龍巫女と白魔人 3
今さらですがサブタイに意味はありません(笑)
「ヴァーレデルド王国に"地底の健脚"が渡っていたのか。」
マルスが深いため息をこぼすと、ツェルクは再び頭を下げた。
「止められなかった。魔人族として、長の息子として何も出来なかったのが申し訳ない。」
「マシな方。」
ツェルクの言葉に、ずっと黙って聞いていたノインがポツリと呟いた。
「ブラックトレントに取られたら危なかった。」
「危ないって?」
私が思わずノインを見ると、いつもの無表情が怒りに歪んでいたのに驚いた。
普段こんなに表情が動くことのないノインが見てわかるほどの怒りがある、ということは相当のことだ。
「魔王復活したかもしれない。」
「おいおい、冗談にも程があるぞ。」
ノインにツェルクが慌てたように話すが、マルスは納得した様子だった。
「冗談じゃないんです。」
私が真っ直ぐツェルクを見つめてから、静かにゆっくりと話す。
「彼の言葉に嘘はありませんから。」
「─────君達は、一体何者なんだ?魔力も人間族にしては異質すぎる。ミーゲルから君のこと聞いた時も違和感があった。」
ツェルクは見定めるように私達を見る。一度、マルスとノインを見てから、私はツェルクに向き直った。
「信じてもらえるかわかりませんが、話しましょう。」
私はすっとアネモネの髪飾りを触れた。フワッと一瞬の浮遊感があった後、あのドレス姿に変身する。
ツェルク達が驚きに目を見開いたのを確認してから、ゆっくりと話す。
「私は、御使い。世界が危機を迎えた時、我らが偉大なる主神の命を受け、人々に救済と破滅をもたらすもの────天使の上位存在、といったらわかりますか?」
以前、アイズにも告げた言葉をツェルク達にも投げ掛ける。
「天使────。」
「うわぁ。じいじ達が言ってたこと、本当だったんだ。」
「み、みたいだね、サラちゃん。」
三者三様の反応だが、サラの言葉が気になってそちらを見る。
「じいじ、ってどういう意味かな?」
「あ、僕から話すよ。あ、いや、話します。」
ミーゲルが慌てて敬語で話し始める。
「先程のじいじ、というのは神龍の一族、龍人族の長のことなんです。」
ノインから聞いていたから動じずにいられたけど、まさかサラちゃんが龍人族の長の孫だったとは思わなかった。
「そうでしたか。その、言ってたとは?」
「多分、神託のことだと思います。だよね?サラちゃん。」
「うん。じいじは『我らが偉大なる主神が御使いを遣わせるから、"風雷の飛脚"を献上する。』と言ってたよ。」
思わずノインを見ると、彼がうなずいて返した。主神が回収しやすいように手を回してくれたんだ。
「あぁ、そういうことね。サラちゃんに会いに来たのもあるけど、本題はそれだったの。」
ごめんね、と私が笑うとサラはううんと首をふった。その反応に横でミーゲルは慌てた。
「ちょっ!なんでサラちゃんは軽い感じで返事するの!?この人は神様の代行者なんだよ?!もっとちゃんとして!」
「あ、それはいらないです。今までのままでお願いします。」
そんな会話の中、未だに呆然としたままツェルクを見ると、肩を震わせていた。
私が何事か、と彼を見た瞬間。
「はっ、はは。天使だったのか!」
ツェルクは笑った。とても愉快に笑いだしたかと思い始めた直後に、
「なんで、今さらなんだよ。」
悔しげに吐き捨てたのだ。
そう言いたくなる気持ちもわかるので、私は悲しくなって頭を下げた。
「申し訳ありません。もう少し早く事態を知っていたら、と後悔してます。」
「───すまん、俺が悪かった。君が頭を下げる必要なんてないさ。」
ツェルクもわかっていたようで、頭をガシガシとかきながら居心地悪そうに笑った。
「ですから、これからはどんなことでも、可能な限りのことはさせてください。」
せめて出来ることはしてあげたい、という気持ちで私が言った言葉に、ツェルクはビックリした後にニヤリと笑った。
「あぁ、こうして出会えた縁だ。たぁくさん利用させてもらうからな?」
