龍巫女と白魔人 4
部屋の外から大きな騒ぎが近づいてきたので、ミーゲル達が誰かを連れてきたと思って背筋を伸ばした。
ドアが静かに開かれると、入ってきたのは初老の男性だった。
白髪ではあるが一つにまとめてある。年月を重ねたシワすら魅力的で、鮮やかな赤の龍眼は衰えが見えない。
キリッとしたスーツのような黒い服に、肩から白色のストールを下げている。
─────マフィアのボス!?と言いたくなるような人物に思わず顔をひきつった。
そのあとすぐにミーゲルが頭を抱えているのが、視界の端に見えたので、心の中で同意してくれたんだろう。
「聞いてるよりも麗しい方だ。初めまして、御使い様。私は龍人族の長、名をシュヴァルツァ・ヨルムンガルド・ドラゴンキングズです。」
名前もいかついせいか、胡散臭い!!
「初めまして、私はアネモネ。こちらが同じ天使のノイン、従魔のライガ。そして、仲間の魔法士ギルドサブマスターのマルスです。」
「これはご丁寧に。皆々様、どうぞよろしく。」
すっと頭を下げるその姿が、何とも言えない程のマフィアのボス感を持つシュヴァルツァ。
「我らが偉大なる主神様より神託にて事情を伺っております。早速案内致しますが、どうされますか?」
「はい、お願いします。」
シュヴァルツァがこちらです、と部屋から出て案内をしてくれた。私達は頷き合うとついていく。
「なら、俺は留守番してるぜ。」
ツェルクが軽く手をふってから、お茶を飲み始めた。ミーゲルも残るようでお代わり用にお茶をポットに入れている。
「私の部屋なんだからね!」
サラがツェルクにムスッとした顔で言うと、彼はニコニコしながら手をあげる。
共に部屋を出たサラはシュヴァルツァに近づいて、笑みを浮かべて話しかけている。
家族同士の仲良しな雰囲気に、私は少しほっこりとして見ていたが────祖父と孫なんだろうけど見た目がマフィアと女の子なんだよね。何も知らなかったら慌てて警察が飛んでくる光景だね。
「こちらです。」
着いた先のドアは頑丈だが豪華さが見てとれた。ギィっと開かれたドアから、思わず顔をむっとさせるような嫌な空気が漏れた。
中は廊下よりも明かりがついてるのにも関わらず、暗闇が立ち込めた部屋だった。
なんとなく内装や雰囲気でわかった────ここは玉座の間だ。
「あれです。」
シュヴァルツァが手で指した先にあったのは、ボロボロになった椅子に鎮座した球体。透明な球体の中には、真っ黒な足の形をしたものが見える。
「あれが魔王の右足を封じた"風雷の飛脚"。」
「ええ。あの右足は勇者がこの場で切り捨て、賢者が封印したままの状態で保たれるように、我々がこの部屋ごと封印、守護してきました。」
そんな説明をし終わった直後に、ノインがツカツカと"風雷の飛脚"の元へ歩き出した。
「っ!危ないですよ!」
シュヴァルツァが声をかけるが、それを私が手で制した。
「彼なら大丈夫です。」
私の言葉に不安げな様子でノインを見ると、つられて私も同じ方向を見た。
ノインはすでに"風雷の飛脚"の前に立ち、何事もなかったかのように、軽く手を添えるとふっと"風雷の飛脚"は消えた。
消えた瞬間から嫌な空気は風に消えていた。
「回収ありがとう、ノイン。」
再び私の近くまで戻ってきたノインは、小さく頷いた。この光景に唖然としたまま固まるシュヴァルツァ。
「これで"風雷の飛脚"は、我らが偉大なる主神の元へ届けられ、厳重に管理されることでしょう。」
私はシュヴァルツァとサラの方を向き、すっと頭を下げる。
「今まで本当にご苦労様でした。貴殿方の働きに我らが偉大なる主神も感謝しています。」
言う必要あるかはほっといて、大変なことだったろうから代わりに労いの言葉をかけると、ようやく動き出したシュヴァルツァが、
「───もう、我々の役目は終わりですかな?」
と寂しげに呟いた。
一瞬、何を言い出すのかと焦ったが、続きの言葉に私は納得した。
「次は、何をしましょうか?」
龍人族の長、シュヴァルツァが「今日はぜひ壮大に祝いたい。」とのことで晩餐会を催すことになり、ドラゴンズキャッスル内は慌ただしくなり始めた。
