確かな絆と 5
「明日に向けて、練習したい。」
とマルスの部屋を後にし、私はノイン達と、天界のエレルドの訓練所にやってきた。
ライガは初めて来るので、来た瞬間から目をキラキラさせて走り回っている。
「さて、ノイン。アイズ様はどれくらいの実力なのか、わかる?」
「今のアネモネなら苦戦する。」
「あれ?そうなんだ。」
こういう時は嘘一つなしのダイレクト発言のノイン。予想してたことよりも、多少悪かったが気にしない程度だ。
「うーん、出来れば光属性のみで、決勝まで乗り切りたいんだよね。」
「それはできる。」
「なら、問題はアイズ様だけか。」
サージュ印の魔導書を見ながら、一通りの光属性の魔法を放ってみる。
ノインもそれらを駆使すれば、アイズ以外は大丈夫だと思うと話した。
次に火属性の魔法を練習する。こちらも一通りの魔法を使ってみるが、問題なく発動している。
「私がアイズ様に苦戦する理由は、やっぱり経験かな?」
「うん。」
「器用貧乏よりも特化してる方が強かったりするからねぇ。」
私は肩をすくめてみせる。器用貧乏といった後に何かできるか考えてふとあることを思い付いた。
「ノイン、これって混ぜたらマズイ?」
と左手に光の玉を浮かべ、右手に炎を燃やしてみせると、ノインは少し考えてから答える。
「属性相性は大丈夫。ただ、やってる人は少ない。」
「あー、そっか。人に宿るのは加護無しでは一つだもんね。」
試しに光の玉と炎を近づけてみると、炎は光の玉を包むように広がり、白い炎をまとった光の玉に変わった。
あ、これは魔導書で見たかも。
「確か、この魔法を生み出した人の命名で、"聖火"だったかな?」
そんなことを言いながら、私はそのまま右手の上に浮かべて、おもいっきり腕をふって放つ。
聖火は弾丸のように飛んでいき、かなりの距離まで飛行したあと、着地と同時に霧散した。
「アネモネ、上手。」
ノインは拍手して誉めてくれた。
「ありがとう。気持ちが落ち着いてるから出来るけど、本番にどうなることやら。」
小さい頃にやってた柔道の試合のピリピリした空気が大嫌いで、中学校が反対側という理由です辞めさせてもらった位に、緊張しすぎると余裕が出来なくてパニクりまくるからなぁ。
「大丈夫。」
ノインが私に自信満々に言い切った。
「自分がフォローする。」
「うん、ありがとう。けど、大丈夫。とりあえずは、出来ることは自分でやってみたいから。」
といってみたものの、心配そうな顔になるノイン。
「にゃっ。」
そんなノインの横に、ライガがやってきてすぐにノインの足に頭を擦り付ける。ノインはライガを抱き上げると、顔を向き合わせた。
「アネモネを頼む。」
「にゃっ!」
たまにノインとライガが顔を向き合わせて、黙って見つめあってたりするんだけど、何か念話でもしてるのかな?
そんなことを疑いつつも、私は空を見上げた。
「そろそろ夕方だね。マルスも起こさなきゃいけないし、ファレンジアに戻ろうか。」
とノイン達に声をかけ、彼らが頷いて私に近づいた時だった。
「ちょっと待ってや、お二人さん。」
そんな声をかかって、二人で振り返ると揺れるビックサイズの桃が白い布に包まれたものが見えた。
「あ、ライラさん。」
「アネモネちゃん、今、胸で判断したやろ?」
「あ、バレました?」
あはは、と笑うとライラは少し優しく笑い返してくれた。
「なんか、感じ変わったな?下界に慣れたん?」
「慣れた、んだと思います。」
「そかそか、良かったなー。ノインも引き続きよろしゅうなー。」
ライラの言葉に、ノインは神妙な顔つきで頭を下げた。
「で、呼び止めたんのは用事があったんよ。ホラ、おいで。」
そう呼ばれて、ライラの後ろからすっとお辞儀するように現れた男性。
白髪が混じる髪は耳までの短髪で、白髭を蓄えた真面目そうな顔立ちの、定年間近の年頃かな。
着ている服は見るからに高そうな絹の服で、明らかに庶民っぽくなかった。
「お初にお目にかかりまする、アネモネ様。」
その柔らかな笑みに何となく見覚えがあり、頭の中で探してる間に、男性は深々と頭を下げた。
「私は、ルドルフ・ルーデルダント・アッシャルダ。マルスの父でございます。」
自己紹介の後に上げた顔を見ると、マルスの面影を見つける。
────まさかの魔帝王だった。
「ま、魔帝王、様。」
「この度は私の不始末で、とんだご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ない。」
また再び頭を深々と下げられたので、慌てて両手でそれを制する。
「えっ、あ、いや。私が勝手に手を出しただけですから。お気になさらないでください。」
渋々と頭を上げたルドルフを改めて見ると、確かにカリスマ性を感じる出で立ちだ。王様、と言われてみれば、確かにそうみえる。
「あれ?失礼ですが、亡くなったのでは?」
「そや?エレルドには、死者が生を終えて新たな命としてファレンジアに下る前に滞在する場所があるんよ。アネモネちゃんには、天国っていったらわかる?」
ライラの説明を聞いて、私は頷いた。
「アタシはそこの管理者でもあるんよ。でなぁ、ルドルフの話聞いたってあげてほしいんよ。」
そうライラに促され、ルドルフは畏まった雰囲気で話し始めた。
