星空のテラスで 2
アッシャルダ城に入る前、その場にいた門番に招待状を渡すと私達の顔を見て、ヘルムを取った。
「マルス坊っちゃま、アネモネ様。」
「ベナルド!」
その名で呼ばれた初老の兵士は、とても優しい笑みを見せた。
あれ?この人、確かアッシャルダの出入口の門番じゃなかった?
「応援か?」
マルスの言葉にベナルドは首を横にふった。
「いえ、一昨日の人事異動で城の警備隊長補佐になりました。」
人事異動、という言葉に私はあぁ、と呟いた。確かダルクの一件で洗脳された大臣や臣下の一部は、精神疾患に陥るほどの重症で早急に人事異動を行ったと、アイズから聞いたのだ。
「そうか、無理しないようにな。」
「はは、まだまだ隠居するには難しいようです。マルス坊っちゃまは明日出立ですか?」
「あぁ、道中はアネモネ達が同行する。心配はいらない。」
マルスがそう言うと、ベナルドは私達を見て深々と頭を下げた。
「マルス坊っちゃまをよろしくお願いいたします。」
「勿論です、必ず無事にヴァーレデルドに送ります。」
私がやや胸を張って答えると、ベナルドは笑みを深めてヘルムをかぶった。
「では、お通りくだされ。」
「またあとで、ベナルド。」
マルスが片手で挨拶をした後に、御者に合図を送ると馬車はアッシャルダ城の出入口へ向かった。
出入口に着くと、そこにタキシードを着たジェルドの姿を見つけた。隣にはジェルドの体格に隠れる位に小さいけれど、ビシッとタキシードを着たエイルもいた。
「おぉ!マルス様、アネモネ様達のご案内助かりますぞ。」
「これくらいはさせてくれ。」
「ジェルド様、エイル様。この度はお招きいただきありがとうございます。」
マルスの手をとり、馬車から降りたあとに私はジェルドとエイルにお辞儀をすると、二人は少し感嘆の声を漏らした後に丁寧にお辞儀をした。
「相変わらず、アネモネ様は可憐でございますな。」
「はい、とてもキレイです!」
二人から誉められてテレる私。
やっぱり直球の誉め言葉は慣れないなぁ。ほとんど可憐、とかキレイとか言われたことなかったせいで、他意を感じちゃう。
でも、今の私は花のように可憐でキレイなんだから、深く考えなくていいよね。
「さぁ、アイズ様がお待ちですぞ。」
ジェルド達と晩餐会の会場へ向かって歩き出す。つい昨日歩いたばかりの城内は、雰囲気に変わっていた。
照明や装飾が一部変わっていたり、城内の壁に飾られていた前魔帝王の肖像画が、風景画にかわっていたりしていたせいか、どこか明るい雰囲気に見えたのかもしれない。
「着きましたぞ。」
ジェルドは会場の出入口のドアを押し開けて、私を招いた。ドアの向こうにはドラマやアニメ等でよく見るような豪華で広い客間だった。
様々な装飾はどれも天井のシャンデリアに照らされ輝いて、眩い空間に私は驚いていた。
「やぁ、アネモネ。」
アイズが近づいて声をかけてきた。それにようやくはっと我に返ると、私はお辞儀をした。
「新しい魔帝王、アイズ様。本日はお招きいただきます。」
「今日は身内や近しい者しかいない。かしこまらなくていい。」
とアイズは肩をすくめてテーブルに手を向けた。そちらを見れば、確かに客間には数席の椅子とそれに座る人々を目算すれば、20人もいない。
使用人らしきメイドやウェイターがちらほらいるものの、確かに少なく感じた。
「さぁ、アネモネ。」
マルスに促され、私はテーブルに向かう。その途中でクロイアの姿も見かけて、立ち止まってお辞儀をすると、クロイアも苦笑いした。
そこを通り抜け、アイズの座る位置からマルスを挟んだ位置に座った。右側にマルス、左側にはノインがいる位置になったので、さほど緊張せずにすみそうだ。
「アイズ様。」
ウェイターの一人が、座ったばかりのアイズに耳打ちをした。一瞬顔が曇るが、すぐ持ち直して手を払った。何かの合図をしたのだろう、ウェイターは一礼して去っていった。
「すまない、客人が一人こられなくなったようだ。仕方がない、始めよう。」
アイズはグラスを持ち、席を立った。周りの動きも一応に同じ動作をし始めたので、私もグラスを手に立ち上がる。
「今日は私のために集まってくれてありがとう。新しい魔帝王となったからには、これからのアッシャルダの為に尽力することを誓おう!」
高らかにグラスを持ち上げ、乾杯!と声が聞こえて晩餐会は始まった。
「アネモネ様、こちらアワビの刺身です。生の貝は召し上がれたことはございますか?」
「ないですが、食べます。」
晩餐会のディナーは、豪華な和洋折衷料理がコースになっていた。
料理の内容を運んで来たウェイターが全て説明してくれるので、安心感があった。
────なお、隣で目を輝かせて黙々と食べるノインがいます。よかったね、ノイン。
『うっめぇ。』
あと、後ろでライガが念話によるご飯の実況もあります。よかったね、ライガ。
「久しぶりの城での料理はどうだ?マルス。」
アイズがマルスににこやかに話しかけると、マルスもやや照れつつも頷いた。
「とても美味しいです、アイズ兄上。」
兄上、と呼んでるのにちょっと驚いたが、周りは大臣や身内、側近だけなので事情を知ってるはずだから、気にすることもなかった。
「食事の席ですまないが。マルスに頼みがある、アネモネも聞いてくれ。」
呼ばれて顔を向ければ、アイズの真剣な表情に私も気を引き締めた。
「ヴァーレデルドは今、はっきり言って情勢が不安定だ。こちらと同様、ヴァーレデルドも王が交代してから落ち着きがない。」
「存じてます。」
「マルスには、あちらで情勢を見守っていてほしい。無論、風の噂程度で構わない。危険と判断したなら、必ずアッシャルダに戻ってきてくれ。」
アイズはマルスにそう話すと、マルスは勿論ですと頷いた。私も同意するように頷いた後、アイズは次に私に視線を向けた。
「アネモネ。君は、いや君たちは我々アッシャルダの危機を救った英雄だ。アッシャルダでは英雄は国賓として扱い、場合によっては国政を担う重役を任せることもある。何か希望はあるかな?」
アイズの声が聞こえた大臣や側近から、一瞬ざわめきが起きたが書き消すように私が声をあげる。
「ありがたいことですが、私達には御使いの使命があります。国政に関わることは控えたいと思います。」
「そうか、なら重役は無しだな。他に希望はあるかな?」
「いいえ、何も。私達は旅の冒険者、持てる荷物は限られています。お金も名誉もいりません。」
とちょっと気取った言葉で返すと、クスッと固い笑みをするアイズ。
「そうか、なら儀礼的だが勲章を授与しよう。さぁ、今は食事を楽しもう。アワビの刺身は食べられたかな?」
「はい、とても美味しかったです。」
特に嫌いなものではないし。
「そうか。しかし、箸の使い方まで完璧とは恐れ入ったよ。」
アイズはグラスのワインを口にしながら、私にそう話す。一応、元日本人ですから。
「次のメニューをお出ししてよろしいですか?」
「あぁ、頼む。アネモネ、次は私の好きなマッシュカウのヒレ肉で、キノコも使った絶品だ。」




