ないね。」
と、ノインが用意してくれた紅茶を一口飲んで頷いた。
「うん。」
神妙な面持ちでノインが頷いたのが気になって、一旦カップから口を離す。
「ちょっと、その顔怖い。何かあるの?」
「─────。」
言いにくそうに黙り込んだノイン。チラッと視線を移した先にはマルスがいた。彼自身は何かを書き出しているのでこちらに気づいていない。
「言いづらいの?」
「うん。」
『念話じゃダメなのか?』
膝で欠伸をするライガがそれを言うも、ノインはまた黙り込んだままだ。
「────今のところは大丈夫なの?」
話の突破口を探りながら、ノインに話しかける。
「うん。」
「なら、いいよ。無理には聞かないよ。」
私は笑みを浮かべて紅茶を飲んだ。ノインは申し訳なさそうと空になった私のカップに紅茶を注いだ。
「前から聞きたかったけど、もしかして言えないことが多かったりする?」
「うん。」
「んー、ならそういう時は遠慮なく言えないって言ってね。」
ノインはきょとんとした後に、やや小さく笑いながら頷いた。
──────本音を言うと言ってくれよ!なんだけど、ここでごねてもノインは話さないだろうから私がおれまーす。
何が言いづらいんだろうなぁ。
マルスを見てたからマルスに関することだ。
"マルス"、"ヴァーレデルド王国"、"地底の健脚"──────魔法研究所、かな?
そんなことを黙々と考えながら紅茶を飲む。
「あと、これ。」
すっとノインが差し出したのは、一通の手紙だった。受け取って中身を確認すると主神からだった。
『回収ありがとう。貴女のおかげで回収できました。こちらで厳重に管理します。付き合わせてしまったお詫びも兼ねて、お礼の品を受け取って下さい。』
綺麗な字で丁寧にお礼を書かれた手紙に、ほっこりしながら私は手紙を大事に腕輪にしまう。
「はい。」
待っていたノインが私に渡してくれたのは、深い緑の水晶を王冠のように白銀の細工が覆い、持つところにはアネモネの花が彫り込まれた短杖だった。
「杖?」
「長さ変えられる。」
「え?うわっ!」
持った杖がいきなりシャキンと伸びた。軽く身長を越すほどの長さになった杖は、見た目よりも軽く先程の長さの時と重さが変わらない。
「なんか、アイズ様が受け継いだ大錫杖みたいになったね。」
────なんか、こんなようにネックレスが杖に変わるアニメあったな。レなんちゃらとか叫んでいた気がする。
「何かあったか?なんだ、その杖は。」
ちょっと騒いだ為にマルスが気になって近づいてきた。
「あぁ、ごめんね。新しい武器を貰ったから試しててビックリしちゃったんだ。」
「その杖か、それだけ長いと持ち歩きには不向きだな。」
「あ、長さ調整出来るみたい。ほら、これくらいなら剣と一緒に下げれそう。」
そう言いながら杖を長剣と同じ長さに調整して見せると、マルスは唖然とした。
「相変わらず、常識を越えていくな。」
「アネモネ専用の杖だから普通の杖じゃない。」
とマルスの言葉にノインが突っ込んだ。
あ、これ私専用だったんだ。
「じゃ、明日は魔法士スタイルで行こうかな。」
新しく加わった私の武器を試したくて杖を見つめると、暖かい魔力を握った手から感じた。
そろそろ名前つけちゃおうかな。




