確かな絆と 4
メリルの話と遅めの昼食が終わり、2日分の宿を頼んだ後に、陽風屋を出た。
街中は前夜祭ような雰囲気に変わり、人が出店に立ったりセールを呼び掛ける声で、さらに賑やかになっていた。
まるで訃報が嘘のような騒ぎになっていた。
「まぁ、裏を返せば20年ぶりの新王の誕生、ってことだもんね。」
そんな独り言をして、アレックス達がいる魔法士ギルドへ向かう。
「アネモネ。」
人の波を避けて人通りが少ない道を通りながら歩く中で、ふとノインが話しかけてきた。
「ん?」
「祭りに参加するの?」
「そのつもりだよ。」
私はニヤーっと意地悪な笑みを見せた。
「王様になるの?」
「いや、その気は全くない。」
ノインが不思議そうに首をかしげる。
「私はアイズに魔帝王になってもらいたいの。」
意外そうな顔で私を見たノイン。
「きっと決勝までアイズは勝ち上がるだろうし、それまでに強そうな人を私が片付けちゃおっかなって。」
「何故?」
「んー、完全な自己満足かな。アイズが魔帝王になれば、マルスは安心して旅立てるだろうし、私はコネとして使えるかなぁって。」
ノインは納得した顔の後、微かな笑みを浮かべた。
「アネモネは優しいね。」
「やだなぁ。見た目が良くて、私に好意がある人限定だけどね。」
と再度、意地悪な笑みを浮かべて答えた。
そんな話をしている間に、魔法士ギルドに到着した。
慌ただしく人の出入りがあり、全開の扉からのぞく中にはアレックスやマルスの姿は見えない。
「あらぁ?いないのかな?」
「───こっち。多分、祭りの会場。」
超絶便利な探知機属神ノインの力で、私達は祭りの会場である方向へ歩き出す。
道はアッシャルダ城に近づき、たどり着いた所はかなり開けた広場。
周囲には観客席であろう長椅子が並び、その前にはポールのようなものが等間隔で広場の中央を囲んでいる。
審判席らしきところにアレックスとマルスの姿を見かけたが、慌ただしく指示や作業をしているらしく、声をかけづらかった。
気づくまで待とうかな、と考えた辺りでマルスが私達に気づいて駆け寄ってきた。
「アネモネ、ノイン。二人とも、休んでなくて大丈夫なのか?」
「それはマルスに言いたいんだけど?」
「俺は三徹くらいならしょっちゅうだ。」
「いや、休もうよ!」
思わず突っ込んだ私に、マルスは少しホッとしたような、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「アネモネ、もっと言ってやってくれ。」
マルスの後ろからアレックスが声をかけてきた。彼も疲労がみえるが、休んでるのを知ってるのでそこまでではなさそうだ。
「いつもこうなんです?」
「ああ。困ったもんでね。」
アレックスはマルスの頭を撫でまわすので、マルスは嫌そうな顔をしてるが抵抗せずにしている。
ホントに仲良しなんだね。
「何か手伝えることはありますか?」
「ん?あー、手伝ってもらえるのはありがたいが、ギルド員以外には──────あっ、一つ頼んでいいかな?」
アレックスが何かを思い付いたのか、ニヤニヤしながら私に話しかける。
「出来ることなら。」
「ああ、君が適任だ。」
アレックスはマルスの頭から背中に手を回すと、ドンと私に向かって押した。
突然の行動に、マルスはよろけて私に覆い被さるように倒れた。咄嗟に私が体を支えたが、マルスの顔がギリギリ当たる位に近づき、私は一気に顔を真っ赤してしまった。
あばばばばばばイケメンのご尊顔があああああ近いいいいい近いいいいい!
んあああたまらんのじゃあああああ!
「す、すまん!おい、アレックス!」
マルスも同じように真っ赤になりながら、振り返ってアレックスを見るが、ニヤニヤしながらアレックスは私に向かって片手をあげた。
「そいつを休ませといてくれ。マルス、前夜祭始まるまでお前は休みだ。わかったな?」
「アレックス!まだ設営や魔法機の設定が!」
「アネモネ!任せた!」
マルスの言葉を無視して、アレックスは軽く手をふって一目散に審判席のテントへ向かっていった。
呆気にとられたマルスは、伸ばした手をおずおずと下げる。
そんなほっこりなやり取りを見つつ、心を落ち着かせた私はマルスに近づく。
「さ、マルス。行きましょ。」
と今度は私が背中を叩くと、先程のことを警戒したのかビクッと反応した。
「あはは、大丈夫。突き飛ばさないから。」
「くっ。はぁ、どっと疲れた。」
マルスが深いため息をついて、私に振り返る。その際にやや顔を赤らめながら、マルスは私を見た。
「その、すまなかった。」
「ううん。」
私的には大変満足感のある抱っこですわぁ。とは言わないでにっこり笑う。
「言われた通りに、休ませてもらおう。」
「じゃ、ギルドまで護衛しますよ。王子様。」
「もう王子でもないんだがな。」
マルスは苦笑いしながら歩き出した。
「アイズ兄上から聞いた。ヴァーレデルドまでの護衛を引き受けてくれたんだってな。」
魔法士ギルドの裏門から入り、昨晩の部屋にたどり着いた時に、話したいと持ちかけてテーブルを囲む私達とマルス。
椅子の一つにライガがぴょんと飛び乗ると、すぐに丸まって寝るモードに入った。
「次の目的地を決めてなかったし、むしろ口実ができたから気にしないで。」
「そうか。」
マルスはノインの淹れた紅茶を一口飲んで、ようやく落ち着いたかのようにため息をこぼす。
