龍巫女と白魔人 2
軽い騒ぎとなった謝罪が終わり、ようやく穏やかなお茶会が始まった。
ミーゲルがささっと紅茶やクッキー等を丸テーブルの上に並べ、椅子を人数分用意してから全員が着席する。
「で、俺に聞きたいことがあるって?」
騒ぎの原因であるツェルクはまだヘッドロックの後遺症をひきづりながら、話題をふってくる。
「ええ、いくつか聞きたいことがあります。」
「さっきの詫びだ、わかることは何でも答えてやろう。」
ん?今何でもって──────というネタはこの世界では通じなかったね。
「助かります。まずはブラックトレントのことです。」
私は魔の森のブラックトレントの現状と、駆除するのかの是非を問いかける。
ツェルクはミーゲルと私を交互に見ながら、軽い口調で返答をする。
「あぁ、かなり増えちまったな。さっき、龍人族の騎士達が駆除に行ったんだよな?」
「うん、僕達───龍人族の騎士で集落周辺は駆除する予定だよ。」
「そうですか。私達も手伝えることがありましたら、遠慮なく言ってください。」
私の言葉に先程と同じ対応を返すミーゲル。
「これは龍人族の問題だから大丈夫だよ。言ってもらえるだけありがたいよ。」
「────話に割り込むが、いいか?」
そこにマルスがすっと魔法士ギルドのエンブレムを見せながら、話に割り込む。
「魔帝都市アッシャルダの魔法士ギルド、及びマーシャットの冒険者ギルドから龍人族への親書が届いてるはずだが、我々人間族と獣人族のブラックトレントの討伐に協力していただきたい。」
マルスの話を聞いて、ツェルクはじぃっとマルスを見つめている。
「君は────なるほど。魔力が良く似てると思ったら、先代のご子息だったか。」
「ッ!」
マルスだけでなく私も驚いた。まさか、見ただけでそれを見抜くなんてツェルクはすごい人なんだろうな。
「驚いたか?先代の魔帝王、ルドルフとは仲良くさせてもらってな。あいつは元気か?」
「─────先日、病死しました。」
マルスは一瞬、息を飲んだあと静かにそう呟く。それを見てツェルクはとても残念そうに目を伏せた。
「そうか、あいつの魔力を感じないと思ったら、やはりか。」
ツェルクはそう話し終わると、再び顔を上げた。
「すまん、そういう話じゃなかったな。親書のことだったな。」
ミーゲルとツェルクが互いに見合わせた後に、同時にがばっと頭を下げた。
「すまん!親書は受け取っていたがそれどころじゃなかったんだ!」
「ホントに無視したわけじゃないんだよ?!」
二人とも謝罪する姿に、私もマルスも唖然としていた。すぐに気になって私は問いかける。
「何かあったんですか?」
「あー。こっちの話はしていいが、ミーゲルはどうするつもりだ?」
「勿論話すよ。彼が人間族の代表である魔帝王の息子さんなら、きちんと話すべきだから。」
ツェルクがミーゲルの言葉を聞いてから、同意した様子で頷いた。
「まずは、俺から話そう。」
ごほんと咳払いしたあと、ツェルクが話し始める。
「そうだな、まずは自己紹介からしようか。ここにいるから勘違いしてるかもしれないが、俺は魔人族の集落をまとめる長の息子だ。」
「え?」
なんと!ツェルクは龍人族の人かと思ったら、まさかの魔人族の人だった!
「何故ここにいるのかは、わかりやすくに言えば────勘当された、か?」
「勘当された!?」
驚きのツェルクの発言に、マルスは声を荒げた。
「元々あまり親父と意見が合わなくてな。何かと揉めてはよくここにきていたのさ。ただ、あんなことが起きなかったら、もう少し何か出来たんたがなぁ。」
「あんなこと?」
不穏な流れに嫌な予感を感じつつも私が問いかけると、ツェルクは真剣な顔つきに変わった。
「───ここからは込み入った話になる。場合によっちゃ君達を巻き込むぞ?」
「かまいません。こちらも魔人族の方々に込み入った話をしに行くつもりでしたから。」
「ん?そうなのか?なら、なおさらこのことを話さないといけないな。」
ツェルクは目を閉じたあと、一息をつく。
「ブラックトレントの群れに、集落が襲われたんだ。」
「ッ!!」
マルスだけでなく、私も驚きのあまりに息を飲んだ。
「ついに襲ってきたか!」
「あぁ、全く迷惑な話だ。」
マルスは悔しげに吐き捨てるように言うのを聞いて、ツェルクもとても悔しげに話す。
「でも何故、魔人族が?他にも獣人族や龍人族の集落もありますよね?」
私がそんな疑問をツェルクに聞くと、あぁと呟いてから話し始める。
「ブラックトレントは魔力を感知して獲物を探す。魔力の塊である魔人族はブラックトレントにとっちゃわかりやすいターゲットってことだ。」
百科事典のブラックトレントの項目にはそんなこと書いてあった気がするけど、気にしてなかったな。
「今までは何とか撃退してたが、ここ数ヶ月で一気に増えちまった。原因はわからないが、群れに真っ先に魔人族が狙われちまったワケだ。」
「被害状況はどうだったんですか?」
「集落にいた魔人族は100人弱で、生き残ったのは────両手で収まる程だ。」
酷い状況に私は真っ青な顔で絶句した。そりゃ親書の返事どころじゃなかっただろうね。
「いつ頃に?」
「一週間前だ。」
私とノインがファレンジアに来た頃じゃん!マルスも真っ青な顔で話を聞いている。
「何とか生き残ったやつらは散り散りになっちまったが、親父を含む長老達はヴァーレデルド王国領の方に逃げたらしい。」
ツェルクの悲痛な表情をする。集落が壊滅するほどの襲撃なんて酷い状況、想像するだけで辛くなっちゃうなぁ。
────ってあああああーーーー!!!
「魔王の足!"地底の健脚"はどうなったんですか!?」
私は思わず立ち上がって叫ぶ。ノイン以外の全員はビックリして固まったが、ツェルクは苦々しい顔に変わった。
「あぁ、親父が何とか持ち出せたらしいが、今は持ってない。」
「えっ!?持ってないって何故ですか!?」
私が詰め寄るようにツェルクに言うと、申し訳なさそうに下を向いた後、彼は話を続ける。
「先程の話に戻すが、ブラックトレントは"地底の健脚"を狙っていたらしく、逃げる親父や長老達を追いかけてきた。応戦することできず、ひたすら逃げ続けたらしい。」
ふとツェルクの手に目を落とす。その手は悔しさをおさえるように強く握られていた。
「俺がミーゲル達に救援を頼みに、何とか合流できた時には、親父達はまるで人が変わったように狂っちまってた。」
当時のことを思い出したのか、ツェルクは悲痛な表情を浮かべた。
「親父達はヴァーレデルド王国に庇護を求めるとか言い出しやがって、何とかやめさせようとしたが日頃の行いも相まって聞いちゃくれない。」
肩をすくめたツェルク。そして、最悪な展開になっていたことを口にした。
「結局、親父達はヴァーレデルド王国に駆け込んだ────"地底の健脚"を手土産にしてな。」




