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星空のテラスで 3

料理も終わり、晩餐会の出席者同士の和やかな会話が流れる。


「アネモネ様、祭りの出店や大通りの飲食店は回られましたか?」


対面に座るのは、エイルの側近でありジェルドの部下の男性が私に話しかけてきた。


「はい、いくつか買い物や食事を頂きました。」


「それはよかった。」


柔らかい笑みを深めて男性と話す。エイルはニコニコしながら話を聞き入っていた。


「アネモネ、少し話を良いかな?」


先程までジェルドとマルスに話をしていたアイズが、私にやや真剣な表情で声をかけた。


「はい。では、失礼します。」


私が席を立ち上がると同時にノインも立ち上がるが、アイズがチラッとノインを見た。


「ノイン、すまないが二人っきりにしてもらえないか?」


その言葉に微妙に殺気立ったノインに、一瞬周囲が警戒体勢に入ろうとした辺りで、私がノインに頼む。


「大丈夫、話をするだけだから。」


「────わかった。」


「おいで、ライガ。」


と従魔のライガを呼ぶが、アイズは特に何も言わずに移動を始める。


『何かあったらライガから念話させるから。』


『頼んだ、ライガ。』


ノインの念話に殺気が混じってるせいか、ライガもやや緊張ぎみに返答した。


『わかってら、ノインの旦那は過保護だな。』


ライガの言葉にはノインの反応がなく、やり取りにクスッとしつつも、アイズの後について行く。


アイズは窓を出て、テラスに向かっていく。中庭に通じる道の途中で、アイズは私の方に向き直る。


「すまない、二人っきりで話がしたかったんだ。」


「構いません。むしろ、ノインが失礼なことをしました。」


「はは、彼の気持ちは分からなくないからね。」


とアイズは固い笑みで答えた。ライガは中庭の隅に移動し、離れて見ていてくれるようだ。


二人っきりで、と言われたんだから、アイズの話に集中しよう。


「それで、話とはなんでしょうか?」


「あぁ、これから話すことは二人っきりの秘密にしてほしい。」


アイズがそんな前置きで話し出すので、私は不意に鼓動が高鳴ったのを感じた。


─────まさか?いや、でも。


心の中で動揺し始めた頃に、アイズはすっと私に近づいて笑みを浮かべた。その手をそっとアネモネの髪飾りに触れて囁くように呟く。


「アネモネ、私は君の伴侶になりたい。」


ちょ!いきなり、直球来ましたわぁ!


イケメン!王様とかすでにやばいのに、満天の星空に、城のテラス!もう何がなんだがやばやばやばばばば!


何とか落ち着こうと、はにかんで誤魔化すがアイズは特に気にすることもなく、話を続ける。


「本当は最後まで言わずにいたかったんだ。」


アイズの表情がやや曇ったが、すぐキリッと真剣な表情に変わった。


「あぁ、勿論すぐに返事はしなくていい。私は魔帝王として、そして君は御使いとして、互いに果たさねばならないことがある。」


先程の固い笑みに戻し、私の手をとり膝を落として顔をあげるアイズ。


「互いの成すべきことが終わってから、改めて聞かせてほしいんだ。」


「──────。」


私は男性に好かれたことすらない。ましては告白だって出来なかった。

男性から、しかも王様からプロポーズされてるんだから、飛び上がりそうな程嬉しい。


────なのに何故か、一瞬にしてその気持ちが冷めていったのがわかった。


多分、互いの使命が終わったら、と言ったから冷めたのではないと思う。


目まぐるしく思考が加速して、この先の未来を想像した辺りで、さぁっと冷めたのだ。


それを感じ取ったのか、黙り込んだのを心配したのか、アイズは見上げたまま不思議そうにしていた。


「─────私は。」


どう答えるべきかを、悩みながらも何とか言葉を口にして行く。


「御使いとして、老いることはありません。そして、使命が果たされるまでかなりの年月がかかると思っています。」


「あぁ、そうだろうな。」


「多分、いえ、アイズ様がご存命している間にはきっと終わらないと思います。」


私はなるべく言葉を選んで話しているせいか、たどたどしい話し方なのだが、アイズは適度に相づちを返してくれた。


「わかっている。」


「だから─────お答えできません。」


言い切ってしまったあとに、軽く後悔し始めてアイズを見つめる。彼はそれすらわかっているかのように、私の手をつかんだまま立ち上がった。


「やはり、そうだろうな。」


アイズ自身もわかっていたようで、そう呟いてため息を漏らした。


「わかっている、わかっているんだ。だが、アネモネ。」


私の手を両手で触れたあとに、アイズは軽くぎゅっと握ったので、私はドキッとしてしまった。


「私の気持ちは、それでも変わらない。」


「アイズ様。」


「例え君と一緒に生きれず、先に老いたとしても構わない。君には辛い思いをさせてしまうな。」


アイズは片手を離して、その手の中に魔力をこめはじめた。最初は小さな雪の粒がふわっと浮いたかと思ったら、パキパキと音をたて氷に変わり、やがて花の形の氷像が出来上がった。