「その、護衛に関することなんだけどさ。」
チラッとノインを見てから頷くと、ノインは大人しく紅茶をすすり出す。
「護衛するにあたって、正体不明な私達についていくのは嫌でしょ?聞きたいことがあるなら、全部答えるわ。」
「───ほぉ?」
マルスは驚いた顔の後、何から聞き出してやろうかと意地悪そうな笑みに変わった。
あ、そこはアイズとそっくりな笑みだわ。
「なら、一番聞きたかったことからだな。」
マルスはジロッと睨むように私達を見回しながら、はっきりとした口調で話す。
「旅の冒険者、じゃないんだろ?何者なんだ?」
「その冒険者は合ってるのよ。事実、冒険者ギルドには登録はあるし。」
「ただの、冒険者じゃないだろ?いい加減はぐらかさずに話してくれ。」
食い下がるマルスに、私は頬をかきながら笑みを浮かべた。
「今から話すよ。ただ、本当に信じてもらえない可能性があるから、話さなかっただけだってことを理解してもらいたいの。」
「今さらだな。」
マルスはすでに、私の属性やノインの探知魔法に関して、かなり疑っていたしね。
仕方がない、と私は腹をくくって話し始める。
「私は─────"神の御使い"なの。」
人生でおそらく聞いたことすらない言葉なんだろうか、マルスは唖然としたまま固まった。
ノインは私を見ているが、しっくりきたのかうんうんと頷いていた。
「私は偉大なる主神の命により、この世界に変革を起こすために遣わされた、"天使"なのよ。」
「て、てん、し?天使だと!?」
マルスはガタッと立ち上がったので、私がビクッとした。
あ、ヤバいワード使っちゃったかな?
「まさかと思うが、偉大なる主神がファレンジアの危機が迫ると遣わせ、悪しき民には滅亡を、善き民には栄華をもたらすもの───だったか?」
マルスの説明を聞いて、私はにっこりと笑ってみせる。
実は自分の正体を明かそうと決めたときに、ノインと百科事典をひっくり返して、私の正体を説明出来るような有名な逸話を探した結果。
「親が子供に読み聞かせた昔話に、そんな内容があったな。」
マルスの言うとおりの、昔話を見つけたのだ。これを利用しようと、私達は話し合って決めた"設定"というわけ。
「そうね。」
「アネモネが、その天使だと言うのか?」
「正確には違うわ。天使は主神の命のみで動くから融通が利かないのよ。その点、私は自由意思が認められてるの。天使の上位版ね。」
ノインから聞いた天使の話も盛り込んで、話を進める。ビックリして立ち上がっていたマルスはすぐに椅子に座り直した。
「そう、か。」
「ちなみに、ノインは私の全面サポートを任された私だけの天使なの。あらゆることのスペシャリストだから、邪法や人物探知等はお手の物、だったわけね。」
「ノインも、なのか。」
マルスは少し納得した様子だった。
これでとりあえず納得してもらえたかな?
さすがに異世界からきた女子高生と、それのお守りの属神だって説明は、納得してもらえないし。
「私は主神の命を果たすために、様々な加護を属神から賜ってるの。闘争や生命、あと、魔法とかね。」
私がさりげなくそう言うと、合点がいったのかマルスは納得顔が深まってきた。
「だから、俺を助けた時は風で、ダルクの時は光だったか。」
「ちなみに全属性持ってるから。」
「羨ましすぎるな。」
マルスはそんなことを呟いて、紅茶を一口飲んだ。
「何を言うかと思えば、マルスだって加護持ちでしょ?」
「ッ!───それもわかるのか?」
「まぁね。」
と私は笑って誤魔化したが、夢で知ったとは言わないでおこう。
「俺も成人の時に、父上に言われて知ったんだ。自覚はあったが、俺なんかが持つわけがない、って思っていたからな。」
「─────祭りには、出ないのね?」
「ハッ、そこもお見通しか。確かにアイズ兄上にも父上にも参加を勧められたが、俺なんかが魔帝王なんて畏れ多い。研究に没頭してた方が性に合うんだ。」
マルスは自虐的に言いながら、深いため息をこぼす。
「そっ。私は参加するからね。」
「そうなのか?それは主神の命に関することでか?」
「私の自己満足。」
私の言葉にマルスは再び唖然としたまま固まった。
「じ、自己満足ぅ!?」
「うん。」
「全属性の加護持ちである君が挑んだら、アイズ兄上が勝てるわけがないだろ!」
マルスは私をにらみながら怒鳴る。
────ここまで予想通りの反応だと、なんか冷静に受け流せるな。
「まぁまぁ、私も魔帝王になりたいわけじゃないから。参加するのも、アイズ様を確実に魔帝王にするための露払いよ。」
「露払い?」
「そっ。でも、アイズ様の実力が大したことなかったら、遠慮なく王位は頂くからね?」
と意地悪っぽく笑って私が言うと、マルスは渋々頷いた。
「まぁ、アイズ兄上なら問題ないからな。」
やや不安ながら、アイズを信頼しているようでマルスは呟いた。
ふと見れば、少し眠たそうにしているのに気づくと、マルスにベッドを勧めた。
「さ、話は終わりよ。時間までゆっくり休んでちょうだい。ノイン、朝もらった飲み物ある?」
「ん。」
ノインから体力回復の飲み物を受け取り、マルスに勧める。
「私が今こうして元気になった飲み物。不味くないし、効くよ。」
「頂く。ノイン、ありがとう。」
マルスは一気に飲むと、美味しかったのか笑顔になった。