「死してなお、どうしてもやり残したことがありまして。生命の属神であり、慈悲深き女神たるライラ様にご相談させていただきましたら、神の御使いのアネモネ様なら、とこうして伺わせて頂きました。」
「やり残したこと?」
難しい言葉が並び、脳の処理が一部しか認識しない状況で、唯一聞き取れた言葉を聞いてみる。
「はい。代々、アッシャルダの魔帝王は、その証として王冠の他に、大錫杖を所持するのが習わしでして。これらを前王から受け取ることで、魔帝王と認められるのです。」
「そう、なんですか。」
「本来ならばすぐに前王と共に国庫の奥にある魔法金庫に保管、封印をしてやり方を見て習うものなのですが────。」
ルドルフは口を濁した。
その前に息子に殺されてしまったから、とは言いにくいよね。
「なるほど。教える前に亡くなってしまいましたから、誰もやり方を知らない状態なんですね。」
と私が続きを察して口にした。ルドルフはすっと懐から金色の鍵と巻物を取り出した。
「この鍵は大錫杖を封じている魔法金庫の鍵で、巻物は私がやり方を記したものです。どちらも私の空間魔法内にあった為に、こちらに持ってきてしまいまして。」
ルドルフが申し訳ない、と差し出したので、私はお預かりしますね。と言って受け取り、腕輪にしまった。
空間魔法内に残したまま死ぬと、エレルドに持ってきちゃうんだね。
「お手数ですが、次の魔帝王か事情のわかるものにお渡し頂きたい。」
「わかりました。必ず渡しますので。」
笑みを浮かべてそう言うと、ルドルフはまた深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ない。こんな老いぼれのワガママを叶えていただき、感謝いたします。」
「いえ、その、気にしないで下さい。顔をあげてください。」
いくら止めても下げまくる腰の低さに、魔帝王なのかと疑いたくなる。
「あ。なら、一個だけ。了承してほしいのですが。」
と、パッと思い付いたことを聞いてみる。
「何ですかな?」
「私がもし、魔帝王になったら、アイズ様を夫にして宰相に据えたいと思ってるので、結婚を許して下さい。」
ピシッ。
この発言に、ルドルフだけでなく私とライガ以外の全員が固まった。
あ、思ったよりも重いジョークになってしまった。
一人心の中でやりすぎたことを反省していると、ふふっと笑い声があがった。
「は、あっははははっ!は、はひっ、ひぃ。はぁ、あかん!アネモネちゃんにはかなわへん!」
ライラが声を上げたかと思うと、お腹を抱えて笑い転げている。
この笑い声が響いたからなのか、ノインも驚愕の表情なら、ふっと顔を緩ませる。
「アネモネ、発想がすごい。」
「それ、誉めてる?」
ノインは誉めてる、と真剣な眼差しで頷いた。
こんなやり取りの中で未だにフリーズ中のルドルフに、ライラが肩を叩いた。ハッと我に返ったルドルフがライラを見る。
「アネモネちゃん、優しいやろ?あんさんの息子さんらが万が一何かあっても、守ってくれるゆーてるんやで?」
「────アネモネ、様。」
少しの間の後、ルドルフはとても幸せそうに笑った。
「私の子供達を、どうぞよろしくお願い致します。」
「はい。」
私も満面の笑みで返すと、ルドルフはまた小さく会釈してすっと溶けるように消えていった。
ライラはそれらを見届けた後、私に近づいて頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ホンマに出来たええ子やな、アネモネちゃんは!」
「いいえ、見た目良くて私に好意的な人にしかするつもりないですよ。」
あー、三つ編みほどけちゃう。と気にした頃にライラは満足したのか、手を離した。
「今回は事情があれやし、アネモネちゃんに引き合わせたけど、普段はこんなにかまってへんのよ。」
「そうなんですか?助かりました。」
私が会釈程度で頭を下げると、ライラは手をふって制する。
「かまへんかまへん。たまにな、こーゆー未練が残る死者が下界に戻ってしまうんよ。可能な限りでかまへんから、話聞いたってな。無理っぽかったら、適当に浄化してええからな。」
「はい、わかりました。」
と了解すると、ライラはまた頭をくしゃくしゃ撫でてニコニコ笑う。
「あんがとなー、アネモネちゃん。何から何まで世話になりっぱなしやな。」
「何を言いますか。この世界に来てから、属神の皆さんにはたくさんの物を頂いてます。少しずつ返していってるだけです。」
私がライラの手を取り、ぎゅっと両手で握る。それが嬉しくてたまらないとこらえる顔になるライラ。
「な、なーに言うてんねん!当たり前やろ!可愛いアネモネちゃんの為や!」
ライラはぎゅっと私を抱き締める。その温かさが何となく母さんを思い出す────と同時に圧縮された豊潤な桃の香りがヤバいです。
「ライラ様、アネモネ困ってる。」
「あ、ああ!すまんなー堪忍してな、アネモネちゃん!」
ノインの注意で慌てたライラは、バッと私を離した。
あぁん、桃に包まれたい人生だったぁー!
「アネモネ、時間。」
「あ、マルス起こさないとね。ライラさん、また会いましょうね。」
「気ぃつけてなー?」
ライラに手をふりながら、私達はファレンジアのアッシャルダへ帰った。
ライラ「あー、ホンマええ子やなぁ。わざわざこっちの世界に来てもらっとるのに律儀やな。可愛いええ子はホンマに扱いやすいわぁ。」
作者「(°Д°)」