私達は国賓みたいな客人として、ドラゴンズキャッスルに泊まることに。
ミーゲルとサラに案内された部屋は、アッシャルダ城内で泊まったゲストルーム並に綺麗で豪華だった。
「晩餐会が始まるまで、一緒に遊ぼう!」
サラの提案に私は承諾し、彼女が持ち出してきたのを見て驚いた。
綺麗に作られた木製で出来たチェス盤、ボードゲームだった。
「チェス?」
「うん!ルール知ってる?」
「あ、あー。大体のことは。」
暇潰しでアプリにつっこんで、ちょいちょいやってた程度だから腕前は察して。
「お?チェスか。」
いつの間に遊びに来ていたツェルクもチェス盤の周りに集まった。
一応サラからルールを確認してから、早速遊び始めた。
─────まぁ、結果はお察し。
途中、ノインが念話でフォローしてくれてたけどさすがにそれはサラに悪いので、やんわりと断りつつのゲームになっていた。
「んー、私には難しいなぁ。」
と苦笑いして誤魔化す。サラは連勝出来て大喜びで、次の相手のマルスに挑み始めた。
一旦チェス盤から離れた私に、さっと紅茶を差し出したのはノインかと思って見れば、ミーゲルだった。
「あ、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそサラちゃんと遊んでくれてありがとう。」
チェスで盛り上がっているとこから離れた別のテーブルで、二人で向かい合って座る。
ちなみにノインは、主神に報告があるらしく今はいない。
「大したことしてないですよ。チェスは負けっぱなしで相手にもなってないですし。」
「いえ、僕やツェルク以外と話したり遊んだりすること自体なかなか出来なかったから、サラちゃんはきっと嬉しいと思うんだ。」
ミーゲルは優しげな眼差しでサラを見つめていた。色々と聞いた話の内容から察すると、サラは神龍の一族、長の孫娘だからなかなか自由なことは出来ない。しかもサラは本来なら"風雷の飛脚"を封印し続ける役目があった。
でもそれは、私達の登場で解放された。今後は普通の生活を送ることだって可能になった。
長年サラの保護者────いや、騎士をしているミーゲルはそれが嬉しいんだと思う。
「本当にありがとう、アネモネさん。」
だから、ミーゲルは心の底から感謝をしてくれたんだろう。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「いえ、私は我らが偉大なる主神の命でしたことですから。」
そう言ってみても、ミーゲルの感謝の気持ちは変わらないようで何度も何度もお礼を言い続けた。
「おい、ミーゲル!マルスが強すぎる!サラが負けて拗ねてるぞ!騎士様働けよ!」
「え?ちょ、ちょっと待って!ごめんね、アネモネさん。」
「いってらっしゃい、騎士様。」
そう私もからかうと、ミーゲルは照れ笑いしながらサラの元に駆けつける。それと入れ替わるようにツェルクが、ミーゲルの座っていた席にドサッと座った。
勝手にカップを持ち出してきて、紅茶を飲み始めた。
────慣れた手つき、これは常習犯だな。
「いやいや、ルドルフの息子は強いな。打つ手も似てるな。」
「あの、その息子って秘密なのであまり言わないで下さいね。」
「ん?あぁ、さっきマルスからも聞いたぜ。こういう場でしか言わないさ。」
美味しそうに紅茶を飲み、先程私があげたラムネを一粒口に放り込んだ。
「んー!これはうまいなぁ。」
相当ハマったようで何よりです。
「ツェルクさん。」
「ん?なんだ?」
「次は貴方の番ですね。」
紅茶を口にしながら私は笑う。ツェルクはニヤリと笑って返した。
「おう、ガッツリ利用させてもらうからな?」
やや影のある笑みに、私はふと出会った当初のマルスを思い出した。
今や、楽しげに笑いながら知り合ったばかりの人達とチェスに興じている。
───ツェルクにも、あーやって楽しく笑ってもらわなきゃ。
密かに心の中で決心して、ラムネを一粒口に入れた。




