新たな旅路は 1
朝、部屋を見回して忘れてないかを確認していく。
今日から旅をするから、鎧装備するので動きやすい格好を着替えた。
黒の半袖ハイネック、祭りでつけたあの白い長手袋、濃い紫のスラックスにサイハイブーツ、鎧をヘルム以外身につける。マントは腰までの長さで、ポンチョ型に。武器をしっかりと装備して、イヤーカフのみアクセサリーはつけた。
髪型はひとまとめにお団子にして、アネモネの髪飾りをリボンで留めた。
「アネモネ、マルスが来たよ。」
「今行く。」
部屋から出る前に、使わせて貰ったお礼に部屋に向かって頭を下げた。すぐ部屋を出ると、鍵を閉めた。
大広間に向かうと、いつものフードを被った最初に会った時のマルスが、背中にリュック、エルダの店で手に入れたショルダーバッグとウェストバッグ、と旅支度バッチリの姿で待っていた。
ノインと共に近づくと、メリルがそっとマルスに何かを手渡しているところに立ち会う。
「おはようございます、メリルさん。」
「おはようございます。今マルス坊っちゃまに弁当をお渡ししましたので、道中おめしあがりくだい。」
「ありがとうございます!」
メリルはマルスを見上げて、最後に何やら話し込み出したので、私達はそっと陽風屋を後にした。
やがて、メリルとマルスが出てきて共にお別れをする。
「お世話になりました、メリルさん。」
「こちらこそ。どうぞ、マルス坊っちゃまをよろしくお願いいたします!」
「必ず送り届けます。」
私達はメリルに手をふって離れると、マーシャットに向かう出入口へ歩き出す。
イズリールとは真逆の位置にあるマーシャットが、今日の目的地。"魔の森"に入る前に補給や休息に使われる為、イズリール並に大きいらしい。
「天気は良さそうだね。」
空を見上げて私が言うと、二人は相づちをそれぞれ返してくる。
「道中何もなければ、夕方には着くはずだ。宿は取れるかわからないが。」
マルスがフードを被り直しつつ、前を向く。
今は早朝の為か街の人はまだ動きが鈍いらしく、私達に気づいても特に何も言われない。
昨日の内にアネモネフィーバーは、アイズフィーバーに巻き込まれて、消えていったようだ。
出入口に近づくと、門番の兵士が気づいて声をかけてきた。
「止まれ、身分証明書を。」
「おはようございます、朝から大変ですね。」
と私が微笑みながらギルドカードを差し出すと、門番の兵士が私の顔を見て気づいた。
「あ、貴女は!失礼しました!外出ですか?」
念のため、と私達のギルドカードを受けとり、小屋で確認しながら話しかけてくる。
「いえ、ヴァーレデルドに向かうので。」
「そうですか!もう出ていってしまうんですか。」
門番の兵士がギルドカードを返却しながら、一礼をする。
「ぜひまたアッシャルダにいらしてください。」
「ええ。」
笑みを返して私達は出入口を抜ける。アッシャルダの方を振り返り、私は少しだけ長めに見つめた。
ここでも色々あったな─────。
「行くぞ。」
マルスの声が聞こえて、私は少し離れた位置にいたマルスたちに追い付く。
「マルスはいいの?」
「昨日済ませた。」
あっさりと返すマルスに、私は肩をすくめて後をついて歩き出した。
マーシャットへの道のりは、左側に"神山"を見ながら草原を歩くようだ。土が踏み固められ剥き出しの道を、私達は時に話ながら歩いていく。
この道の先に"魔の森"が見えてきたら、その森を左に曲がる道になり、今度は"魔の森"を左に見ながら、マーシャットへ向かうそうだ。
「"魔の森"が見える頃には昼になるだろうな。」
「じゃ、その近くでメリルさんからもらったお弁当を食べようか。」
そんな話をしながら歩く私達。ノインは先頭を、真ん中に私とマルス、最後にライガという隊列で道を進む。
「───ん、アネモネ。」
「あらら、順調な旅路ではないかぁ。」
ノインが道の先に見えた狼の群れを知らせてくれ、私は右手でスナイパーライフルを構える。マルスも腰から下げていた杖を構え、ライガはその近くで威嚇体勢に変わる。
「まだ気づいてないし、数を減らそうか。」
「わかった。」
私とマルスで遠距離から銃弾と魔法を飛ばす。マルスは光の矢を、私は風の魔力を込めて放つ。真っ直ぐ狼の群れに着弾、6匹程の群れは混乱しているようだ。
ノインはすでに狼の群れに走り出していて、私とマルスは当たらないように再び攻撃を放つ。大体は虫の息になったものを、ノインがとどめをさしていく。
「さすがノイン。私達の初陣があっという間に終わっちゃったね。」
「これくらいあっさり終わる位が楽だ。」
マルスはすぐさま杖をしまうと、周囲を警戒しながら歩き出したので、私とライガもそれについていく。
近づく頃にはノインが狼の群れを火葬していた。
「ノイン、大丈夫?」
「問題ない。」
「火葬まで助かる。」
狼の死体はすぐに灰に変わり、風に吹かれて消えていった。
「グレーウルフか?」
マルスがノインに狼の正体を聞くと、ノインは頷いた。なるほど、とつぶやいてマルスはローブから手帳を取り出して、羽ペンでメモを取っていく。
「何をメモしてるの?」
「この辺りの生態系は、あまり調査が進んでないからな。その情報をマーシャットの冒険者ギルドに報告すると、小遣い位には稼げる。」
「へぇ、なるほどね。」
メモをしまうと火を見つめながらふとマルスが何かを考えているようで、気になって声をかける。
「どうしたの?」
「────いや、何でもない。」
マルスはノインに声をかけ、燃えきった火に土をかけて消していく。
何か悩み事かな?マルスが悩むことって、何だろうな。
天気も変わらず、魔物にも会わずに道を進み、ようやく"魔の森"が見えた頃に昼休憩となった。
左側に見えていた"神山"を飲み込むように"魔の森"が侵食していた。
「うわ、何これ。山食べられてるみたい。」
「そうだよ。」
私の呟きに、ノインがあっさりと肯定する。思わずノインを見ると、近くにいたマルスも当然だと言わんばかり頷いた。
「なんだ、御使い様は知らないのか?」
「む、すみませんでしたー。」
からかっているのか、ニヤリと笑ったマルスに頬を膨らませて不満を言う私。すると、マルスが説明役を買ってくれた。
「この"魔の森"は70年前にはなかった。勇者に倒された魔王の血を吸って汚された樹々が群生してしまって出来たんだ。」
「えっ、じゃあ70年の間に山すら侵食するほど膨れ上がったの?」
「あぁ、未だに他の樹々や大地を蝕んで増えているんだ。」
マルスの言葉に私は腕輪からウィリアからもらった地図を広げる。
確かに地図の大陸を縦断する魔の森があった。
「用意できたよ。」
ノインから声がかかり、この話は中断することにして私達はノインに近づいた。
テーブルや椅子が用意され、その上には弁当箱と小鍋、カップが人数分あった。
「いつの間に。」
マルスはかなり驚いていたが、私は当然のように座るのを見て、同じく座った。ささっとカップに野菜スープと盛るノインを私が手伝って配る。
メリルのくれた弁当箱にはぎゅうぎゅうにサンドイッチをが詰め込まれていたので、種類と数を見ながら均等に分ける。
「いただきます。」
各々がサンドイッチやスープに手をつけ、昼食は始まった。




