星空のテラスで 4
飲み物を片手に、私とアイズは可能な限りたくさん話をした。
何が好きとか、昔話とか、他愛ないことを。
私の昔話はまだ生まれて間もないから、と誤魔化して、イズリールに降り立った辺りからの話をした。
「そうか、あっちから来たのか。イズリールは長閑でいいところだったろ?」
「はい。」
アイズはとても話上手で、私の話もちゃんと聞いてくれて楽しかった。
「アイズ様。」
声がかかり、振り返るとジェルドとノインが立っていた。
話に夢中になってて、近づいてきたのに気づかなかった。
「そろそろお時間ですぞ。」
「ああ、もうそんな時間か。わかった、すぐいく。」
アイズの言葉に、ジェルドはノインに声をかけて城内に去っていく。それについていこうとするアイズの背を見て、私は手元のアネモネの氷像を握りしめて考えた。
「アイズ様。」
呼び止めてから近づき、私は腕輪からあるものを取り出して差し出した。
「これは?」
アイズはそれを受けとると、眺めつつも聞いてくる。
「大切なものをもらって、何も返さないのはなんか嫌なので。」
「そんな事ない。私はそれを君が持っていてくれるだけ、嬉しいんだ。」
アイズは微笑みながら答えたが、私は構わずに続ける。
「それは、私が天界で異世界の技術を学んだ際に手に入れたものです。このファレンジアの素材でない、異世界のものです。」
渡したのは水晶のネックレス。六角柱の端が尖った形で細かい細工の鎖で、固定されている。
昔パワーストーンの店で一目惚れして買った安いもので、アクセサリー箱の中に入っていたものなのだ。
安物だけど、異世界のものであることにかわりないので、アネモネの氷像並に価値はあると思っている。
「異世界の!?そんな貴重なものを貰っていいのかい?」
「はい、これにはまだ魔力も生命力も込めていません。魔帝王の役目が終わり、私の気持ちが決まったらその時に。」
アイズは話を聞きながら、月明かりに水晶をかざしている。見たことのない技術で出来ているせいか、興味津々の様子だった。
「あぁ、ありがとう。君から貰った贈り物だ、大切にする。」
すごく大切そうに水晶を掴み、アイズは微笑んだ。そして、すぐに首に通して服の中に隠した。
「さ、終いの挨拶をしなくては。アネモネ、いこうか。」
アイズは背中を向け、城の方へ歩き出した。私もすぐ後ろをついていき、同じく城の中に入った。
城の晩餐会終了後、マルスと馬車にのり陽風屋の前で降りて別れた。
『んあ~、疲れたなぁ。』
ライガはふわぁっとあくびをしながら伸びをする。私も含めライガも慣れない服や場所にかなり疲労がたまっている。
陽風屋に入るとすぐにメリルが待っていたらしく、おかえりなさいと声がかかる。
「すぐ着替えますか?」
「あー、いいですか?」
「ええ。あ、ノインさん。先程夜食にフルーツゼリーを作ったんですが、召し上がりますか?」
「はい。」
メリル、ノインの扱いわかってるな。すぐさまキラキラした目で頷くノインを見て私はホッとする。
「先に部屋で待っていて下さい。」
私はノインの手を借りて部屋まで帰り、折り返しノインとライガは出ていった。ふぅと一息ついてベッドに座ると、腕輪からアネモネの氷像を取り出す。
「キレイ、だなぁ。」
そんな事を呟きながら、再びアネモネの氷像を仕舞うと代わりにタンスを出した。寝間着や下着を出している内にメリルが部屋に来た。
「今日は楽しかったですか?」
「はい、メリルさんのおかげです。」
ドレスやコルセットを脱がしながら、メリルが話しかけてきた。私は話を返しつつも、ぼんやりとアイズのことを思い出してしまう。
「明日出立でしたね。」
メリルはドレスをタンスに戻しながらも、私にそう話す。出立、と聞いてそうだった、と改めて自覚する。
「はい。マルスが朝に来るので、そのまま一緒に出ます。」
「寂しくなりますね。」
メリルがそう呟くのは、おそらく私のことよりもマルスのことなんだろう。私はついさっきの出来事のせいで、アイズの笑顔が頭の中でちらついていた。
「はい、とても。」
思わずそんな言葉が出てしまう位に、アイズが気になって仕方がない。
「アネモネ様はまたアッシャルダには来られますか?」
そんなことをメリルに問われて、迷うことなく頷いた。
「はい、必ず。」
「良かったです。その時はまた陽風屋をよろしくお願いいたします。」
しっかり営業をするメリルに、私はクスッとなりながら勿論、と答えた。寝間着に着替えたあとに髪を直してもらい、メリルは部屋から出ていった。
すぐにノインとライガが部屋に入ってきて、メリルのフルーツゼリーをテーブルに置いてくれた。
「はい、アネモネの分。」
「ありがとう。ふぅ、ようやく終わったね。」
「うん。じゃ、着替えてくる。」
タキシード姿のノインは、ライガから服を脱がせるとそれを持って、ふっと姿を消した。
『アネモネ。』
テーブルでゼリーをつつく私の太ももに、突然ライガが飛び乗ってきた。
「わっ!ビックリしたー!」
『ぼーっと考え事か?あのおーさまに求婚されたからか?』
ライガに図星をつかれて、私はうん、と呟いた。
『アネモネは可愛いからな!当然だと思うぞ!』
「あー、うん。ありがとう、ライガ。」
喉をならしながらライガは念話を続ける。
『何を悩んでるんだ?』
「初めて、だったし。それにまだ結婚とか、考えられないし。多分、看取ることになるし。」
『んー。でも、おーさまはおーさまの役目が終わったら、って言ったんだろ?そこまでに考えときゃいいじゃん。』
ライガの頭を撫でながら、私はライガの念話に耳を傾ける。
「うん、そうだよね。それでいいんだよね。」
『そうだろ?難しく考えなくていいんだぜ。』
ようやく納得したところで、ノインが寝間着で帰って来た。
「ただいま。」
「おかえり。」
いつもの日課になりつつある文字の練習と主神への手紙を書くため、便箋と羽ペンを取り出した。
「私は主神様に手紙書いてから寝るね。」
「わかった。皿を片付けてくる。」
紅茶が用意してからノインが部屋から出ていったのを見たあとに、文字の練習を始める。
再びノインが部屋から戻ってきた時に、ふとその顔を見て、アイズのことを話そうか悩む。
ただ二人っきりの秘密と言われたし、アイズが魔帝王の役目が終わるまで結論を先延ばしにした為、結局話したところで意味がないかと判断して、文字の練習に戻った。
「アネモネ、宿の支払い済ませた。」
「ありがとう。明日やったらバタバタしそうだもんね。」
次に手紙にとりかかる。勿論、内容はアイズのことだ。やはり、主神には隠さずに話しておきたいから。
『確かにプロポーズはうれしかったです。けど、私は主神さんがこの世界に招いてくれたことを忘れません。だから、今は主神さんのお願いを優先しようと思います。時が来たら、その時にまた考えたいと思います。』
手紙を書き終え、封をして宛先を書くと手紙は浮いて消えていった。
「よし、じゃあお風呂入ってくるね。」
明日から本格的に旅が始まるんだ。長旅になるし、野宿もある。
高鳴る鼓動に、楽しみで仕方がなくなった。




