龍巫女と白魔人 1
「やぁ、待ってたよ。」
言われた通り、ミーゲルがにこやかに片手で挨拶をしてくれた。
会った時と同じように、着流しのようなラフな服装で出迎えてくれた。
「ミーゲルさん、わざわざありがとうございます。」
「そんな、こちらこそサラちゃんが迷惑かけたのにわざわざ来てもらっちゃって。さ、こっちへどうぞ。」
笑みを深めてミーゲルが城の中を案内してくれた。
70年前に魔王城だったこのドラゴンズキャッスルは、太陽の光が苦手だった悪魔族が住む城だったせいか、中々日差しが入りづらい。
その代わりに絶えずきらびやかな照明が、廊下や部屋を照らしていた。
「集落の出入口、騒々しかったでしょう?」
ミーゲルが世間話をふってくる。
「ええ、何かあったんですか?」
敢えて何もわからないフリをして、ミーゲルから話を聞き出すように話す。
「うーん、来るときにブラックトレントは見かけた?」
「見かけた、というよりは、撃退しました。」
「だよね。いやぁ、ちょっと数が増えすぎちゃってね。出来る限り、駆除しようと言うことになったんだ。」
ミーゲルと先程の美女との会話は一致していた。私はチラリとミーゲルを見ながら、話を続ける。
「大変ですね、私も手伝えることがありましたらお手伝いさせてください。」
「えっ!?いや、そんな悪いよ。サラちゃんのことで迷惑かけたのに、こちらの事情を押し付けるなんて。」
案の定、ミーゲルは慌てて振り返り、私に申し訳ないと繰り返した。
「私達からお願いもありますし、その辺りはね?」
「お願い?あぁ、ツェルクのことかな?彼なら今サラちゃんと勉強中だから、すぐに会えるよ。」
それだけじゃないんだけど、まいっか。
そんな会話をしてる間に、サラがいるという部屋にたどり着いた。
ミーゲルがノックをしてから、入ろうとドアをあけた瞬間。
─────ぼふっ。
ミーゲルの顔を、覆うくらいのクッションが襲いかかった。
横から見ていた私が唖然としてる間に、部屋から大笑いが聞こえた。
「あははは!ミーくん顔面キャッチだぁ!」
声を聞くまでもなく、サラだろうと予想はついたが部屋からはもう1つ声が聞こえた。
「ミーゲルは器用だな、笑わせてくれるぜ!」
その声は青年のようだが、何となく年齢を若い軽い口調だった。
ミーゲルは青筋を立てながら、クッションを掴む。
「サラちゃん!ツェルク!お勉強は!?」
「終わったよ?」
「暇になったから投擲の修行中だ。」
クスクスと楽しげに笑う声。私も思わずクスッと笑ってしまう。それを聞かれたのか、ミーゲルは恥ずかしそうに頭をかきながら部屋に入る。
「部屋の中でやらないで!あぁ!壁にめり込んでるの何!?」
「え?空の魔石。」
「勿体ないから投げないでくれないかな!?」
ミーゲルがそこまで怒鳴ってから、ごほんと咳払いしてドアの向こうで待機してる私達を招いた。
「サラちゃん、お客様。アネモネさん達だよ。」
「わぁ!?花のお姉ちゃんだ!」
ドアから入ろうとする私に飛び付いてきたサラを予想して受け止めた。
「こんにちわ、サラちゃん。」
「会いに来てくれたの?ありがとう!入って入って!」
「失礼します。あぁっと、仲間も一緒だけどいいかな?」
「うん!イケメンのお兄さん達と、猫ちゃんでしょ?入って入って!」
そう呼ばれたノインは特に反応はなく、マルスはやや恥ずかしそうにフードを深くかぶり、ライガは行儀よくにゃあぁ、と鳴いてそれぞれ部屋に入った。
中にクッションや本が散らかり、ミーゲルが必死に片付けていた。それをさも当然のように見つめて椅子に座っている男性がいた。
「───おぉ、こいつは驚いたな。」
「えっ?」
男性が私を見るなり、声を上げた。私も男性を見て声が漏れた。