サイズは本物の花と同じで、よく見れば精巧に作られていて、その花が何の花かわかるくらいだ。


「受け取ってくれ、君の花だ。」


それはアネモネの花だった。


「このアネモネの氷像は、私の魔力と生命力を込めている。」


月明かりにキラキラして、透明なのに光の角度で花びらが白く光る造りに、私は惚れ惚れする。


「せめて、私の代わりにこれを君の旅の共にしてくれ。」


「けど、私は────。」


ほぼ強引に私の手に氷像のアネモネを渡すと、アイズはやや苦しげな笑みに変わる。


「頼む。本当は今すぐに抱き締めたいんだ、狂おしいくらいに君が好きなんだ。」


今度は顔が真っ赤になるほどの直球に、私は慌てて氷像のアネモネを握った。それを見て、ようやくアイズは再び固い笑みに戻った。


「無理やりですまない。」


「いえ、気持ちはすごく嬉しいです。」


私は貰ったアネモネの氷像を見つめて、あっと思い出した。


百科事典に書いてあった────自身の魔力と生命力を捧げて生み出したものは、自身が死ぬときに朽ちるらしい。

それを贈ることで、相手に全てを捧げるという意味になるという。


アネモネの氷像を私に贈ったアイズは、本気でプロポーズしているんだ。

それを簡単に無理、と言えない。


「アイズ様。」


「なんだい?」


「魔帝王の役目が終わったら、必ず会いに行きます。」


今は答えられない。

こんな引き延ばし方、最低だなと思ってる。


「そのときに、必ず答えを出します。」


「ああ、それで構わない。」


アイズは笑みを深めて頷いた。


「───────卑怯で、ごめんなさい。」


ようやく絞り出した言葉を口にしたが、アイズは全く気にしないようだった。


「そんな事思ってない。私だって待たせているじゃないか、君よりは短いが。」


笑って肩をすくめるアイズ。それに何も答えられずに黙ってしまう私に、アイズは困った様子に変わる。


「こんなことを急に言われて驚いただろう?君の気持ちも聞かずに、私ばかりは卑怯だな。迷惑だったか?」


「いえっ!気持ちはとても嬉しいです。こんな私には勿体ない位です。」


「そう自分を卑下しないでくれ。君は立派な女性だ、誰もが君を悪く言わないだろう。」


アイズは笑うが、いかんせん前世の自分がまだ顔を出してくる。チラリと中庭にある池を見て、私はアネモネなんだと自覚しないと、振り払えない。


「ありがとうございます。」


「さ、暗い顔しないでくれ。可憐な君には似合わないよ。」


そっと髪を撫でながら、アイズは微笑む。


この人にプロポーズされたんだ、とようやく自覚し始めて顔を真っ赤になる。


「わ、私、飲み物取ってきますね!」


慌てて照れ隠しでそう言って、テラスから城の中へ戻る私。


気まずいやら照れ臭いやら、もう何がなんだがわからないっ!!


けど、初めてのプロポーズを受けて思った。


やっぱり、イケメンはイケメンだわ。


ふふ、っと笑いながら、近くのウェイターに声をかけた。







───────────────────────


アイズはふぅ、とため息をついた。


「やはり、自分の本心を告げるのは、怖いな。」


未だに高鳴る鼓動が耳障りな位に落ち着きがない。


「─────で、何か用事かな?」


先程からアネモネから見えない位置からずっと見張っていたその姿に声をかける。


葉を揺らして出てきたのは、彼女の部下のノイン。

クロイアの話では彼もまた天使なのだという。


「自惚れるな。」


ノインはその凍るような殺気と声で語る。


「かもしれないな。」


アイズは静かに肩をすくめた。


「彼女は特別。彼女は世界の変革をもたらし、救済する者。貴様ら矮小な生命ごときが独り占めするような者ではない。」


殺気は徐々に高まっていくのがわかる。アイズはそれを黙って受け止めた。


こうなるだろう、と予想はしていた。


アネモネはおそらく世界にとって、もしくは神々にとって特別なのだと。

そして、彼女を庇護する存在(ノイン)は間近にいて、容赦なく邪魔者を排除するだろうと。


「だが、諦めが悪いのでね。まぁ、君らからしたら短い時間だけ、彼女と過ごしたいだけだ。邪魔をするつもりもない。むしろ出来る限りの協力はしたい。」


「いらない、必要ない。」


「だろうな。だがそれを彼女が望んだら、どうするのだ?」


アイズの言葉に、ノインはピクッと反応する。


「────望むなら、仕方がない。」


「それが聞ければ充分だ。すまなかった、ノイン。そして、アネモネが決断するまで頼む。」


「────言われなくても。」


ノインは興味をなくしたのか、すっと消えるように去っていった。


アイズは再び深いため息をこぼした。


震える手を何とか押さえ込むように握りしめて、落ち着こうとする。


ノインの放つ殺気は、魂を食らうようで静かにナイフで切りつけるようで、表現のしようもない恐怖感と焦燥感に、自分を見失うかと思ったほどだった。


「いや、本当に、怖いものだ。」


その言葉は何に対してなのか、アイズ自身もわからなくなっている。


もうすぐ飲み物をもって彼女は戻ってくるだろう。その前には震えを押さえておかねばならない。


「例え君と結ばれるのに、主神と戦おうとも、後悔しない。」

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