暗闇は足音なく 5
ダルクの描写がなかったので追加しました。
癖毛のある黒の短髪、褐色の肌、翡翠の瞳。
顔を見た瞬間、マルスとほぼ同じそのイケメンに驚いた。
だが、彼は醜悪な笑みで私達を迎え入れた。
歓迎されていないのが分かるほどの血の匂いと、血だまりの中で苦痛に歪む男性、未だに男性の体に剣を突き刺したままの体勢の青年─────第三王子ダルク。
その今までに経験したことのない光景に思わず吐き気を催しそうになり、何とかこらえる私をよそに、ダルクとマルスの会話が始まった。
「ダルクッ!父上を、殺したのかッ!?」
「ハ、ハハ、ハハハァッ!当たり前だろぉ!?」
そんなことをなかったかのように無視して、ノインがそばに来て私の顔をのぞきこんできたが、私は片手でそれを制してマルス達に視線を向ける。
「マルスは、女連れかァ!アハハハァ!お前は本当にバカだなぁ!あぁ!?」
ダルクは私を見て、下品な笑いでマルスをけなしているが、マルスは怒りに満ちた顔でいるが、無言でそれを無視している。
「なんだぁ?マルスゥ。いつものように怯えた顔で私を見上げないなァ?」
ダルクの言葉に、マルスが杖をギリギリと握りしめる音が聞こえる。
「もうお前には、従わない。」
「あぁァ?!偉くなったなぁ?ひざまづけェ!」
半分チンピラのような言葉を吐きながら、ダルクは片手をマルスにかざす。
咄嗟に私が左腕に魔力を送るが、マルスが杖でこちらを制する仕草をした。
「──────アハハハッ!あぁァ!?聞こえなかったか?ひざまづけよぉ!」
「お前の言うことは、もう聞かない。」
「黙れッマルスごときがァッ!」
ダルクは片手をかざし続けるが、何も起きないことにようやく気づいて、暗い雰囲気に変わった。
「マルス、何をした?」
「打ち破った。」
マルスの一言に、ダルクは驚愕の表情に変わり後ずさった。
「や、破った、だと!?」
「ああ。」
あり得ないッ!と叫ぶと、ダルクは頭を抱えた。その時に、私は左腕にある盾に魔力をこめて構えた。
ダルクの周りには、黒いもやがまとわりはじめたからだ。
一飛びでマルスの前に出ると同時に、ダルクから溢れた黒いもやが一斉に襲いかかってきた。
「守護せよ、神の盾!Invulnerable!!」
私が心の中で考えていた決め台詞を叫ぶと、左腕の盾が光を放ち、黒いもやを吹き飛ばした。
「なっ!?」
「貴方の邪法は、私達には通じない。無駄な抵抗をやめて、諦めなさい!」
残って漂う黒いもやを左腕で払って、右手で構えた銃をダルクに向ける。
ダルクは目の前の出来事が信じられない様子で、ガタガタと震え始めた。
「わ、わた、私の魔法がが、効かない?効かない!効かない!効かない!効かない!効かない!効かない!効かない!効かない!」
最早、私達が視界に入っていないのか、天を仰いでダルクは叫び始めた。
私は背後にいるマルスを見上げて様子を見ると、何とも言えない顔でダルクを見つめていた。
「マルス、どうするの?」
小声で伺うと、マルスはハッと我に返って杖を構え直した。
「話した通り、防御だけ頼む。」
マルスは自身でけりをつけたい、と魔法士ギルドから出てからあの小屋に着くまでに話していた。
私はそれを黙って受け入れたから、今も反論せずにうなずいた。
「あり得ないッ!あり得ないッ!あり得ないッ!マルスごときがァッ!マルスごときがァァァ!」
「それがなければ、違う道があったはずだ。」
マルスが何かを詠唱し始めると、持っていた杖の先端についている水晶には、文字がまとわりつく白い光が溢れ出した。
ダルクはそれを見た瞬間から、泣きわめきながら再び黒いもやを周囲に展開してこちらに放ってくる。
が、先程の動きよりも遅かった。
私は右手の銃に光の魔力をこめて、その黒いもやを撃ち落とす。
「何ィ!?」
「簡単な的当てゲームね。」
と敢えて挑発じみた事をいうと、ダルクは真っ直ぐ私をにらみつけた。
「貴様ァ!下女の癖にィ!」
「ごめんなさぁい。その意味わかんなーい。」
明らかにからかってます、みたいな口調で私が言うと、発狂したまま黒いもやを放ち続ける。
動きが早く小さな黒いもやに変わったが、まだまだFPSの的当てで慣れている私には簡単な方だった。たまに撃ち漏らしたもやは、左腕の盾で振り払う。
その間もわめき散らしながら、ダルクは私に魔法を放ち続ける。私にしか目に入らないおかげか、マルスは詠唱を続けている。
「アネモネ、助かった。」
そう呟いたマルスが杖を天に向けて振り上げる。
「"神光"ッ!!」
水晶から放たれた光の奔流が、天に昇った後に重力にひかれてダルクに降り注ぐ。
「ギャアアアアアアアアアアアア!」
汚い断末魔が響かせるダルクはマルスに手を差し出すも、光の奔流に飲み込まれて姿が消えた。
光が収まった後に、残ったのはダルクが使っていたであろう剣と、差し出していた右手首。
思いの外ヒドイ状態に、私はすっと視線をマルスに向けた。
マルスは居たたまれない顔で立ち尽くしていた。
極度の緊張状態から解放された後の、放心しているのだろう。
「マルス、大丈夫?」
声をかけると、あぁとだけの返答がきた。そんな状況だったので私は銃と盾をしまうと、マルスの回復を待った。
「アネモネ。」
ようやく声がかかったので、私は振り返るとマルスの怒りの表情になっているのに驚いて後ずさる。
「風属性、じゃなかったか?」
マルスの言葉に、あっと私は思い出した。
そういや、マルスには風属性だって誤魔化していたような。
「イヤコレハヒカリノタマヲウチダスジュウデー。」
「俺を助けた時は風を放っていたろ!」
「アレハソウイウマホウデー。」
「ああ!もうわかった!詮索しない!」
マルスが頭を抱えて項垂れたので、私は頬をかきながら乾いた笑いでやり過ごすしかなかった。
「マルス!」
するとドアから救いの神アレックスがアイズと共に近づいてきた。
「だ、大丈夫か!?」
項垂れたのを見たアレックスが心配そうにマルスに声をかける。
「あ、ああ。大丈夫だ。」
「邪法にやられたのか!」
「いや、違うことだ。今は問題ない。」
と明らかに私を睨むマルスに、すっとノインの背中に隠れる私。
アレックスは不思議そうな顔で私とマルスを交互を見て首をかしげた。




