祭りの後を 2
たっぷり和食を堪能し、会計を済ませると先程の玄関にマドカが立っていた。
手には何かの包みをもっていた。
「ほら、土産だよ。持って帰んな。」
マドカから受け取り、そのままいつも通りにノインに渡す。
それを見ていたマドカが、ふぅんと声を出す。
「アンタ達もしかして、ユーリン様の配下かい?」
そんな言葉に、私は一度ノインを見ると彼が代わりに答えた。
「違う。自分たちは天使、御使い。」
「ッ!─────なるほど、世界の危機が迫っているのかい。」
あまりにも早いマドカの理解に、私は思わずビックリした。
今のノインの一言で、マドカがおとぎ話を信じたのだ。
「御使い様とは失礼したね。」
「何故、信じてくれたんですか?」
マドカはあぁ、と頷くと、苦笑いを浮かべながら話し始めた。
「あたしゃ、和国から売られた娼婦上がりでね。こんなでっかい都市で女将なんてやれてるのは、あたしの料理の腕前を買ってくれたユーリン様のおかげなんだよ。」
そんなこともしてたんだ、ユーリンは。
「その過程でユーリン様が料理の属神と知ったのさ。属神様がいるんだ、天使や御使いがいたって不思議じゃないし。」
納得した私を見てか、マドカはそっと私の肩を叩く。
「世界を、よろしくな。」
マドカの優しく重いその想いに、私は頷いた。
「はい。また和国料理食べたくなったら、ここに来ますね。」
「いつでもいらっしゃい。アンタ達なら大歓迎だよ!」
そう言ってマドカと玄関で別れた。
しばらく帰り道を歩きながら、私はノインに話しかける。
「属神って意外と知られてるのね。」
「宗教がやめただけ。語り継がれてる。」
「そっか。ユーリンさんみたいに人を助けたりしてるからかな?」
私の言葉にノインは頷いた。
「よし、ならまだやれることがありそう。」
両手を握ってガッツポーズのように構えると、歩くスピードを早める。
「宿に帰ったらやることあるから。」
「うん。」
真横で歩いていたノインが、嬉しそうに頷いた。
帰り道は静かであっという間に宿に帰り、私達の部屋にあった机で主神へ手紙を書くために、椅子に座る。
腕輪から便箋と羽ペンをだし、さらさらとペンを滑らせる。
『無事、新しい魔帝王を継がせられました。明日から忙しいのに、夕食に誘われました。』
そんな結果報告を書いた後に、ファレンジア神教の話も書いていく。
『あちらの都合で書き換えたのなら、こちらの都合で上書きしてやろうと思ってます。やり方はまだ思い付かないですが、やれることをやっていくつもりです。』
最後には、次の目的地はヴァーレデルド王国でマルスの護衛も兼ねてると書くと、封蝋して宛先を書いた。
ふわっと手紙が浮いて消えたのを見て、ぐーっと背伸びをする。
「お疲れ様。」
先程まで部屋に居なかったノインが、紅茶を差し出した。テーブルにはいつの間にクッキーやキャンディが置かれ、ライガがクッキーをモグモグしていた。
「ありがとう、ノイン。」
「ううん。」
紅茶を口にし、一息ついた。
「ねぇ、ノイン。」
「ん?」
私はノインの横顔を見つめ、なんとなく呼び掛ける。
「今日私がやったことで、変わったかな?」
「変わったよ。」
「変革に、なった?」
「充分。」
ノインは笑った。
今まではにかみ程度だったのに、今はしっかりと笑ったのだ。
「──────良かった。」
私はそれも嬉しくて笑った。
やっと、変革をもたらせたようだ。
一つ肩の荷が降りた感じで、急に気が抜けてきた。
「ふわぁ、気が抜けちゃった。お風呂入って寝ちゃうね。」
「うん。」
『あ、俺も入る!』
ライガとお風呂に向かおうとすると、ノインが私を呼び止める。
「アネモネ、自分はエレルドに行ってくる。」
「うん、気をつけて。主神さんによろしく。」
ノインは頷くと、すっと姿を消した。
さーて、ゆっくりお風呂つーかろー。
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「そうか。」
清廉な空間に、男女の区別がつきづらい中性的な声が響いた。
「報告ありがとう。」
声が聞こえ、同じ空間にいた人物は頷く。
「楽しいかい?」
優しくその声が、頷いた人物へ向けられた。
「はい。」
「そうか、そうか。」
声の主は嬉しそうに言っているのだろうが、その中性的な声にはその気持ちは伝わらない。
「次は、ヴァーレデルド王国かな?」
「その予定です。」
「ファレンジア神教の聖地があったな。」
声は少し弾んで聞こえる。
よほどのことなんだろう、と伺える。
「引き続き、頼んだよ。」
「御意。」
先程の人物がいなくなると、声の主はとても嬉しそうに笑った。
嘲笑ではなく、はにかむ程度に。
「ふむ、あっという間にやってしまうとは。」
見上げた先には満天の夜空。
「──────"今度の"子は、どこまで出来るかな?」




