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旅立ちの準備 1

今日の目覚めは、最高に良かった。

この異世界に来て、初めて位の爽快な目覚め。


「んー!」


背伸びをすると、ライガを起こさないようにベッドから下りる。


ノインはすでにベッドから洗面所にいるのか、隣の洗面所から水音が聞こえている。


なら、と私は腕輪からタンスを出して、今日の洋服を考え始める。


いくつかの服を出したりしまったりしながら、2着まで絞ったところで、洗面所からノインが来て、おはようと声をかけてきた。


「おはよう、ノイン。今日の予定って、マルスの買い出しの他に何かあるかな?」


「うん、冒険者ギルド。」


「あー、忘れてたね。冒険者なら普通は顔出すんだよね。マルスのことや祭りのことで、すっかり頭から抜けてた。」


そんなことを言いながら、ベッドに広げた2着の服をノインに見せる。


「こっちのワンピースと、こっちのシャツとズボンのセット、どっちがいいかな?」


「こっち。」


ほぼ即答でノインがワンピースを指差した。パッとワンピースを取って、体に当ててみる。


「じゃ、これにしよー。」


さすがにノインの前で着替えられないので、ささっとワンピースと化粧品と共に洗面所に向かう。


顔を洗い、ケアをして、ワンピースに着替えると洗面所から出る。


ノインがライガにブラッシングしてる間に支度を済ませよう。


ワンピースはスカート自体にパニエがついていて、丈が膝下まである。腰に大きなリボンで閉め、全体的にフリルとリボンが多目だ。

下にはやや短めの丈のドロワーズを着ているので見えちゃっても大丈夫のはず。

白のフリルハイソックスに、同色のリボンつきの低めのヒール。

いつもの月光石のペンダントに、真珠のイヤリングにイヤーカフをつけ、髪型はアネモネのカチューシャをするので何もせずにストレート。

マントは胸元の丈のショートカーディガンにし、色合いを薄くするように念じると、透けるような綺麗な水色に変わった。胸元にアネモネの髪飾りを固定する。


一通り姿見でチェックすると、まるでデートに行くように見えた。


「可愛い?」


ノインにそう問いかけると、嬉しそうに微笑みを浮かべた。


『アネモネ、うまそうだ!』


「う、うまそう?」


『ヒラヒラして鳥みたいだからな!』


「あ、そっち。」


ライガに誉められてるのか狙われてるのか、ビミョーな感想が返ってきた。


ちょうどタンスを腕輪にしまった辺りで、ドアをノックする音が聞こえた。


「はーい。」


ドアを開けると、メリルが立っていた。彼女が私を見ると、まぁと花が咲いたように微笑んだ。


「おはようございます、とても可愛らしい洋服ですね。」


「ありがとうございます。」


「マルス坊っちゃまがいらしてますよ。朝食が出来ましたから、大広間に来てください。」


メリルはにっこり笑って去っていった。なんか妙に嬉しそうな顔をしてたな。


「ノイン、朝食だって。マルスも来てるからそのまま出掛けようか。」


と言いながら振り返ると、すでに着替えを済ましたノインが、目をキラキラさせて立ち上がったところだった。


朝から平常運転だね、ノイン。


私達は支度を済ませて部屋とでると、美味しそうな料理の匂いに、朝食の内容を想像しながら大広間に入る。


すでに朝食バイキングが始まっているので、数人の客が料理の前にいた。


マルスの目印である白のローブ姿を探すも、何故か見つからない。


あれ?いるっていってたよね?


「マルス?」


と呼び掛けると、金髪の男性が振り返った。その顔を見てはっきりとマルスだとわかってから、私は近づいた。


「あれ、ローブはどうしたの?」


マルスを見れば、水色のワイシャツに紺のブレザー、ワイシャツと同色のスラックス、革靴というキリッとした私服スタイルだ。


「アレックスに取られた。ローブはあれ一つしかなくてな。そ、その─────似合うか?」


真っ赤な顔をしながら、マルスが私に話しかける。


「似合うに決まってるよ!マルスはカッコいいんだから、何でも似合うんだよ?」


「そ、そうか。た、たまには、こういうのもアリのか。」


マルスは恥ずかしいが嬉しそうに笑った。


はい、心のカメラのシャッター連打ァァァー!!


「アネモネも、すごく、か、可愛らしいぞ。」


やり返すように私にも誉めるマルスだが、そんな真っ赤な顔で言われると、嬉しいんだけどなんかムズムズするわ!


