旅立ちの準備 2
マルスの言った道具屋は城の近くで、大通りよりも一本入った小道の途中にあった。
看板がなければ見失うような、こじんまりとした店のドアをマルスはくぐった。
中は年季の入った古雑貨屋のような内装で、棚にはさまざまな道具やベルト、カバンが並ぶがそれすらおしゃれに飾られていて、私は思わずキョロキョロしてしまった。
カウンターの近くにいたのは、白髪まじりの老婆だが品のよい服装はシワや色落ちしてるのに、何故かそれが彼女に似合っていた。
「いらっしゃい。待っていたわ、マルス。」
「おはようございます、エルダおばあ様。」
エルダと呼ばれた老婆は、優しそうな顔で見上げたマルスをそっと近くによせる。
「ローブはどうしたの?」
「アレックスに取られました。」
「あら、あの子もやるわね。マルスは今の方がいいから、後であの子にはお駄賃あげなきゃあね。」
エルダはうふふ、と品の良い微笑みながらマルスを見上げた。何も言えないのか、マルスは真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。
それを笑ってみてると、エルダが私達に気づいてマルスを見上げた。
「あちらの可愛らしいお嬢さんは彼女かしら?」
「おばあ様ッ!」
マルスの突っ込みと同時に右側から若干の苛立ちを感じて、私は思わず笑みを浮かべて説明をする。
「初めまして。私はアネモネと申します。こちらは仲間のノイン、足元にいるのは従魔のライガ。私達はマルスの旅の護衛を引き受けた冒険者です。」
すっと会釈すると、エルダはまぁと花が咲いたように微笑んだ後に、口元を抑えて後ずさった。
「まさか、マルス。同姓が趣味なの?」
「お・ば・あ・さ・ま・ぁっ!!!」
「ありえない!ありえない!」
マルスが頭を抱えて大声で反論すると、エルダの前に詰め寄ったノインが全力で否定をしに行く。
あら、意外と面白い状態になったね。
「うふふふ、冗談よ。」
「おばあ様、いい加減そういう冗談を止めてください。」
マルスが壮大なため息をこぼして項垂れた。どうやらこのおばあちゃんはそういった冗談をよくするようだ。
「自己紹介が遅れたわ。私はエルダ、マルスの祖母です。こんなちっちゃな道具屋にようこそ、アネモネちゃん、ノインくん、ライガくん。」
エルダはうふふ、と微笑みながら自己紹介を返してくれた。
「マルスにこんな良いお友達が出来て、私は嬉しいわ。」
その祖母の優しさに、マルスは笑みを浮かべて頷いたように見えた。
「はい、私には勿体無い位です。」
と私が答えると、マルスはビックリしたようだがすぐ嬉しそうな笑みに変わった。
「おばあ様、頼んでいた荷物のことですが。」
「あら、ならそこに用意したわよ。」
エルダの指差す先の棚の上には、マルスの背丈を軽く超すサイズのリュックサック、ショルダーバッグが2つ、ウェストバッグが2つ。
それら全てにはパンパンに中身が詰まっていて、リュックサックには棒のようなものまで飛び出すほどだった。
「おばあ様。まさか、これですか?」
「そうよ、これでも減らしたんですよ。」
エルダはいかに大変だったのかをクドクド話し始めたので、マルスは食事と寝床を共有する話で遮った。
「あら、そうなの?」
「ですから、荷物は最低限にしたいのです。」
「じゃあ、何から外しましょうか?」
エルダのその一言から、私達は荷物とにらめっこしながら荷物を減らす作業を始めた。
結果、ショルダーバッグとウェストバッグの各1つで収まった。
「おばあ様、何故折り畳み式ベッドを詰めたんですか?」
「冷たい地面で寝たら、腰に悪いわ。それに"夜の付き合い"にベッドは必須でしょ?」
「おばあ様ッ!!」
動機が不純なエルダに、マルスは再び頭を抱えて項垂れた。こりゃ、大変なおばあちゃんだな。
「あと、ノインくん。これ、マルスが好きなレシピ。良かったら作ってやってちょうだい。」
だが、きちんとしたフォローは欠かさないのがエルダおばあちゃん。受け取ったノインが中身を見て、目をキラキラさせて仕舞ったのを見たので、少しホッとした。
「ありがとうございます。」
「うちのマルスを、どうぞ宜しく頼むわね。」
優しく暖かな声音でエルダは微笑みながら頭を下げた。こちらこそ、と頭を下げた後にエルダはこっそりと、私に近づいて耳打ちをする。
「あの子は奥手だから、がばぁっと襲っちゃっていいからね?」
「おばあ様っ!!!聞こえてますっ!!」
エルダはうふふ、と笑うが本心はマルスを大事に思ってるのがにじみ出ていた。
─────いいなぁ、おばあちゃんって。
私はマルスとエルダをみて、少し羨ましく見つめた。




