星空のテラスで 1
あのあと女性に礼をいい、レティによろしくと伝えて、私達はノインが選んだ食堂で昼食を取った。そこでもある程度の人に話しかけられたが、ノインの無言の圧力でそそくさと去っていった。
そのあと、市場や港エリアを散策し、明日からの旅の準備として食材や気になる魔法道具等を買い足していくことになった。
「アネモネ、これは?」
互いに買ったものを話し合っていく中で、ノインが私が買ったものが入った袋にあったメガネを取り出した。
「あぁ、"簡易鑑定"が出来るメガネだって。形がシックで良かったから、効果云々よりもそれで買ったんだよ。」
「手持ち、足りた?」
ノインがメガネを手に取りながら、私に聞いてきたので頭をかきながら正直に答えた。
「あはは、若干まけてもらったよ。」
「そう。」
私の言葉を聞きながら、ノインはメガネを見ていた。そのメガネは銀縁に黒い芯のあるフレームでレンズの下半分にフレームがあるデザイン────アンダーリムで本当におしゃれだ。
「アネモネ、ラッキーだったね。」
「うん、お古らしいけど。なんか最終戦で負けたのを慰めてくれたよ。」
そのメガネを売ってくれたおじいさんは、目を細めながら昔話をしてくれた。
なんでもおじいさんは、二代前の魔帝王に挑んだらしいが最終戦で負けたらしく、あの当時は本当に悔しかったらしい。
同じ経験者である私に、まるで孫のように語りながらメガネを格安で譲ってくれたのだ。
─────私におじいちゃんがいたら、あんな感じだったのかな。
「はい、ありがとう。」
ノインがメガネを返してくれたのを受け取り、私は腕輪にしまった。他には気になったものを互いに見せながら、陽風屋へ帰る。
陽風屋に入ると、大広間の逆側の部屋からメリルが気づいて出てきた。
「お帰りなさい。あら、マルス坊っちゃまは?」
「パレードが心配でアレックスさんの手伝いにいっちゃいました。多分、そのまま晩餐に行くみたいです。」
「ふふっ、マルス坊っちゃまらしいですわ。ドレスとタキシードのご用意はありますか?」
メリルは愛らしく笑ったあと、晩餐会の準備に関わる話に変わった。
「はい、大丈夫です。」
「お手伝いはいりますか?」
「あ、お願いします。」
さすがにコルセットやドレスを一人では着れない。だからといってノインに頼むわけにもいかなかったから、本当に助かる申し出だった。
「時間になりましたら、お声かけますね。」
メリルはさっと部屋に戻っていった。時間までまたありそうだったので各自好きなことで過ごすことにした。
私は文字の勉強の続きを、ノインは明日からの旅用の料理の仕込みを、ライガは気ままに散歩に、とそれぞれが思い思いに過ごした。
『ぉ、マルスの旦那がいたぞ。』
念話に距離はないらしく、ライガの実況がたまに飛んできた。
『今、どこら辺にいるの?』
『昨日の飯屋の近くだな、港エリアだったか?』
『あぁ、そっちも行くんだ。アイズ様も大変だね。』
そんな会話をしながら、サラサラと文字の練習や例文を書き出していく。小さかったあの頃は面倒だったけど、今は大事なのを実感する。
『アネモネ、まだかかる。紅茶足りてる?』
ノインが料理の仕込みに手が離せない姿を想像しながらクスッとしつつも、念話を返す。
『大丈夫。』
『ライガ、そろそろ戻って。タキシード着る。』
『えぇ、俺もかよぉ。』
『従魔だから。』
どうやら服を着るのが嫌らしく、文句を言いながら帰ってくる気配に、私はふっと笑った。
『服もスマートに着こなすフォレストキャットなんて、ライガだけだよ。見たいなぁ、私。』
『アネモネがいうなら、まぁ着てやるか。』
ライガもチョロいん。
そう思うほど良く思われてるのが嬉しくなって、私は胸に込み上げる気持ちを紅茶と一緒に飲み込んだ。
料理の仕込みを終えて、姿を現したノインはタキシード姿だった。
銀髪とワイシャツ、飾りが夕方の日差しにきらめいてドキッとしてしまう。
あばばばばばばまぶしいいいい!!!
「ライガ。」
ノインはライガに猫用のタキシードを手早く着せると、先程風呂場で洗った銀色の毛並みにタキシードが良く似合っていた。
最後に手足としっぽを整えると、ライガはビシッとタキシードが決まるスマートなフォレストキャットになった。
「カッコいいよ、ライガ。」
『へへっ、たまに着るのはアリだな。』
嬉しそうに姿見の前でくるくる回ったりするライガが可愛くて、私はニコニコしながらタンスを腕輪から出すと、ちょうど見計らったようにドアがノックされた。
「はい。」
ノインがドアを開けると、メリルだったらしく多少の会話の後、私に向き直った。
「ライガ、下に行く。」
『俺もかよ。』
『雄だからダメ。』
渋々ノインと共にライガは出ていく。それを手をふって見送ると、メリルはドアを閉めた。
「さて、始めましょうか。ドレスやコルセット等はどちらですか?」
「あっ、今出します。」
タンスからドレスやコルセット、髪飾り等をテーブルに並べていく。メリルは驚いて目を丸くした。
「たくさんありますね。」
「あはは、有事の際には何かと要りますから。」
と誤魔化したら、メリルはそれ以上何も言わずにドレスや髪飾りを一通り確認していく。
「これだけ揃っていたらあとは着るだけですね。髪型はどうされますか?」
「あ、このアネモネの髪飾りつけたいだけなので、髪型はお任せしていいですか?」
「はい、わかりました。」
メリルは三着あるドレスから黄色のドレスと白のヒールを選んで、他のものはタンスにしまってくれた。
てきぱきとコルセットやパニエを履かせてくれ、あっという間に私はドレスを着ていた。パニエのおかげでふわっとしたスカートになり、胸元だけ開いたドレスにピッタリだった。
「髪型は右側に髪飾りをつけて、左側に全体を流しましょうか。」
とメリルが髪飾りをつけたあとに私の髪を手櫛でまとめたあと、左側へ流す。魔力のようなものを感じて見るとメリルの両手は光を帯びていて、髪を流しながら指先でくるくると巻いていく。すると毛先がカールした髪型に変わった。
「すごい、手間いらずだね。」
「王室にいた際はよく着付けに呼ばれましたね。」
メリルは苦笑いしつつも、アクセサリーなどをつけてくれて終わりとなった。
改めて鏡を見ると、某夢の国にいたお姫様を連想するほどの仕上がりだった。
「これで良いと思います。」
「助かりました、メリルさん。」
私が優雅にお辞儀をすると、メリルも嬉しそうに笑った。
「いえ、本来ならばもっとサービスしたいくらいですから。」
「ありがとうございます!」
そろそろ馬車が来ることもあり、私とメリルは部屋を出る。その際にもドレスを持ったり、と気遣ってもらえた。
大広間で待っていたノインとライガを見つけ、軽く手をふると、一人と一匹は嬉しそうに笑って振り返してくれた。
ちょうど階段を降りたあと、出入り口を見ると今朝見たフードなしのマルスが立っていた。タキシード姿が眩しいほどに似合っている。
「マルス、わざわざ迎えに来てくれたの?」
「あぁ。その、ドレスも似合っているな。」
「ふふ、ありがとう。」
私との会話を横でほほえましく見つめるメリルに気づいたマルスは、咳払いしたのちに出入口を開けた。
「さ、アイズ兄上を待ってるぞ。」