「ありがとう、マルス。」


私がニコッと笑うと、誤魔化すようにマルスは朝食バイキングに向き直る。


「さ、さぁ、朝食食べるぞ。メリルの朝食バイキングはどれも絶品だぞ。」


とマルスが言い切る前に、ノインがすでにバイキングに並んでるのを私達は見つけて、クスッと笑いあった。


────最初に会った頃とは全く考えられないほど、仲良くなった気がする。









朝食バイキングを満喫し、朝食なのにたっぷりと食べた私達は陽風屋を出た。


「買い出しなんだが、そっちは食事や寝床をどうするつもりなんだ?」


「あー、そっか。どうしようか?」


「個人的にはご相伴に預かりたいが、一応どうやって行くかを説明しておこう。」


マルスは手元に地図を広げて、ヴァーレデルド王国への旅路の説明してくれた。


1つはアッシャルダ港から、ヴァーレデルド王国領の港行きの定期船に乗るルート。

もう1つは、アッシャルダから西へ1日歩いた先にあるマーシャットという街から、この大陸を縦に分断するようにある"魔の森"を通るルート。


この2つのルートがよく使われるルートらしい。


「安全を取るなら定期船だが、7日間の船旅になる。多少危険だが、"魔の森"を通るルートは4日で比較的早い。」


「なるほど。」


「で、ここから俺からのワガママになるんだが─────出来れば"魔の森"を通るルートで行きたい。」


そんなマルスの言葉に、私はん?と首をかしげた。


「危険なんじゃないの?」


「わかってる。だが、理由はある。」


マルスは真っ青な顔になりながら、私達にその理由を語り出す。


「────船が嫌いだ。」


「だと思いました。」


「深刻な理由だろうっ!?」


予想通りの返答だったのだが、マルスは真っ青なまま私達に力説する。


「私は船旅したことないんだよね。」


「いいものじゃないぞ?始終揺れるから、落ち着かない。あの閉鎖的な空間に7日もいるのがつらいんだ。」


「へぇ。まぁ、マルスが嫌なら強制はしないよ。私達はマルスの護衛だからね。」


と私が言うと、マルスはホッとした顔を見せた。


「途中、森の中には魔人族や龍人族の集落がいくつかあるが、それ以外は野宿になると思う。」


「魔人族と、龍人族か。」


私は百科辞典で見た内容を思い出す。


魔人族は魔力を生命力とする人型の種族で、魔法の扱いに長け、魔法道具を生み出した偉大な功績がある一方。排他的な種族である悪魔族と誤解されやすいせいで、ほとんど見かけないらしい。


そして、龍人族────ドラゴンとも呼ばれる大きな巨体で豊富な生命力と魔力を持つ種族。挿し絵にはファンタジーによくあるあの姿が描かれていた。

龍人族には何か1つのことにこだわりを持ち、それを極めたり守ったりするのを至高とする為か、1ヵ所から動かないことがおおい。


「魔の森に住む魔人族や龍人族は、他よりも比較的他種族との交流はある。共に友好的だから宿には困らないはず。」


「なら、道中の野宿は少なく済みそうかな。」


とノインを見ると、彼は同意しているのか頷いた。


「んー、食事や寝床はノインにほぼお任せなんだよね。」


「そうか。ノイン、どうするか?」


マルスはノインと話し始めたので、蚊帳の外になった私はライガを構おうと姿を探したが、あの愛らしい毛並みの猫が見当たらずに、キョロキョロする。


『あれ?ライガ?』


『あ、こっちだぜ。』


とある店の辺りから、ライガの気配を感じた。すぐ近くなので私が近づく。


そこは駄菓子屋らしく、店先にはキャンディやラムネ、チョコが包みに入って売られていた。


「すみません、うちのライガがお邪魔しちゃって。」


と声をかけると、そのライガを撫で回して可愛がってる店主の男性が私を見た。


「あ、いえ。可愛らしい猫がいたのでつい。こちらこそすみません。」


「ライガが撫でられて嬉しいみたいですので、どうぞ。」


私の言葉に店主は嬉しそうに笑った後に、ライガを撫で始めた。


『急に姿が見えなかったから、ちょっと驚いたよ。』


『ごめんな。甘い匂いがしたから近づいたら、あっという間に撫でられまくってた。』


ライガがにゃぁあ、と一鳴きすると、店主はまた嬉しそうに微笑んだ。


「商品を見てていいですか?」


「ええ。」


駄菓子のラインナップを見ながら、気になったキャンディやラムネの値段を確認。

いつも朝にもらうノインのお小遣いの入った財布の中身を見ながら、購入を決めた。


「すみません、これとこれを。あ、代金はちょうどあります。」


「あぁ、ありがとうございます。」


いまだにライガの近くから離れない店主にお金とお菓子を見せた。その後、ラムネをライガの口元に寄せると、


『おっ、甘いやつか?』


パクっと口にして幸せそうに喉を鳴らすライガ。店主は驚いた様子だが、ライガの顔を見てほっこりしたようだ。


「へぇ、フォレストキャットもお菓子を食べるんですね。」


「普通のフォレストキャットはわかりませんが、この子は特別、甘い菓子が好きみたいです。」


「気に入ってくれたなら、嬉しいです。」


店主はそうだ、と呟くと私達にちょっと待っててと告げ、奥に去っていった。しばらくすると、紙袋を持って帰って来た。


「形はいびつになってますが、味は同じものです。良かったらどうぞ。」


「ありがとうございます!」


「いえ、最終戦参加者の従魔だったとは知らず、逆に申し訳ないです。」


「そんなこと。ライガを撫でていただきありがとうございました。」


そんな会話をした後に、駄菓子屋から出ると話し終わったノインとマルスが待っててくれた。


「あ、ごめん。待たしちゃった?」


「いや、話がちょうど終わったところだ。」


「で、結論は?」


「ご相伴にあずかる。」


マルスはやや不満げに話す。


「費用は出すと言ったんだが、いらないの一点張りでな。」


「ノインがいらない、っていうならいいと思うよ。気にしないで。」


私がそういうと、マルスは改めて助かる、と私達に頭を下げた。こういうところは律儀なんだよね。


「じゃ、買い出しは続けるの?」


「ああ、事前に世話になってる道具屋にいくつか頼んであるから、それを取りに行こうか。」


マルスは先頭を歩き出したのを見てから、こっそりノインに念話をする。


『で、結局のところ、どんな話し合いになったの?』


『食事は自分が、寝床は自分達がつかうのに泊まる。』


ノインはさらっと念話で答えてくれた。ホントに一緒にって話しにまとまったんだね。


ん?そういや、寝床とは言ったけど私もテントみたいなのに寝るのかな?


『寝床って、テントなの?』


『ちょっと違う。』


『んんん?』


『使うときに教える。』


ノインは心配しないで、と念話で言うので深くは突っ込まなかった。

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