「ツェルク!」
ミーゲルが怒ろうとしたところを私が大丈夫、と手で制して止めた。
「勿論出来ることは、ですよ?」
「はは、そこまで悪魔じゃないさ。似た生き物だけどな?」
ジョークも出てくる程の余裕が出たようで、私は笑って先程の服装に戻した。
「じゃ、僕達は長老達に話してくるよ。」
少しお茶をして落ち着いた後、ミーゲルとサラが長老────龍人族の長に取り次いでくれるということで、部屋で待つことになった。
ツェルクは客人扱いらしく、私達と一緒に待つということで手をヒラヒラさせて見送った。
待ってる間にマルスとツェルクが何かの話し合いを始めたのを見て、黙って聞いていることにした。
「───だから、こちらで保護は。」
「そうか───なら、これで。」
話の内容から察すると、生き残った魔人族をアッシャルダで保護する話のようだ。
どうやら、魔人族の偉い人達がヴァーレデルド王国に、他の魔人族はこの龍人族の集落にいるみたい。
「いやぁ助かるぜ、マルス。でもいいのか?」
「無論、タダでとは言わない。」
「わかってるさ。魔法士ギルドで手伝えばいいだろ?ギルドマスターはまだアレックスなのか?」
ツェルクは先程の悔しげな表情が嘘のように、楽しげに笑っていた。
───あの話を聞いてると、あぁやって笑っているのも辛いはずなのに。
時々、表情に陰が差すのも仕方がない。
ツェルクをじっと見ていたので、ノインが心配そうに私に話しかける。
「アネモネは悪くない。」
「うん、わかってるよ。全部が全部助けたいとは言わないよ、出来ることは限られるから。」
そう言うものの、気持ちが持ち直したわけじゃなく、どんよりしたものが胸にたまってる。
『アネモネ。』
ライガが座った太ももの上で念話を飛ばす。
『あいつらが襲われた時って、アネモネはまだ天界にいたろ?責任感じなくていいんだぜ?』
『そうだけど、ね。』
私は御使いという立場になってから、その責任というものが重いことに気づいた。
魔王の封じられた魔法道具を回収する、と決めたんだけどこんなことになっていたのを知ると、余計に重くのし掛かるようだ。
「終わったぞ。」
マルスの声がかかり、顔を見上げるとマルスもまた心配そうに私をみていた。
「アネモネ?大丈夫か?」
「うん、大丈夫。なんか、みんなそういうけどそんなに辛い顔出てる?」
「あぁ、隠す気があったのか?」
「あ、そこまでですか。」
マルスの言葉に私はあはは、と乾いた笑いをする。ツェルクも何とも申し訳なさそうに近づいてきた。
「アネモネ、だったな。すまん、そこまで思ってくれるのは嬉しいが、君まで落ち込まないでくれ。」
辛いはずのツェルクにまで言われて、私はますます申し訳なり小さくなった。
「そんな姿を見てると、御使いだってことを忘れてしまいそうだ。」
「まだ日が浅いですから。」
「そうなのか?これからこんなことが山のように来るぞ?引きずってたら持たないぞ。」
出来ればそんなことがないようにしてほしいけど、そうも言えないんだろうな。
「うん、そうですね。よし、気持ちを切り替えよう。」
そう言ってアッシャルダで買った駄菓子をテーブルに並べた。それをみたツェルクが子供のように笑顔になった。
「おー!菓子か!」
「よかったらどうぞ。ライガ、何食べる?」
『こないだもらったりんご飴の欠片あるか?』
言われたものを口元に寄せると、ライガはパクッと口に入れた。ご満悦の念話が聞こえつつ、私もラムネを一つ手に取った。
「アネモネ、これはなんだ?」
ツェルクは私が食べたラムネが気になったらしく、聞いてきたので説明した。
「へぇ、もらうぞ。」
一つを口にして、きょとんとした後にぱぁっと笑顔に変わった。
「なんだこの食感は!?あっという間になくなったぞ。とまらないな!」
「まだたくさんありますから。」
行き詰まったら甘いもの────私のリフレッシュの一つだが、いつの間にか駄菓子を楽しむお茶会に変わっていた。