椅子に座った男性は雪のような白銀の短髪を後ろで金色の組紐でまとめ、キレイな金色の瞳をしていて、雪に咲く儚さのある美形だった。
さらに白いローブに青い革ベルトに、同色のスラックス。黒のブーツという王子様のような姿だった。
「まるで俺の生き別れの妹みたいな娘さんだ。」
そう、彼が言うとおりに髪と瞳の色合いがソックリだったのだ。
私はビックリしすぎて呆けていると、男性はすっと立ち上がって近づく。
が、見事にノインが立ちふさがった。
「ん?────なるほど。」
ノインを見るなり何かを納得したのか、すっと少しだけ後退した。それらを見ていたミーゲルも慌てて男性に近づく。
「コラ、ツェルク!いくら可愛いからっていきなり口説かない!」
「おいおい、ミーゲル。さすがに人間族には興味はないぞ?ただ、本当に見た目が兄妹みたいでよく見たくて近づいただけだぞ?」
ツェルク、と呼ばれた彼が肩をすくめた。
あー、この人がツェルクだったのね。
本当に見た目のカラーがバッチリかぶったな。まさかこんなすぐにかぶるとは思わなかった。エレノアから白銀の髪は稀だっていってたから選んだのになぁ。
「ノイン、ありがとう。大丈夫だから。」
未だにツェルクに威嚇してる過保護なノインに、私はそっと肩を叩いて話しかける。
渋々といった感じで下がるノインを見て、ツェルクはニヤニヤしていた。
「初めまして、ツェルクさん。私は───。」
「アネモネだろ?サラとミーゲルから話は聞いたよ。うちのおてんば姫を助けてくれてありがとうな。」
ツェルクが手を差し出したので、何となく普通に握手をする。
─────ぞわり。
身体中から何かに触られたような感覚が走り、思わず顔をしかめてツェルクを見る。
すると、まるでイタズラがバレた子供のようにペロッと舌を出した。
「すまん、気になると触ってみたくなるもんでな。」
それを話した次の瞬間、同時に膨らむ殺気が三つ。気づいて咄嗟に止めようとした私の真横からノインの剣が真っ直ぐツェルクの首に向かって放たれた。
「おおっと。」
それを軽い口調で後退したツェルクを、ガシッと両手でヘッドロックするミーゲル。
「いだいだいだだだだだ!!!」
「君はッ!いつもッ!デリカシーがッ!なさすぎるッ!!!!」
ミーゲルの腕の筋肉が袖からチラ見していて、それがはち切れんばかりに膨らんでいた。
────あれ、ガチでキメてませんか?
「割れる割れる割れるッ!ミーゲルッ!わぁ、悪かったからぁ!」
「大丈夫だよ、ツェルク。僕は加減出来るから、君の頭が割れる手前で抑えられるよ。」
「そういうことじゃなあだあだあだだだだだ!」
ツェルクがミーゲルにヘッドロックをキメてる間に、私はノインの剣を下げようと彼の方を振り返ると。
「───マルス?」
三つの殺気────1つは紛れもなくノインで、もう1つはミーゲルだと仮定していたが、三つ目は誰かを考えてなかった。
「大丈夫か?」
ノインのすぐそばまで来て、私を心配そうに見つめるマルスを見て、三つ目はマルスだと確信してしまった。
「──うん、大丈夫。魔力を確かめられただけみたい。何もされてないよ。」
私の言葉にマルスはホッとした様子で杖をローブの中にしまった。
「ノインもマルスも、心配してくれてありがとう。」
ニコッと笑うと、二人は照れてるように顔をそらしたあと、ようやく騒ぎの収まったミーゲルとツェルクの方を向いた。
私が振り向くと、ミーゲルから解放されたツェルクがうずくまってる姿があり、思わずクスッと笑った。
イタズラを咎められた子供のように見えたからだ。
この後、ミーゲルがペコペコ頭を下げながら、ツェルクの頭を押さえて下げさせて、謝り続ける時間が長く続いた。




