確かな絆と 1
眩しい太陽で目が覚めたものの、重たい体を起こす気力にもならない。
豪華な天蓋のベッドの中でもぞもぞしながら、私は激動の昨夜を振り返る。
あの後、マルスとアイズ、屋敷に避難していたエイルの王子達と、邪法と氷像の刑から解放された大臣達とで、今後の話し合いが始まるという流れになった。
当然、それには一般市民と旅の冒険者であるアレックスと私達は参加するわけにはもいかず、話し合いが始まる前に、アレックスと私達はアッシャルダ城内の豪華すぎるゲストルームで休ませてもらうことにした。
アレックスは別室で、私とノインとライガで一緒の部屋で休むことになった。
無論、なにも言わずにさっさとポニーテールを崩して寝間着に着替えて即寝ですよ。
徹夜同然で戦ったから、気力も体力も限界だったんだもん。
「おはよう、アネモネ。」
ノインは通常営業で朝の挨拶をする。枕元のライガはまだ私と同様で起きる気はないようだ。
「まだ入ってて、いい?」
「ゆっくり休んで。」
「ご飯、先に食べてて。」
それだけ言うと私は再び布団を被ろうとしたが、ノインが待って、と飲み物を差し出した。
「飲んで。体力回復する。」
「エナジードリンク的な?」
私の問いにノインはうなずいたので、遠慮なくイッキ飲みをしてから再び布団に潜った。
「あ、ノインはご飯を先に食べてて。私の分は置いといていいから。」
「起きたら一緒に食べる。」
ノインがそっと腕を伸ばして、布団をかぶる私の頭を撫でる。優しく撫でられてフワフワしたいい気持ちになって、すっと意識が微睡みに落ちた。
──────夢を見た。
誰かの走馬灯を横から見ている気分だった。
皆も祝福された赤ん坊、
偉大なる父と優しく強い母、
冷たい笑顔の母が違う三人の兄、
顔のよく似た黒髪の兄、
罵倒と暴力、黒いもやに怯える日々、
殺意をもって振るわれた剣と赤い血、
逃げるように始めた研究、
誰もが称賛してくれた実績、
同じくらいに罵倒と暴力を見舞う兄、
考えたくない、考えたくない、考えたくない、
母が病死した日の恍惚の笑みの兄、
憎い怖い憎い怖い憎い怖い憎い、
成人になって告げられた、
「ん?」
ふと意識が覚醒する。
さっきよりもスッキリとした目覚めが、逆に夢の内容を鮮明に記憶に残した。
「今のは。」
「おはよう、アネモネ。」
ノインがテーブルからベッドに近づいてきた。
「ノイン、今、夢見た。」
「どんな夢?」
「え?ノインが見せたんじゃないの?」
問われた本人は不思議そうに首をかしげた。私は頭を押さえながらもベッドから体を起こす。
「マルスだったのかな?あの夢は。」
「何を見たの?」
「マルスの人生というか、心の内というか。」
ノインは少し考えた後に、私を見る。
「"共感"した。」
「共感?」
「葬式の時と同じ。夢で感覚や記憶を共有する。悪いことじゃない。」
私があぁ、なるほど。と呟いてベッドから下りる。ノインは起きるの?と心配そうに見てきた。
「もう大丈夫。さすがにそろそろ起きないと。」
と洗面所らしき場所に移動した。バタンと閉じてからふぅとため息をついた。
「────まさか、ねぇ。」
"共感"で知ってしまった記憶の最後の場面。
「────魔法の属神の加護。」
魔帝王が成人になったマルスが告げたのは、悪意のある他者からの干渉を防ぐ為に秘匿されたことらしく、マルス本人にも愕然としていたようだった。
「もし、これが本当なら、マルスが魔帝王に?」
今は亡き魔帝王もそれを望んでいた様子だったが、ダルクのことがあったから今年の祭りに参加してもらえないか、と頼まれたシーンもあった。
「マルスは、王位は拒否したみたいだね。」
着替えつつも先程の夢の終わりを思い出す。マルスは自分には父親のように民を率いる器じゃないと思っている。
確かに自虐的なところはあるけど、加護持ちというアッシャルダでのカリスマ性はある。
今日の服装は、フリルを使ったワイシャツに首に黄色の水晶がついたヒラヒラしたマフラー───ジャボと、濃い紫のスラックスにサイハイブーツ、マントもローブ型にして腰から真ん中を開いて、魔法士スタイルにした。
マントも普段は単色なのだが、何故か念じたように金の装飾がついた。
髪型をどうしようかと漁っていると、ジャボと同じ色の水晶がついた髪留めを見つけたので、髪を三つ編みで右肩から前に流れるような形に結び、髪留めをつけた。ジャボと髪留めが並ぶように見えて、気に入った。
姿見で全身を確認しているとコンコン、とドアがノックされた音が聞こえる。
「アネモネ、客がきた。」
ノインの声が来客の知らせを告げた。




