確かな絆と 2
来客は、全く知らない人だった。
黒髪のミステリアスな美女で、黒のポンチョに黒のドレスという出で立ちだったが、気品のある雰囲気は貴族っぽかった。
「アネモネ様ですね。初めまして、わたくしはクロイアと申します。第二王子アイズ様に、お仕えしております。」
「初めまして、クロイアさん。」
クロイアは社交辞令的な張り付いた笑みで私達に挨拶をした。
うわ、わっかりやすぅ、欠片も思ってないね。
「まずは、昨夜の事を。この国を救っていただきありがとうございます。」
「いえ、当然のことですから。」
私も同じように張り付いた笑みで返してみる。クロイアは気付いているのか、そんな素振りも見せずに話を続ける。
「先程、今後の話し合いが終わりました。」
結論は、この後すぐに魔帝王と王子達の病死、明日の祭りで新たな魔帝王を迎える、と市民に発表することになったらしい。
「前魔帝王の側近のジェルド様が、一時的に魔帝王を代行し、祭りを主宰することになりました。」
「じゃ、祭りはすることになったのね。」
「ええ、どちらにしろ、新たな魔帝王を迎える為の祭りですから。」
クロイアからの話を聞き終わり、私はマルス達生き残った王子達の動向が気になって質問する。
「他の王子様達はどうされるんですか?」
「アイズ様は元々参加する予定で、そのまま参加されるとのことでした。エイル様は辞退されるそうです。マルス様は元々祭りの運営側ですからそもそも参加以前の問題ですわ。」
クロイアは少し高飛車な感じで教えてくれた。
この人、なーんか、感じが悪いな。
「そうでしたか、教えてくださりありがとうございます。」
「アネモネ様達は国賓として引き続きこちらをご利用頂いてかまいません。」
「いや、宿を取ってますので、そちらに移ります。使わせて頂きありがとうございました。」
クロイアの印象が良くないのと、メリルさんの宿を取ってたのに使わないのは勿体ない、というので辞退させてもらう。
「かしこまりました。この後ですが、アイズ様がお会いしたいと申してまして、お手数ですが私室までご案内致しますので来ていただけますか?」
「アイズ様が?」
クロイアが静かに頷いた。私はノインをチラ見すると、彼も問題ないようなので、分かりましたと対応する。
クロイアの案内でゲストルームを出てアッシャルダ城内を歩く。
やがて、一室に着くと先にクロイアが入り、すぐに私達も続いた。
広い室内に様々な調度品が並ぶ、やや芸術性のある部屋で真正面の書斎の豪華な椅子に、アイズは優雅に座っていた。
「やぁ、そこにかけてくれ。」
紅茶や菓子が用意されたテーブルとふかふかしてそうな青色のソファを案内され、私達は言われた通りに座る。
クロイアはアイズに目で何かを合図した後、すっと頭を下げてから退室した。
アイズは紅茶を持ったまま座っていた椅子から、私達の真正面のソファに移動してきた。
昨夜は落ち着いて見れなかったから、改めて見てみるとマルスと目元が良く似ていて、どちらかとダルクをもう少し控えめな感じに見えた。
が、口元には笑みがあっても目が笑っていない、歪な表情だった。雰囲気はすごい優しく見えるのに冷たい笑顔がついて回ってるような、そんな印象を受ける。
「まずは、昨夜のマルスに助力を。そして、愚弟の暴挙を止めていただき、本当に感謝するよ。」
最早、"ダルク"の名前すら呼ばず、愚弟呼ばわりする辺りは、本当に嫌いだったんだな。
「いえ、お話しした通り、私達の目的でもありましたから。でも、最終的に決着をつけたのはマルス様です。」
一応、王子だから"様"とつけておく。
「目的は、果たせたかい?」
「はい。」
アイズの問いにもう満面の笑みで答えると、アイズは納得したようで頷いた。
「今後の話はクロイアから聞いたかな?」
「はい。」
「祭りには参加するつもりかい?」
アイズが少し探るように目を細めた。私はわざとらしく考えるふりをして、ニコッと笑って答えた。
「当日までに考えておきますね。」
「なるべく辞退してもらいたいがね。」
私はアイズに笑ったまま崩さずにいると、彼はまるでなかったかのように話を続ける。
「祭りの後でかまわないんだが、君達に頼みたいことがあってね。」
「頼みたいこと?」
アイズは私達に紅茶を勧めながらそう言った。
ハイ、嫌な予感がびんびんしまぁす!
「マルスのことなんだが。」
アイズはチラッと私を様子を伺うように見た。無論、満面の笑みで返す。
キラキラ愛されスマァーイル☆ミ
「実は以前からヴァーレデルド王国にある魔法研究所から、研究者としてスカウトされていてね。」
あ、無視された。
聞いたことのない国名に、地図を思い出すよりも先にアイズが話を進める。
「あの愚弟のことでずっと断っていたらしいんだけど、急に引き受けたいと言い出してね。祭りの後で出立するつもりのようだ。」
「そう、でしたか。」
あの夢を見たから分かる。
マルスはアイズの近くに居ることで、迷惑かけたくないのだろう。
まぁ、魔法の属神の加護を持ってる、と知られたら、アイズが王位を継げないかもしれないからね。
「本来なら旅路の護衛をつけるんだが、あの愚弟と祭りのせいで、安心して任せられる人材がいなくてね。」
「ああ、なるほど。それで、私達に?」
「話が早くて助かる。どうかな?」
アイズは張り付いた笑みではなく、優しい声音と笑みで私達に尋ねた。それを見て、私は少しホッとした。
なーんだ、異母弟を心配してるんだね。
「ええ、マルス様が良ければ。次の目的地も決めてなかったので、ちょうど良かったです。」
「そうかい、良かった。私からマルスに伝えておこう。本当に助かる。」
アイズは本当にマルスを想っているのか、良かったと言った言葉には、心がこもっていた。
もしかして、表情に出にくいのかな?
「それで、報酬なんだが────こんな事態なので額を用意できるのか相談次第なんだ。」
「ああ、それなら、マルス様の旅支度に充ててください。私達は金銭よりは情報やご縁のが重要なので。」
私の言葉に、アイズは驚愕の表情に変わった。私はノインをチラ見したが、本人は私を見て頷いたら、すぐに紅茶と菓子に手を伸ばした。
「情報、というのは邪法に関することかな?」
「ええ、他の魔法に関することとかも。」
「ふむ、それなら納得するが。ご縁とは?」
アイズが少し困った顔になった。
あ、意味が通じなかったのか勘ぐられたのか。
「そのままですよ。私達と仲良くしてほしいだけです。」
「なるほど、ご縁とはそう言う意味かい?」
「未来の魔帝王様と仲良し、ってだけでも充分助かるんですよねぇ。」
と意地悪っぽく笑ってみせると、アイズは察してくれたらしく優雅な仕草で髪をかきあげた。
「ふふっ。ならば、期待に応えて、明日の祭りは頑張らないといけないようだね。」




